その島から稲羽(いなば)の浜までずらりと並んだワニの列の中で、一番目の若いワニは、遠い浜辺でシロウサギが列の一番最後のワニに皮をはがされるのを悲しそうに見ていました。なぜならその若いワニは知っていたのです。そのウサギが実は神様であり、まもなく現れる命(みこと)に救われること、その命に天啓を与えることを。そしてかわいそうなウサギの姿をみて涙を流しました。そうなのです。彼はウサギにひそかに恋をしていたのです。
それからしばらくしたある日、その若いワニは稲羽の浜辺を泳いでいると、そのウサギが波打ち際に向かって歩いてくるのを見つけました。命のおかけで元通りの可憐な姿に戻っていました。若いワニは心がときめくと同時に不安を覚えて岩陰に隠れました。仲間があれだけひどいことをしたのだからきっと自分たちを恨んでいるに違いないと思ったのです。でも神様のウサギには隠れても無駄なことでした。
「そこにいるのは分かってるのよ」とウサギが声をかけました。若いワニは、ああ見つかってしまった、と観念して岩陰から顔を出しました。ウサギはワニに言いました。「島まで渡りたいんだけど、船になってくれないかしら?」ワニは困って黙っていました。「私の言うことをきかなくてもいいの?」ウサギはワニが自分に恋をしていることをすっかりお見通しです。ワニは尋ねます。「だって、海の途中で僕を毒針で刺すつもりでしょう?」ウサギは驚いたような顔をします。「まさか!あなたが途中で死んだら私だって死ぬでしょう?」ワニは半分あきらめたように答えます。「はい、分かりました。一緒に渡りましょう」
ウサギを背中に乗せた若いワニが海を渡っていきます。ウサギはちょうど島までの半分くらいまできたとき、毒針で若いワニの背中を刺しました。ワニは海の底へと沈んで行きました。もちろん背中にのったウサギも一緒です。
若いワニは沈んでいきながら言いました。「こういう生き方があってもいいかもなあ」ウサギが尋ねます。「それって死に方のこと?」ワニは少し考えてこう言いました。「生き方と死に方ってどこがちがうのかなあ」ウサギは続けます。「わからないわ。でも確かなのはどちらか一方だけでは足りないってことよね」二人はそんなことを話しながら海の底をめざしていきました。
二人の話を耳にした命はたいそう悲しみました。命は二人の最期の様子を尋ねるとウミガメはこう答えました。「いいえ、それが不思議なことにぜんぜん悲しそうではなかったんです。それはそれは楽しそうに、まるで二人仲良く新しい旅にでも出かけるようでした」









