★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

カフェアパート(ホーチミン・シティ)

仕事でベトナムホーチミンシティを訪れた。市内の大通り沿いを歩いているとちょっと気になるビルをみつけた。

 f:id:taamori1229:20190326143604j:plain

元々は普通のアパートであったが、その部屋を改造してカフェ、ブティック、料理店などが裁縫箱のようにお行儀よく並んでいる。カフェアパートと呼ばれているらしい。

一番、最初に目についた「BOO」に入ってみようと決めた。すぐ下の「Michi Sushi」も気になるところだが。それにしてもこの進入禁止のようなマークはなんだろう。

 f:id:taamori1229:20190326143923j:plain

ここはカフェである。店内は、こんな感じ。

 f:id:taamori1229:20190326144101p:plain

進入禁止マークは、実はクマさんであった。
 

 f:id:taamori1229:20190326144425p:plain

ベランダから通りを見下ろす。暮れゆくホーチミンの街並みを見下ろしながらベトナムコーヒーを飲む。

 f:id:taamori1229:20190326161659p:plain


次にもう一軒の「Saigon Oi」に入ってみることにした。

 f:id:taamori1229:20190326162204j:plain

こちらも同じくカフェであった。外から見るのとは違ってかなりおしゃれである。

 f:id:taamori1229:20190326161926p:plain

 f:id:taamori1229:20190326162032p:plain

このカフェ・アパートは夜になるとさらにカラフルで美しい。

 f:id:taamori1229:20190326162610j:plain

さて、このカフェアパートは見ていてどこか懐かしい気分になる。その正体は、かつて原宿・表参道に並んでいたアパート群である。最近は大きなショッピングモールが出現して姿を消したようだが、まだ復刻版が残っている(同潤会アパート)。

 f:id:taamori1229:20190326162849j:plain

盆栽、箱庭に通じる日本人独特の美意識を遠きホーチミンシティで再発見した。

さくらはまだか、ということでさくら展

人目を避けるようにして、さくら展に行ってきた。

 f:id:taamori1229:20190227235208j:plain

 

ccsakura-offici

 

クロウカードの本を開ける、という趣向である。

 f:id:taamori1229:20190227235230j:plain

「絶対だいじょうぶだよ!」声が聞こえてきそうだ。

 f:id:taamori1229:20190227235245j:plain

バトルコスチューム。デザイン・製作は同級生の知世ちゃん。

 f:id:taamori1229:20190227235302j:plain

 f:id:taamori1229:20190227235316j:plain

 f:id:taamori1229:20190227235329j:plain

来場記念のクリアカードを手にして女子率99%の会場を逃げるように後にした。家に帰って久しぶりにアニメを観た。

こちらが最新作クリアカード編

 f:id:taamori1229:20190227235344j:plain

さくらは友枝中学校の1年生。

 f:id:taamori1229:20190227235355j:plain

さくらが台所で調理をする足元には、台がおかれている。これは何か。

 f:id:taamori1229:20190227235411j:plain

話は友枝小学校時代のクロウカード編に戻る。まだ当時はワイドスクリーン仕様ではなかった。

 f:id:taamori1229:20190227235424j:plain

小学校4年生の当時、さくらが台所仕事で使っていた踏み台である。

 f:id:taamori1229:20190227235438j:plain

それがさくらが中学生になってもそのまま残されている、ということである。こういう丁寧な仕事をしてみたいものだ、と思う。

コイントス必勝法

コインを放り投げてキャッチして表か裏かで何かを決める、いわゆるコイントス

   f:id:taamori1229:20190312103416j:plain

 
ここで表か裏をうまくコントロールできないものだろうか、と誰しも考えるだろう。

一番簡単なのは、コインを水平方向に回転させて投げ上げて、  

 
   f:id:taamori1229:20190312103504p:plain


表が常に上になるように投げることである。

   f:id:taamori1229:20190312103542p:plain


このように水平方向の回転を加えることでコインは空中で安定して回転する。その理由については下記の拙稿を参照願いたい。

taamori1229.hatenablog.com

 

でもこのようなあからさまな投げ方をすれば簡単に見破られてしまう。あたかもコインがでたらめに回転しているように見せるような巧妙な手はないだろうか。

水平方向の回転に加えて、垂直方向に回転を加えてみる。

  f:id:taamori1229:20190312103720p:plain


この場合、コインはどのような動きとなるであろうか?

    f:id:taamori1229:20190312103833p:plain


勿論、本当にでたらめな回転になってしまい表裏をコントロールできなくては元も子もない。一見、でたらめに回転しているように見せかけて実は表側だけが上方向を向いている必要がある。

コインの回転運動を解析してその都合のいい方法を導き出すのが本稿の目的である。


空中でのコインの回転運動を記述するには、さらに垂直方向にもう一つの軸を定義する必要がある。この回転軸(ω3)は二つの軸(ω1、ω2)と垂直になるように選ばれる。この3つは慣性主軸と呼ばれている。

   f:id:taamori1229:20190312104129p:plain



空中に飛ばされたコインの回転運動はこれら3つの軸に対するオイラー方程式で記述される。

 f:id:taamori1229:20190312104712p:plain

これに半径a、質量Mのコイン(円盤)の慣性モーメントである、

 f:id:taamori1229:20190312104909p:plain

を代入して、

 f:id:taamori1229:20190312105003p:plain

を得る。①より、

 f:id:taamori1229:20190312105045p:plain

となり、水平方向の回転は一定であることがわかる。これより、②③を初期条件を適当に決めて解けば、

 f:id:taamori1229:20190312105157p:plain

となる。このようにω2ω3は周期的に入れ替わる。この2つは円を描き、コインの垂直方向に対しての歳差運動となる。それは回転するコマの軸のゆっくりした円運動と同じ原理である。このように投げ上げられたコインの回転は決して無秩序なものではなく、周期的な歳差運動になることが示された。これによりコイントスで表裏をコントロールする重要なヒントが得られた。

この空中にあるコインの垂直方向の回転角度は次のように積分で求められる。 

 f:id:taamori1229:20190312105405p:plain

このようにコインの角度は周期的となり、乱雑な回転とはならない。これをグラフに示すと以下の通りである。

 f:id:taamori1229:20190312105438p:plain



これより、ω1,ω2による回転角の最大値は、

 f:id:taamori1229:20190312105516p:plain

である。これを図示すると、

  f:id:taamori1229:20190313092749p:plain


このようにコインはつねに表の面を上にして回転する。このときのコインの傾き具合はω1ω2の比によって決まる。コインを投げ上げたときに、表が常に上方向を向くためにはこの角度の最大値が90°を超えないことが条件となるので、


 f:id:taamori1229:20190312105554p:plain

が得られる。これが小さいと作為が見破られる可能性が高くなる。これを大きくするとコインの傾きは大きくなって一見、コインがランダムに回転しているように見えて好都合なのだが、あまり大きすぎるとコインをキャッチするときに失敗する確率が高くなる。よって、この値が0.4~0.6程度となるようにコインを投げ上げるのがコツであると思われる。

級友、そして球友(後篇)


taamori1229.hatenablog.com


翌日、体育の授業は僕の運命を決めることになる野球の試合だった。


男子が紅組と白組に分かれ5回までの試合をする。女子は審判員と応援団だった。監督も女子がつとめることになり、カオルは僕の属する白組の監督だった。僕はいつもの通り補欠選手なので出番はない。アイツは紅組のピッチャーだった。この野球の試合はアイツがそれを教師に進言して決まったのだ。アイツはスポーツの中でも特に野球が得意だった。僕はアイツがまたみんなの注目をあびたくて言い出したに違いない、と確信していた。

試合が始まるとアイツは我ら白組を相手に三振の山を築いていった。4回が終わるまで全員連続三振だった。白組の監督のカオルは言った。

「だらしないなあ。このままだとパーフェクトじゃない。それも全部三振。だれかなんとかしなさい!男でしょ?」

「あいつはいつもならもう少し手加減してくれるんだけど、今日は本気で投げてくるからあんなの打てっこないよ」

誰かが情けない声で泣き言を言った。


 f:id:taamori1229:20190208120138j:plain


最終回の5回裏、白組の攻撃は早くもツーアウト。勝敗はとっくに決まっているが、アイツの三振パーフェクトの記録も目前であった。アイツは何を思ったのか、そこでタイムを要求して、マウンドを降りてこちらの監督のカオルのところに行き、何やら耳打ちした。カオルはうなずくと主審のところ向かった。その途中で僕の顔をちらりとみて嬉しそうな顔をした。そして告げた。

「ピンチヒッター、青山君!」

僕は驚いた。でも、どうせアイツが昨日のことの仕返しに僕に恥をかかせようとしてるんだろうと思ったのだが、仕方なくバッターボックスに向かった。


確かにアイツの投げるボールは速すぎて見えない。僕は何もできないままツーストライクまで追い込まれた。カオルが声を出した。「ぼーっと立ってちゃだめー!バントならできるでしょー!」そしてアイツは振りかぶると最後のボールを放ってきた。

「走ってー!」

カオルの声で僕は我に返った。見ると、ボールは前進守備をしていた三塁手の頭上を越えて転がり、三塁手が慌てて追いかけているところだった。僕は無我夢中で一塁を目指して走った。慌てていたのでバットは手に握ったままだった。

「セーフ!」

塁審の女子が叫んだ。白組の全員が「やったー!」と歓声を上げて僕のところに駆け寄ってきた。まるで試合に勝ったような騒ぎが始まり、その中心にこの僕がいた。カオルも駆けつけて来た。カオルはマウンドを降りて歩いているアイツをみて、

「てっきり青山君を最後の打者にして恥をかかせるつもりだと思ったのに、だらしないの。がっかりだわ」

と言った。それから僕の前に立って、

「それにしても青山君、よくやったね。見直したわ!」

と言ってくれた。僕の目からは自然に涙がこぼれていた。それは実は内野安打を打ったうれしさとは違うものだった。


さて、アイツはその後、いろいろと事件を起こして高校を中退してプロ野球の選手になった。活躍につれて明らかになったのは彼がプロ野球選手を目指して幼い時から父親と秘密の特訓をしていたこと、そして針の穴を通すようなコントロールを身につけていたことだった。

そう、あの僕の最後の打席のこと。正直に言うが僕はバントをしようとバットを前に出したとき、アイツの投げるボールへの恐怖心から完全に目をつぶってしまったのだ。アイツはその奇跡のコントロールで僕のバットにボールを命中させた上に、内野安打にまでしてくれたのである。

僕はその日を境に生き方を変えた。学業だけでなくスポーツにも真剣に取り組み、今では彼の足元にも及ばないが、実業団野球の選手として少しは名前が知られるようになった。それもすべて素晴らしい級友、そして球友との出会いがあったからこそである。

その素晴らしい友の名は、星飛雄馬という。

 

  f:id:taamori1229:20190208143736j:plain

 

級友、そして球友(前篇)

僕は東京の下町にある高校の1年生。自分で言うのもなんだが、学業優秀で教師からも一目置かれる存在だった。だから僕は教室ではいつでもヒーローでいることができた。

 f:id:taamori1229:20190208115803j:plain

その日も英語の授業中、教師から問題が出たされた。わかる人は?といわれて手を挙げたのは僕だけだった。教師は「また、青山だけか。他には誰もいないのか?」と言って僕の前の席に座っているアイツの名前を呼んだ。アイツはゆっくりと立ち上がってこたえようとするがなかなか答えない。僕は後ろから小さな声でこっそりアイツに答えを教えてあげた。アイツはそれが聞こえたはずだったが答えようとはしなかった。アイツの隣に座っている学級委員長のカオルがそれを聞いていてぴしゃりと僕に言った。「彼は教えてもらった答えをそのまま言うような人じゃないの!」


体育の授業になると僕とアイツの立場は逆転した。アイツはスポーツ万能で、鉄棒でもいつも体操教師にたのまれて模範演技をするほどだった。

 f:id:taamori1229:20190208120009j:plain


僕はそれを見つめるカオルの顔がいつでも気になっていた。教室では見せないような、うっとりとした表情だったからだ。体操教師は今度は僕にやるように言った。僕はスポーツはからきし苦手だった。僕はだらしなく鉄棒にぶら下がっただけだった。教師が、

「おい、青山。もうちょっとなんとかならんのか?」

というと生徒たち全員が僕をみて笑った。カオルも人一倍笑っているのが見えた。かわいい顔をしていても残酷だ、と悲しくなった。なぜ女の子には勉強ができることよりもスポーツができるほうが人気があるのだろうか。実社会に出たときのことを考えたらどちらが偉いかは歴然としているはずなのに。


その日の学校の帰り道、僕は本を読みながら道を歩いていると二人組の学生にぶつかった。制服で分かったのだが彼らは不良で名高い隣の高校の生徒たちだった。僕は「ごめんなさい」と謝ったが彼らは僕に因縁をつけてきた。「本なんか読みながら歩いてんじゃねえよ。お高く止まってるんじゃねえよ」と言って僕の学生服の胸元をつかんで持ち上げた。僕は震え上がった。

 f:id:taamori1229:20190208121456j:plain


そこにアイツが偶然通りかかった。「おいおい、やめろ」不良たちが「なんだお前は?」というとアイツは、

「同級生がからまれてたら助けるしかないだろ」

と答えた。不良の一人がアイツに殴りかかるとアイツはひらりと身をかわして足をすっと前に出すと不良はつまづいて姿勢を崩しかけた。その瞬間アイツはすばやくその不良の腕をとり、振り回したかと思うともう一人の不良の方に向かって放り投げた。二人は頭をぶつけて地面に倒れこんだ。二人はしばらくの間頭を抱えていたが「覚えてろ!」と言い残して不良たちは逃げて行った。


この一連の出来事をカオルと何人かの女子が遠くで見ていたらしく僕たちに近づいてきた。

「すてき!やっぱり、男の子は腕っぷしが強くないとねー」

それを聞いた僕は頭に血がのぼってわめきちらした。

「何を言っているんだ。僕たちは勉強だけしていればいいんだ。だから君のお父さんはちゃんとした仕事につけないんだ!そしてだから君はそんなぼろぼろのセーターしか着れないんだあ!」

僕はそう言い放った後でついいらないことを口走ってしまったことに気が付いた。アイツの家庭が貧しく、父親が定職にもつかず日雇いの仕事をしていることはみんな知っていたことだったからだ。アイツはといえば静かな顔で僕を見ているだけだった。僕はカオルたちの冷たい視線を感じながらすごすごとその場を逃げ出した。


翌日、体育の授業は僕の運命を決めることになる野球の試合だった。

(後篇へ続く)

最後のミッション

あいつが死んだことをあいつの奥方からの電話で聞かされたとき、俺は驚いて言葉が出なかった。しかし、それと同時に最後のミッションが発動されたことを理解した。

あいつの家で催された通夜の席には懐かしい友人たちの顔もちらほら見えたが俺はそれどころではなかった。1階の居間が葬式の会場だった。僧侶が来て経を唱え始めて、俺は早々と焼香をすませた。あいつの写真は俺に「たのんだぞ」と言っているような気がした。俺は帰る風を装って玄関先まで進み、誰もいないチャンスを伺ってそうっと2階に上った。

 f:id:taamori1229:20190220065019j:plain


あいつから部屋の場所は聞いて知っていた。2階の廊下の突き当たりの右側があいつの書斎だ。俺はすぐに気が付いた。あいつの部屋はちょうど葬式が行われている居間のちょうど上だ。足音を立てるとすぐに怪しまれる。慎重に慎重を期さなければならない。

おれは真っ暗な部屋に入るとライターの火をたよりに忍び足であいつの机に向かった。そして電気スタンドの明かりをつけた。部屋の明かりをつけると近所から見えて怪しまれるだろうと思ったからだ。そして香典を包んでいた風呂敷を取り出し、電気スタンドを覆うようにかけて光が机の外に漏れないようにした。そしてパソコンの電源スイッチを押した。年代物のパソコンは低い音を立てて動作を開始した。

 f:id:taamori1229:20190220065406j:plain


立ち上がったパソコンはパスワードを俺に要求してきた。俺はうろたえた。

-パスワードは俺の誕生日だ。

あいつの声が聞こえた気がした。誕生日?冬の季節だった気がするがおぼえていない。もちろん、家族なら知っているだろうが、葬式の席で誕生日を聞くほど失礼な話はない。俺はちょっと気がついたことがあって階下に降りた。葬式の祭壇を見ると右の隅にあいつが死んだ日の隣に生誕の日が小さい字で書かれていた。おれは再び焼香の列にならんで焼香しながらしっかりとあいつの誕生日を読み取った。あいつの誕生日は冬ではなく夏だった。

再び2階に戻った俺はパスワードの入力に成功した。そしてフォルダを眺めて絶句した。100を超えるフォルダが乱雑にならんでいる。ひとつひとつ開けている時間はない。途方に暮れた俺の耳に再びあいつの声が聞こえてきた。

-・・・大切な思い出たちだから・・・

思い出たち。見つけた。確かに「思い出たち」という名前のフォルダがあった。それを開けてみる。その下には数限りない名前が並んでいる。一番最初の「ai」というフォルダを開けてみて俺は思わず苦笑いした。あいつが言ってた通りの内容だったからだ。

俺はすべてのフォルダを選んでいっきに消去した。ゴミ箱もきれいにした。思い出たちというフォルダは残してあげることにした。あいつの生きた証のような気がしたからだ。

パソコンの電源を落としたおれは部屋を出てそっと階下に戻り何食わぬ顔で玄関から外に出た。そして誰もいない家の勝手口に回り、壁に背中をもたれてタバコに火をつけた。

 f:id:taamori1229:20190220070028p:plain


2年前のことだ。俺はあいつと酒を飲んでいると、あいつは急にこんなことを言い出した。

-もしも俺が急に死んだとしたらお前にお願いしたいことがある。
-なんだ、急に改まって。
-葬式の晩、俺の部屋にこっそりとしのびこんでパソコンから女たちの写真を全部消去してもらいたい。家族に見つかったら大変なことになるからな。
-そんなの今消せばいいことじゃないか。

あいつは遠い目をしてこういった。

-それがなあ、消せないんだよ。俺にとっては大切な思い出たちだから。たのんだぞ。


それが生前のあいつを見た最後の晩となった。

こうしてミッションを完了した俺はタバコを吸いながら星空を見上げると、きれいな冬の星座が広がっていた。馬鹿なやつだったなあ、と思った瞬間不意に涙があふれてきた。あいつの死を知らされてから初めてのことだと気がついた。

とんでもおじさんの装置(その2)

前回の続きである。


とんでもおじさんの装置によれば、2本の棒の交点が光を発する。

f:id:taamori1229:20190214121748p:plain

落下する棒の角度をうまく調整することで、光の移動する速度を光速とすることが可能である。


f:id:taamori1229:20190214121854p:plain

この場合、観測者からみると向かってくる方向の光は棒全体が一斉に発光するように見える。つまり、光の速度が無限大(∞)に見えるということである。
 

 f:id:taamori1229:20190214122436p:plain

このことは言い方を変えると、観測者から見ると落下してくる棒があたかも水平に落下してくるように見えるということである。つまり、棒があたかも実際よりも回転したように見えるということである。この角度について考えてみる。前回、絶対時間とみかけの時間について、

 f:id:taamori1229:20190214122846p:plain

という関係式を用いたが、これを使って観測者からのみかけの速度V’を求めると、

 f:id:taamori1229:20190214123019p:plain
となる。これを用いると、落下する棒のみかけの角度θ’は、

 f:id:taamori1229:20190214123134p:plain

となる。θに添えた"1"は、観測者に光が向かってくる場合を示している。ここで定義である、 

 f:id:taamori1229:20190214123630p:plain

を用いることで、

 f:id:taamori1229:20190214123425p:plain

が得られる。光が通過した後についても同様の計算により、

 f:id:taamori1229:20190214123741p:plain

となる。実際問題として、高速cvに比べて非常に大きいので、これらθについては、

 f:id:taamori1229:20190214123908p:plain

が近似的に成り立つ。これによれば、上記の式は、

  f:id:taamori1229:20190214123956p:plain

と単純化が可能である。

これより、とんでもおじさんの装置は、落下してくる棒を観測者から見てみかけ上、

 f:id:taamori1229:20190214181707p:plain

の角度で回転させる装置であることがわかる。

最初に示した例で通り過ぎる光が観測者からみてどのように見えるかを示したのが下図である。

  f:id:taamori1229:20190214125038p:plain


通過前までは棒は水平に落下してくるように見える。やがて棒全体が一斉に発光する。この瞬間、光の速度は無限大である。観測者が向きを変えて前方を見ると棒は突然角度を変えて光の点は光速の半分の速度で進んでいく。

こうして、まっすぐのはずの棒が観測者においては折れ曲がって見える、という事実に遭遇する。
 

 f:id:taamori1229:20190214180650p:plain


図の右のケースは、後方(右側)の棒の傾きが反転している。この場合、光の列が観測者から見て前方、後方の両方向に遠ざかっていくように見える。

ここでは相対論におけるローレンツ収縮は考慮していない。単に光の速度が有限であることだけからくる当然の帰結である。また、とんでもおじさんの装置に限った話でもなく、普通に運動する物体には共通の内容である。とんでもおじさんの装置は手軽に光速を超える運動を視覚的に模擬できてその不思議な世界観を体感できる優れた教材であることは間違いない。