★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

級友、そして球友(前篇)

僕は東京の下町にある高校の1年生。自分で言うのもなんだが、学業優秀で教師からも一目置かれる存在だった。だから僕は教室ではいつでもヒーローでいることができた。

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その日も英語の授業中、教師から問題が出たされた。わかる人は?といわれて手を挙げたのは僕だけだった。教師は「また、青山だけか。他には誰もいないのか?」と言って僕の前の席に座っているアイツの名前を呼んだ。アイツはゆっくりと立ち上がってこたえようとするがなかなか答えない。僕は後ろから小さな声でこっそりアイツに答えを教えてあげた。アイツはそれが聞こえたはずだったが答えようとはしなかった。アイツの隣に座っている学級委員長のカオルがそれを聞いていてぴしゃりと僕に言った。「彼は教えてもらった答えをそのまま言うような人じゃないの!」


体育の授業になると僕とアイツの立場は逆転した。アイツはスポーツ万能で、鉄棒でもいつも体操教師にたのまれて模範演技をするほどだった。

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僕はそれを見つめるカオルの顔がいつでも気になっていた。教室では見せないような、うっとりとした表情だったからだ。体操教師は今度は僕にやるように言った。僕はスポーツはからきし苦手だった。僕はだらしなく鉄棒にぶら下がっただけだった。教師が、

「おい、青山。もうちょっとなんとかならんのか?」

というと生徒たち全員が僕をみて笑った。カオルも人一倍笑っているのが見えた。かわいい顔をしていても残酷だ、と悲しくなった。なぜ女の子には勉強ができることよりもスポーツができるほうが人気があるのだろうか。実社会に出たときのことを考えたらどちらが偉いかは歴然としているはずなのに。


その日の学校の帰り道、僕は本を読みながら道を歩いていると二人組の学生にぶつかった。制服で分かったのだが彼らは不良で名高い隣の高校の生徒たちだった。僕は「ごめんなさい」と謝ったが彼らは僕に因縁をつけてきた。「本なんか読みながら歩いてんじゃねえよ。お高く止まってるんじゃねえよ」と言って僕の学生服の胸元をつかんで持ち上げた。僕は震え上がった。

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そこにアイツが偶然通りかかった。「おいおい、やめろ」不良たちが「なんだお前は?」というとアイツは、

「同級生がからまれてたら助けるしかないだろ」

と答えた。不良の一人がアイツに殴りかかるとアイツはひらりと身をかわして足をすっと前に出すと不良はつまづいて姿勢を崩しかけた。その瞬間アイツはすばやくその不良の腕をとり、振り回したかと思うともう一人の不良の方に向かって放り投げた。二人は頭をぶつけて地面に倒れこんだ。二人はしばらくの間頭を抱えていたが「覚えてろ!」と言い残して不良たちは逃げて行った。


この一連の出来事をカオルと何人かの女子が遠くで見ていたらしく僕たちに近づいてきた。

「すてき!やっぱり、男の子は腕っぷしが強くないとねー」

それを聞いた僕は頭に血がのぼってわめきちらした。

「何を言っているんだ。僕たちは勉強だけしていればいいんだ。だから君のお父さんはちゃんとした仕事につけないんだ!そしてだから君はそんなぼろぼろのセーターしか着れないんだあ!」

僕はそう言い放った後でついいらないことを口走ってしまったことに気が付いた。アイツの家庭が貧しく、父親が定職にもつかず日雇いの仕事をしていることはみんな知っていたことだったからだ。アイツはといえば静かな顔で僕を見ているだけだった。僕はカオルたちの冷たい視線を感じながらすごすごとその場を逃げ出した。


翌日、体育の授業は僕の運命を決めることになる野球の試合だった。

(後篇へ続く)