前回の続きである。
とんでもおじさんの装置によれば、2本の棒の交点が光を発する。
落下する棒の角度をうまく調整することで、光の移動する速度を光速とすることが可能である。
この場合、観測者からみると向かってくる方向の光は棒全体が一斉に発光するように見える。つまり、光の速度が無限大(∞)に見えるということである。
このことは言い方を変えると、観測者から見ると落下してくる棒があたかも水平に落下してくるように見えるということである。つまり、棒があたかも実際よりも回転したように見えるということである。この角度について考えてみる。前回、絶対時間とみかけの時間について、
という関係式を用いたが、これを使って観測者からのみかけの速度V’を求めると、
となる。これを用いると、落下する棒のみかけの角度θ’は、
となる。θに添えた"1"は、観測者に光が向かってくる場合を示している。ここで定義である、
を用いることで、
が得られる。光が通過した後についても同様の計算により、
となる。実際問題として、高速cはvに比べて非常に大きいので、これらθについては、
が近似的に成り立つ。これによれば、上記の式は、
と単純化が可能である。
これより、とんでもおじさんの装置は、落下してくる棒を観測者から見てみかけ上、
の角度で回転させる装置であることがわかる。
最初に示した例で通り過ぎる光が観測者からみてどのように見えるかを示したのが下図である。
通過前までは棒は水平に落下してくるように見える。やがて棒全体が一斉に発光する。この瞬間、光の速度は無限大である。観測者が向きを変えて前方を見ると棒は突然角度を変えて光の点は光速の半分の速度で進んでいく。
こうして、まっすぐのはずの棒が観測者においては折れ曲がって見える、という事実に遭遇する。
図の右のケースは、後方(右側)の棒の傾きが反転している。この場合、光の列が観測者から見て前方、後方の両方向に遠ざかっていくように見える。
ここでは相対論におけるローレンツ収縮は考慮していない。単に光の速度が有限であることだけからくる当然の帰結である。また、とんでもおじさんの装置に限った話でもなく、普通に運動する物体には共通の内容である。とんでもおじさんの装置は手軽に光速を超える運動を視覚的に模擬できてその不思議な世界観を体感できる優れた教材であることは間違いない。