コインを放り投げてキャッチして表か裏かで何かを決める、いわゆるコイントス。
ここで表か裏をうまくコントロールできないものだろうか、と誰しも考えるだろう。
一番簡単なのは、コインを水平方向に回転させて投げ上げて、
表が常に上になるように投げることである。
このように水平方向の回転を加えることでコインは空中で安定して回転する。その理由については下記の拙稿を参照願いたい。
でもこのようなあからさまな投げ方をすれば簡単に見破られてしまう。あたかもコインがでたらめに回転しているように見せるような巧妙な手はないだろうか。
水平方向の回転に加えて、垂直方向に回転を加えてみる。
この場合、コインはどのような動きとなるであろうか?
勿論、本当にでたらめな回転になってしまい表裏をコントロールできなくては元も子もない。一見、でたらめに回転しているように見せかけて実は表側だけが上方向を向いている必要がある。
コインの回転運動を解析してその都合のいい方法を導き出すのが本稿の目的である。
空中でのコインの回転運動を記述するには、さらに垂直方向にもう一つの軸を定義する必要がある。この回転軸(ω3)は二つの軸(ω1、ω2)と垂直になるように選ばれる。この3つは慣性主軸と呼ばれている。
空中に飛ばされたコインの回転運動はこれら3つの軸に対するオイラー方程式で記述される。
これに半径a、質量Mのコイン(円盤)の慣性モーメントである、
を代入して、
を得る。①より、
となり、水平方向の回転は一定であることがわかる。これより、②③を初期条件を適当に決めて解けば、
となる。このようにω2とω3は周期的に入れ替わる。この2つは円を描き、コインの垂直方向に対しての歳差運動となる。それは回転するコマの軸のゆっくりした円運動と同じ原理である。このように投げ上げられたコインの回転は決して無秩序なものではなく、周期的な歳差運動になることが示された。これによりコイントスで表裏をコントロールする重要なヒントが得られた。
この空中にあるコインの垂直方向の回転角度は次のように積分で求められる。
このようにコインの角度は周期的となり、乱雑な回転とはならない。これをグラフに示すと以下の通りである。
これより、ω1,ω2による回転角の最大値は、
である。これを図示すると、
このようにコインはつねに表の面を上にして回転する。このときのコインの傾き具合はω1、ω2の比によって決まる。コインを投げ上げたときに、表が常に上方向を向くためにはこの角度の最大値が90°を超えないことが条件となるので、
が得られる。これが小さいと作為が見破られる可能性が高くなる。これを大きくするとコインの傾きは大きくなって一見、コインがランダムに回転しているように見えて好都合なのだが、あまり大きすぎるとコインをキャッチするときに失敗する確率が高くなる。よって、この値が0.4~0.6程度となるようにコインを投げ上げるのがコツであると思われる。