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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

2次曲面の輪郭定理

球形をしたガスタンクを遠くから眺めて見る。ここからだと球のほぼ全体を見ることができる。

  

次にタンクに近づいて見上げてみる。ここからだと、全体はまだ球形のままではあるが見えなくなった部分がある。タンクの下側がせり出して見えて後ろ側はみえなくなった。また、タンクの頂上部分も見えなくなった。

  

このことは、次の図で考えるとわかりやすい。

  

タンクに近づくにつれて視界の範囲はどんどん小さくなっていく。輪郭は球形のままである。この輪郭は平面上にある。そしてその平面は地面から見るとみる人に倒れ込むように傾いている。これが近くからタンクを眺めた時の圧迫感につながっているのだと思う。さて、このような見え方は球形だから起きるのだろうか。そこで他の形のものもを調べてみる。例えばこの神戸ポートタワーである。

  

このタワーの形は一葉双曲面と呼ばれていて、球面と同じく2次曲面の一つである。2次曲面とは3次元空間(x, y, z)において、

 

という形の方程式で表される曲面の全般を指す。球面の場合は、
 
などであり、タワーの一葉双曲面は、
 
などである。2次曲面にはこの2種類以外にもたくさんのバリエーションがある。タンクは①、タワーは②の一種である。

  

 
さて、タワーの話に戻り、タンクの場合と同じように近づいて見上げてみる。

  

下側はタンクと同じように大きく見えて後ろ側は見えなくなってくる。しかし、上側は遠く小さく見えるのは当たり前だとしても、展望台のあたりを見ると、見える周囲が下よりも広がった印象がある。これはこの曲面特有のくびれの部分によって視界が開けているからであろう。全体としてなんとなくだが、タンクの場合とは逆に、後ろ側に反り返っているように見える気がする。同じく、輪郭曲線を描いて調べてみる。

  

このように輪郭は複雑な形の曲線となる。

この輪郭曲線については次の定理が成り立つことが分かった。

【2次曲線の輪郭定理】
全ての2次曲面において、任意の位置から見た時の輪郭の曲線は一つの平面内にある。

この平面のことをある点に対応した輪郭平面、見ている人の地点を輪郭点と定義する。タワーの場合の輪郭平面は、

 

   

このように輪郭曲線は一つの平面内に収まる。特に右の図のようにタワーが空洞でタワー内部も覗けるとした場合くびれ付近が穴のように見えることになるが、その穴の形を輪郭と解釈すると同じく本定理は成り立つ。このことは、これは球面の場合の内部で考えてみると、

   

となり、完全に閉じ込められて輪郭は存在しない。この場合はどう考えるのがいいのであろうか。

さて、本定理はすべての2次曲面で成り立つ。これの証明は線形代数の力を借りることで一般的に導くことができる。証明の過程で2次曲面を中心とした、点、直線、面の不思議な対応関係が導かれ、その中で球面の内部の点からの輪郭平面を定義することも可能となり「任意の位置から」という定理の一般性を保証することができる。以下にそれを説明する。

まず、一般の2次曲面は対称行列Aを用いて、

 

と表すことができる。今後の議論では具体的な式は使わないのであまり説明しない。
この式より、2次曲面上の点x0における接平面の方程式が、
 
であることが導ける。注目すべきはこの式の形である。

 
という式Gを導入すると、Gはx、x0の一次式であるが、

 
が成り立つ。つまり、xとx0は交換可能である。これをGの交換則と呼ぶ。以後の議論はすべてこのGとその交換則だけを用いることだけで説明が可能である。具体的な表記は忘れて構わない。

まず、輪郭曲面が平面上にあることを示す。

  

点x0における接平面G(x|x0)=0は人が見ている点aを通るので、G(a|x0)=0が成り立つ。ここで交換則を適用すれば、G(x0|a)=0。平面A:G(x|a)=0を考えると平面Aはすべてのx0を通る。つまり、平面Aは輪郭点aに対する輪郭平面である。

以上で証明は終わりである。これより、

であることがわかった。証明ではGの交換則だけを使っている。接平面が輪郭平面に巧妙に入れ替わっている。

次に、視点aをある平面上Aで動かして、その時の輪郭平面の動きを観測する。平面Aにある点a1, a2, a3を選んでそれぞれに対応する隣接平面を求めると、G(x|a1)=0G(x|a2)=0G(x|a3)=0であるが、それらの交点Bは、G(x|a1)=G(x|a2)=G(x|a3)=0の解である。その交点bは、G(b|a1)=G(b|a2)=G(b|a3)=0を満たす。ここで交換則を適用すると、G(a1|b)=G(a2|b)=G(a3|b)=0が成り立つ。これより点a1, a2, a3は、全て平面A上の点であり、G(x|b)=0を満たす。つまり平面Aは輪郭点bに対する輪郭平面である。

  

ここでは点と平面の関係が入れ替わっている。この対応関係から、輪郭点はどこにあってもそれに対応した輪郭平面が存在することを示している。例えば輪郭点は球面の内部にあっても構わない。

続いて直線について考えてみる。

  


輪郭点c1、c2の二つを考える。それに対応した2つの輪郭平面C1, C2は、それぞれG(x|c1)=0G(x|c2)=0であり、それらの交線DはG(x|c1)=G(x|c2)=0の解である。直線D上の2点d1, d2を定めると、G(d1|a1)=G(d1|a2)=0、G(d2|a1)=G(d2|a2)=0が成り立つ。ここで交換則を適用すると、G(a1|d1)=G(a1|d2)=0、G(a2|d1)=G(a2|d2)=0となり、これより点a1, a2は、G(x|d1)=G(x|d2)=0を満たす直線上にある。

こうして、2次曲面はある直線をある直線に対応付ける性質があることがわかった。こうして、2次曲面を中心にした、点、直線、平面の不思議な対応関係が成り立つ。

   

  

  

直線の場合についてさらに考察する。

  

直線C, Dが対応関係にあるとき、一方が2次曲線と交わる点を考える。この2点は直線Cを通る平面で2次曲面と一点で交わる点、という形で求められる。

  

この2点を輪郭線端点と定義する。すると次の定理が成り立つ。

2次曲面に対してある直線があり、その直線上を動きながら輪郭を観測すると、

 (1) 輪郭線端点は常に輪郭曲線上に見える。
 (2) 輪郭平面は2つの輪郭線端点を軸として回転するように見える。
 (3) 回転の角度は180°である。

 (4) 回転により、輪郭曲線は2次曲線全体を塗りつぶす。
 (5) 回転により、輪郭平面は空間全体を塗りつぶす。

(5)を証明しておく。対応する直線C, Dがあったとして、空間上に任意の点eを置く。2つの輪郭線端点と点eで作られる平面Eを考えて、平面Eを輪郭平面とする輪郭点fを求めるとそれは直線C上にある。こうして空間上のすべての点に対してある直線C上の点fが存在し、点fの輪郭平面がその点を通ることが可能である。(4)の証明は点eが2次曲面上にある場合で考えればいい。

   


例えば、神戸ポートタワーの場合でタワーの外にそれが見える展望エレベーターがあったとする。エレベーターは無限遠まで伸びているとしたとき、エレベーターの人から見ると、タワーのくびれの両サイドにある輪郭線端点はずっと輪郭として見える。それ以外の点は動く。そして輪郭平面はエレベータの昇降に応じて輪郭線端点を軸として回転するように見える。注意すべきはタワーが無限の高さにあると考えると、エレベーターが必ずタワーに衝突することである。しかしそれも心配は無用である。タワーは透明であると考えると、エレベータはやがてタワーの内部に入り込む。そして入り込んだときには内部からタワーを覗き見るとやはり輪郭曲線と輪郭平面が見える。それらをすべて含めて、上記の(3)(4)は成り立つのである。エレベーターは勿論、タワー内部にあってもいいし、エレベーターに限らず無限に伸びる電車から見ても構わない。

この動作について例を示す。まずは球面でエレベータが球面を通らない場合である。

  

2つの輪郭線端点が一致する方向、つまり直線Dの方向から見た図である。輪郭平面は輪郭線端点からなる回転軸の周りをきれいに廻る。こうして全ての球面上の点、空間を塗りつぶしていく。

次は直線Cが球面内を横切る場合である。 

  

この場合、輪郭線端点は視点は球面の外にある。それでも輪郭平面がそれを中心に回転するという動作は同じである。エレベーターの位置が球面の外、中にある場合で空間の塗りつぶしのエリアが分担される。

最後にタワーの場合で、垂直に動くエレベーターがタワー内に侵入するケースである。

  

エレベーターがタワーの外、内のどちらにいるかによって曲面および空間共に塗りつぶしのエリアが決定される。

以上は、タンクとタワーという代表例で説明したが、証明自体はGがx, x0の一次式であり、その交換則が成り立つことだけを適用している。それは全ての2次曲面でそれが成り立つことが保証されるので上記の定理はすべての2次曲面で成り立つことになる。それぞれの種類別に考える必要はないし、輪郭曲線の形なども気にしなくても構わない。しかし、どこか狐につままれたような感じもする。例えば、下記のような難解な曲面、双曲放物面などでも本当に成り立つのだろうか。

  

エレベーターからこれを見たときの輪郭の挙動については折を見て考えてみたい。