通勤の日々が始まって気が滅入ることが多くなった僕は、ある日意を決して地下鉄を途中下車した。人形町、小さな居酒屋が立ち並ぶ甘酒横丁。安普請の低い軒の店がこれでもかというほど立ち並ぶ。通りでは肩を組んだ学生たちとすれ違う。開け放たれた店の入り…
就職をひかえた12月8日、からっ風の吹く銀座通り。バイト先の虎ノ門に向かう途中、交差点で信号待ちをしていると、デパートの電光掲示板に読みにくい文字で短いニュースが流れた。「元ビートルズのジョン・レノン氏、ニューヨークで暴漢により射殺」。立…
私の記憶の奥底に静かに眠る、三枚のほのかな幻灯です。3歳まで住んでいた家は雪深い山の中にありました。坂道を幾重にものぼったところです。最後の折り返しにはひとしきり大きな木がありました。我が家の玄関先には一年中風鈴が掛けられていてその下にい…
最近、居酒屋でこれをよく見かける。本当にお得かどうかを数理的に分析してみることにした。 ここで、目の出方のパターンが4通りで示されている。しかしそれぞれの発生確率は実は等しくない。それはゾロ目が偶数であることによる。上記で「偶数」と示されて…
ー寝る前に服はちゃんとたたみなさい!ー起きたら布団はちゃんとたたむこと! 幼いころからいくどとなく聞かされました。我々の生活はこの「折りたたむ」という作業から逃れることはできないようです。 たたむという行動は全体の大きさを小さくする効果があ…
地球温暖化の問題が叫ばれて久しい。ならば、桜の開花時期はどんどん早まっているのではないかと思われるのだがそう顕著でもないように思える。それはどうしてなのか。 桜の木が春になると花をつけるのはそれは昆虫や鳥を集めて子孫を残すためである。だから…
小学生の皆さん、最近の面積の問題は、・ひらめかないと進めない・気づかないと何度も行ったり来たりするそんな迷路みたいな問題が多くなっています。この説明書は、気づかなくても、順番に作業すれば必ず解ける方法をまとめたものです。次の問題を例題とし…
弟が癌で急逝したのは5年前、ちょうどコロナ禍が始まったときのこと。日本中が騒然として自粛ムードと閉塞感が蔓延する中、その葬儀は故郷の福島市で哀しいくらいあっけなく、ひっそりと終わった。その気ぜわしい合間に実家の近所にある笹谷公園を訪れた。…
シゲ爺が亡くなった。祖母はすでに他界していて、爺は趣味の写真に没頭して気ままな一人旅を繰り返している人だった。ある日、旅から帰ると個展を開くと言い出した。たまたま新幹線の隣に座った写真家に勧められたようだ。私たち家族は何もしない本人を前に…
夏の昼下がりに鳴った電話は故郷の市外局番で、実家が残る福島市の水道局から。故郷なまりの担当の人が言うには、誰も住んでいないはずの家からわずかだが水漏れが起きている、原因を確かめてくれないか、と。 水漏れがいまこの瞬間にも発生中とは気分がよく…
桜並木のトンネルの中、ゆるやかな坂道を登っていくと錆びついた鉄柵の門にたどりつく。門には南京錠がかけられ、立てかけられた看板には子供には難しい字と大きな赤い✖印が書かれている。鉄柵の中は雑草がうっそうと茂り、その果てには大きな建物らしき黒い…
Madison郡郊外の湖のほとりの遊歩道で中学校時代の同級生BenとLucyが久しぶりに顔を合わせた。 Ben :あれ?ひょっとしてLucy?Lucy:あら、Benじゃない?Ben :結婚してMadisonを離れたとDickから聞いてたんだけど。Lucy:そうなの。今週は休暇で帰ってきて…
気がつくと私は砂利山の上に座っていました。目の前には二人の少年が立っています。一人が私に声をかけました。―あ、ターちゃん、待ってたよ!アキヒロだ、私はすぐに分かったのですが、なぜか子供時代のアキヒロです。もう一人はアキラ。やはり子供の姿です…
しとしとぴっちゃん秋の夜長に雨は降りしきる♪しとしとぴっちゃん しとぴっちゃん隣の布団の中から弟の歌声が聞こえるドラマ「子連れ狼」の主題歌♪ しとぴっちゃん子供には遅すぎる時間だが二人で母にお願いしてなんとか観れた ♪ 哀しく冷たい雨すだれ水鴎流…
ラーメンという宇宙は、ひとつの丼の中に凝縮されている。湯気立つスープを大地とすれば、麺はそこを流れる河川、具材たちはそれぞれの種族を代表する戦士であった。 だがこの世界に平穏はない。熾烈な具材競争が続いていたからである。覇権を握るのは厚切り…
空は裂け、海は盛りあがり、大地は軋んだ。 世界の終わりは、警告もなく訪れた。戦争に倦んだ人類の叫びをあざ笑うかのように、炎と洪水と嵐が同時に地を覆い尽くしたのだ。都市は崩壊し、国境は流され、言語も文化も一瞬で押し流された。だが――そのただなか…
東海道の宿場町のはずれに、ひときわ変わり者の農家のせがれがいた。名は庄吉。農家の次男である。兄が畑を継いだおかげで、庄吉は家業の責任から少し外れ、暇さえあれば二階の窓にへばりつき、参勤交代の行列を眺めることに人生を賭けていた。 庄吉の目には…
映画エイリアンシリーズは昨年で7作目を数えました。相当頭がこんがらがってきたので整理しようと思い立って作ったのがこれです。作品を舞台となった年代順に並べ、それと作品の公開年との関係を示しています。この結果、頭は依然としてこんがらがっています…
遠い昔に星が生まれ星から生まれた星屑たちが 数えきれない奇跡を重ねてやっとあなたが生まれた 繰り返す日々はいいことだけじゃなくてつらくて泣きたいこともあるけど 一人一人が星くずの響き聴いて命を繋いでる心を澄ませて胸に広がる星の響きに耳を傾けよ…
とある日曜日の朝、少年トムはそわそわしていた。 五歳のトムにとって、教会はたいくつな場所だった。でも今日はちがう。ズボンのポケットには、昨日お父さんに買ってもらったばかりの、小さな青い水鉄砲が入っていた。まだ一度も撃っていない。心ははやる期…
その夜のことを、老人は今でも忘れられずにいる。 幻だったのかもしれない。気のせいだったのかもしれない。けれど、あの光景だけは、ふとした瞬間に蘇り、胸の奥を冷たい指先でなぞっていくようだった。 ある晩、老人は町はずれの坂道を歩いていた。眠れな…
「昔、学校の文化祭で私が不思議の国のアリスの英語劇をやったの覚えてる?」 もちろん覚えてる。彼女が主人公のアリス役。あれ以来、僕たち悪ガキ5人組は彼女のことをこっそりとアリスと呼ぶようになったから。「みんなで一所懸命練習したんだからね。でも…
僕が君に贈ったものは心の翼です君は朝靄の白く立ちこめる公園から誰にも見送られることなく飛び立ちます北国の根雪のような重力から解放されて空色の透き通った自由を謳歌するでしょうそして君は生まれ育った家の屋根瓦の遥か上から九九を学んだ木造校舎を…
その日、雨は静かに降っていた。梅雨にしては肌寒く、どこか不吉な予感を漂わせる夜だった。 佐伯達也は窓の外を見つめながら、笑みを浮かべた。十年間、我慢してきたのだ。この時を迎えるために、あらゆる知識と時間を費やした。彼が勤める中堅IT企業の社長…
21世紀末、東京の一極集中はさらに加速した。 2099年、ついに世界最大都市となった東京は循環する巨大構造物となった。都市の膨張は止まらず、山手線の駅数はついに144を超えた。地上の風景はかつての記憶を残しながらも、すべてが「乗車区間」とな…
ミスターX、彼は自分をそう名乗った。だが、その正体は——五歳児だった。本名は忘れた。いや、あえて捨てた。なぜなら彼はこの世に絶望していたからだ。理由は一つ。天才すぎたのである。 彼は物心ついた頃には、すでに常人の理解を超えていた。積み木を量子…
彼は窓辺で森を眺めているとき空から突然の啓示を受けた。 「カラスは黒いことを証明せよ。生涯をかけても構わない」 彼は考えた。自分の身の回りではカラスは滅多に見かけない。時折、街に買い物に出かけた時に路地裏で見かける程度だ。啓示が示す命題は「…