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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

「AとBのC」な映画タイトル

映画館で「ミラベルと魔法だらけの家」を観た。

   <ミラベルと魔法だらけの家>
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最近、こうした「AとBのC」という形式の映画タイトル(サブタイトルを含む)が多いような気がする。

ここでいうA,B,Cとは次のような定義である。

 条件1:Aは人物を表す。個人でも集団でもいい。
 条件2:BはCの修飾語ならば「の」にはこだわらない。「○○な」でもいいし、助詞が省略されていてもいい。
 条件3:Cは事物を表す(人物であってはいけない)。
 条件4:文節の切れ目は「(A)と(BのC)」である。「(AとB)の(C)」ではない。

この定義によれば「ミラベル」はこの条件に合致する。ほかにもいろいろな映画のタイトルを紐解いてみると、

・「チャーリーとチョコレート工場」は条件2に合致する。
・「アナと雪の女王」は条件3に合致しない。

条件4が最も重要である。

・「愛と青春の旅立ち」や「キティとミミィの新しい傘」は条件4に合致しない。
・「チャーリーとパパの飛行機」も同様に見えるが映画を観てみるとこの飛行機はあくまでパパの所有物なので条件4に合致する。 

日本語の不明瞭さで映画の中身にまで踏み込まないと判断できないものもある。

ということで 20~21世紀にわたる約4万本の映画タイトルから上記の条件に合致するものを検索してみた。結果を下表に示す(全35タイトル)。

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公開年の年代別経緯を下のグラフに示す。

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これらは原題からそうなっているわけではない。例えば、No30の「モアナと・・・」の原題は「Moana」である。つまり、このタイトル形式は日本国内の配給会社の判断によるものである。

この形式の草分け的な存在は半世紀昔、1967年のアニメ映画「アラジンと魔法のランプ」であるが、本格化したのは21世紀に入ってからである。映画のジャンルとしてはファンタジー、アニメに限定される。そのためタイトルに魔法、秘密、謎などの単語が多用されている。

そのきっかけとなったのは「ハリーポッター」シリーズでありそれが大ヒットしたことと考えるのが妥当であろう。「ハリーポッター」についていえば原題もほぼそのままである。

この形式を採用する目的は、まず映画の世界を超えて主人公Aを取り巻く世界が背後に存在することを暗示し、映画はその一断面の出来事(BのC)に過ぎないことを印象付けることで映画の枠を超えた世界観の広がりを持たせることにあると思われる。また、続編が予定されていること、あるいはその期待を込めての意味もあるだろう。

最後になぜ「BのC」とするのだろうか。

それは仮に「ハリーポッターと石」を考えてみれば自明である。

安定滑走定理

◆はじめに

ある曲線からなるレール上をある物体が重力だけで滑走するシステムを考える。代表的な例はジェットコースターであるが滑り台などもその一種と考えられる。ここで物体はレールに固定されずに単純に乗っているだけとする。物体が曲線上を動く中でレールから飛び出すなどの事象が発生せず、レール上を安定して滑走できる条件を考える。ジェットコースターには安全上ロック機構が施されているとは思うがここではそう仮定する。


◆分析モデル

分析モデル化を下図に示す。

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レール、あるいは滑り台の曲線をy=f(x)とする。物体はx=0で高さy0の位置から曲線yの接線の方向に初速度v0で動き出すこととする。また、物体とレールの間には摩擦力は存在しないこととする。エネルギー保存則から、物体の高さyには制限があり、曲線yの形状によらず、

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が成り立つ。滑り台などでは普通初速度v0=0で動き始めるので、当たり前だがその場合は滑り台の高さよりも高い場所には上がることはできない。初速度をつけて滑り始める勇敢な人がいれば話は別である。


◆滑走の運動方程式

レール上を滑走する物体にかかる力は、①重力、②遠心力、③レールからの抗力の3つである。安定して滑走している間はこれらの3つの力が釣り合っている。ジェットコースターなどではループなどを考えると、レールの下を滑走する場合もあるのでA)上側走行、B)下側走行の2つのケースを分けて考える。

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ここでRはレール上の物体の曲率半径である。遠心力の方向は曲線yの2回微分の正負により決まる。③レールからの抗力はレール上を安定で滑走できる条件として重要である。抗力を受けている間は安定して滑走できることを示しており、これが0もしくはマイナスになるとレールから浮いている、あるいはレール軌道から外れてしまっている状況を示す。ここではこれを物体が感じる重力と呼ぶことにする。

2つのケースでの運動方程式は、

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となる。これらから、上側、下側の重力には、

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という関係があることがわかる。ここで、エネルギー保存則、曲率半径の定義などから、

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が成り立つのでこれらを用いると、重力の有無を判定する式として、

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を得る。これを用いると実際の重力はG>0の時だけ存在し、実際の重力Gは、

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などと計算することができる。

安定滑走条件は、この重力GがG>0を満たすことである。エネルギー保存則から式のカッコ内は常に正なので、y’’>0の場合は常に、

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となり、上側滑走は必ず安定走行、下側滑走は不安定で必ずレールから離脱する。

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y’’<0の場合はどちらか一方だけが安定でもう一方は不安定である。

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本式の形を見るとわかるように、yの2回微分が発生する。この2回微分可能性は乗り心地を決めるために非常に重要である。円形ループのジェットコースターについてはかつて次のような事故が発生した。

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  これは下図に示す重力Gが跳躍することにより発生する。

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確かに現代のループは完全な円は採用していない。ループに入るときの曲線に曲率半径が滑らかに変化する曲線が採用されている。

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また無重力空間(g=0)においては、

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と簡略化される。y’’>0ならば上側だけ、y’’<0ならば下側だけが安定である。回転する宇宙ステーションにおいては内側にいれば安定だが、 外にいる人は投げ出されることになる。


◆滑走の具体例

まず前回同様、高さh滑り台を考える。滑り台は上側走行のみである。まずは初速度v0=0の場合を考える。いくつか形状について重力Gを計算した結果を示す。


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直線、2次式の場合は安定に滑れるが、3次式、円型の場合は途中で離れてしまい危険である。多項式型の場合は2次式までは安定だが、3次式以上はすべて途中で離脱する。

次に初速度v0>0を与えた場合を考える。円型の滑り台を例として示す。
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となり、

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初速度がある場合、離脱するタイミングは早め、離脱位置は高い場所となる。
 
次に半径rの円形のジェットコースターで安全に旋回できる最小の進入速度を求める。

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この場合、問題となるのは円の上部の下側を走行するときであり、重力の式はGLとなる。これを求めると、 

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これが最小となるのは物体が頂上に円の頂上にあるとき(y=2r)であり、この時、 
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これがG>0となる条件より、

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が得られる。

さて、円形のジェットコースターで頂上を経由してからその後、途中でレールを外れることはあるだろうか。

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実はこういう挙動になることはない。頂上を経由できればその後は必ず安定して走行する。これは円形の場合に限らない。一般的な線対称な形の場合の重力Gを考える。

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図のように対称で同じ高さの2点A,Bにおける重力を考える。

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2点における重力を考えると、線対称性から、

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が成り立つので、それぞれの地点での重力には、

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という関係が成り立つ。これより、線対称な形のレールを走る場合、

①対応する同じ高さの点には同じ重力が働く。

②G=0となってレールを離脱する条件も一致し、離脱条件が成り立つ場合は 片側で先に離脱する。

③片側で安定走破できれば反対側でも安定して走破可能であり、反対側で初めて離脱するというケースは発生しない。  円の場合もその通りである。

ということが分かった。

次に高さhの放物線型のジェットコースターを安定して乗り越えられる初期速度v0を計算する。

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まず乗り越えるために必要な最低速度はエネルギー保存則から、

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となる。レールから外れないように初速度の上限が定められる。重力Gを求めると、

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となるので、これが正となる条件から、

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以上を整理して、

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が得られる。放物線の高さが高いほど、安定走行可能なv0の範囲は狭くなり、事故は起こりやすくなる。それは直観とも一致する。


次に、下記のようにすべての位置でG=0となる曲線があったとする。

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この場合、

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を満たすことになり、上側、下側をかろうじてレールに沿って走れることになる。これはどのような曲線なのかを考える。まず両辺をxで微分すると、

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となる。よって、

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が解となる。後者は元の式に代入すると1=0となり不適なので、前者のみが可能性がある。この一般解は、xの2次式であり、

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これを代入して初期条件を用いて解くと、θをパラメータとして用いて、

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が得られる。これは高さy0の位置から速度v0、角度θで投げた物体の放物線に他ならない。

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仮にレールを除去しても物体はこの軌跡をたどるのは明白である。こういう特性を持つ曲線は放物線に限られる。

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◆まとめ

最後に今回の安定滑走定理を整理しておく。

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◆応用問題

最後に一つ応用問題を示す。

 円形のレールを持つジェットコースターで進入速度が不足して上る途中でレールをはずれ、円のちょうど真下の部分に落下する事故が発生した。レールから離脱するタイミングにおける角度θを求めよ。

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解答:θ=30°

シン・三角形の合同条件(その2)

3角形の合同には小学生でも気がつくある問題が潜んでいる。

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それは反転している場合を合同としていいのか。ひっくり返さないといけないものを合同と言っていいのか、という問題である。

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確かに3次元の場合の例で靴などを考えてみると左右反対に履くことはできない。これら2つを完全合同、反転合同と区別してみる。前に挙げた3つの合同条件もいずれも区別できない。無理に区別しようと思うと完全合同条件は次のようになる。

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このように3角形の回り方とか、場所を定めて左右というなど大人げない表現を使わざるを得ない。 前回、21の新しい合同条件を提案したがそこにおいてもこれらすべてにおいてこの二つを区別できていない。

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そこで合同と判断された2つの三角形が完全合同なのか、反転合同なのかを判別する方法を考えた。 そのアイディアは2つの三角形を線で結んでみることである。

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対応する点を結んでそれぞれの線の中点をとる。そしてその3つの点の関係を調べてみる。

まず、完全合同の場合である。

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2つの三角形は完全合同で角度θだけ角度をずらしている。それぞれの三角形の重心をg、g’とし、そこから3点に向かうベクトルをa,b,c、a’,b’,c’とする。この時の重心の中心Gから中点A,B,Cに向かうベクトルをA,B,Cとして計算すると、

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 同様にして、

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となる。ここでθだけ回転させる行列をR(θ)と表した。

結果が示すように三角形ABCは元の三角形をθ/2だけ回転させてcos(θ/2)の比率で縮小した相似三角形である。特にθ=180°の場合は、A,B,Cは1点になり三角形ではなくなる。また、特徴的なのは3本の結ぶ線の垂直2等分線が一点Xで交わることである。

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2つの完全合同三角形はこの点Xを中心とした回転で完全にぴったりと重ねることができる(平行移動は不要)。


次に反転合同の場合である。 

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パラメータの定義などは完全合同の場合と同じである。二つの三角形の関係としてはまず、任意の単位ベクトルtを考えてtに垂直な方向に反転させ、その後、θだけ回転させることとする。 ベクトルA,B,Cを計算すると、

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同様にして、

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これより、ベクトルA,B,Cはベクトルtをθ/2だけ傾けたベクトルと垂直な方向であることがわかる。すなわち、点A,B,Cは一直線上にある。 また、この直線を中心に三角形を折り返すとその後、平行移動だけでもう一つの三角形にぴったりと重ねることができる(回転は不要)。  以上より、三角形の完全合同、反転合同に関する定理が得られた。以下に整理する。

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これらの定理は三角形に限らずあらゆる図形の合同条件に適用できる。また、物の本では合同の説明に反転、回転、平行移動でぴったり重ねることができると書かれているがそれは厳密ではない。本定理によれば、完全合同の場合は回転だけで、反転合同の場合は反転と平行移動だけでそれぞれぴったりと重ねることができることがわかる。

シン・三角形の合同条件

三角形の合同条件は算数の定番メニューである。たいてい次のように決められている。

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三角形は3つの辺と3つの角から成り立っている。合計6個の変数があるということである。

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これらを対等であると考えるとどうも合同となるためにはこの6個の中から最低でも3つは一致しないといけないように見える。6個から3つを選ぶ方法は20通りある。3つの辺と角はどれかが特別という訳ではないのでこの20通りがすべて別々ではなくいくつかのパターンに分類される。

まず、この20通りについてパターン分けをしてそれぞれが合同となるか否かを調査した。その結果を次に示す。

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このように合同パターンは4つ、非合同パターンは2つの合計6パターンに分類された。ここで「③」などは組み合わせの数を示している(これを合計すると20になる)。「非合同」とは勿論合同の場合もあるが、合同でないケースも存在する、という意味である。

非合同パターンの一つは「(1)3組の角が等しい」場合である。これはよく知られた相似のケースに相当する。

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これが合同とならない理由は次の式である。

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このようにA,Bなど2つが決まるともう一つのCは自然に決定される。角の一致については2つ分の条件にしかならず3つという条件に届かない。

もう一つの非合同パターンである「(2)1組の辺と両端いずれと両端以外の角が等しい」場合である。

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これは2通りが存在し、一方は合同であるがもう一方は非合同である。これの理由はよく知られた余弦定理の形に依存する。

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この式の中で例えば、2辺(a,c)の長さと角Cが与えられたとき、本定理はbについての2次方程式の形となり2通りの解が存在してしまうのである。

以上示したように、3角形の合同条件については、最低3つが等しいことが必要であり、その3つは独立な3つでなければならない、そして4変数からなる三角形の各種定理において3つを定めた時に4つめが一意に決定される必要がある、ということが条件となりそうである。

さてここまでは算数の範囲を超えていないがこれを数学に格上げしてみる。さらに3つの三角形の変数を追加する。

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こうすると全パラメータの数は9個となる。9個から3個を選ぶ組合せの数は84通りである。この84通りはいくつのパターンに分類されるか、そして合同・非合同パターンはいくつずつであろうか。そしてどんな非合同のパターンが得られるだろうか。

結果は下記のように全部で25パターン。合同パターンが21、非合同パターンが4であった。

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非合同パターンは2つ追加された。一つは「2組の辺と面積が等しい」場合である。これは下図に示すように2通りが存在する。

  

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これは三角形の面積についての次の定理による。これを満足するθは2つ存在することによる。

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そしてもう一つの非合同パターンは「1組の辺と両端でない角と外接円の半径が等しい」場合である。

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これは次の公式より、2通りの角が存在する上に円周角の定理(3変数)によって数限りなく存在してしまうという複合的なケースである。

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こうして算数から数学に格上げしたことで21個もの合同条件を導くことができた。これらはすべて証明したわけではなく、直感的に判断したものも多い。具体的な活用シーンでは(そんなことがあれば、だが)事前に証明することをお勧めする。

この中から一つだけ証明しておく。パターン21は「面積、内接円の半径、外接円の半径が等しい」場合であるが辺、角が一つも登場していないケースである。やや複雑な計算の結果、三角形の3辺(a,b,c)は、次の3次方程式の解に対応し、その一意性から合同であることが保証される。

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逆立ちゴマ

これは友人であるF君からもらったお土産である。

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普通に軸を上にして回転させると次第に球形の方が上に持ち上がっていき最後は軸を下にして逆立ちして回転するようになる。いわゆる逆立ちゴマである。同じような挙動はゆで玉子でも見られる。丸い方を下にして回すとやがて丸い方が上側となって回る。どちらも重い方が上になっていくのでまるで逆立ちしたような印象となるのである。

この不思議な逆立ち動作をさせるのは地球からの重力であろうか。そこでコマを回転させながら空中に放り投げてみる実験をしてみる。しかしコマは安定して回転するだけで、逆立ちするような動きにはならない。つまり単純な重力が原因ではないということである。次に考えられるのはコマが回っているときの床面から受ける力の影響である。

逆立ちゴマの運動を解析するために、各種パラメータを次のように定義して実際に逆立ちするまでの時間Tを求めてみる。


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コマはほぼ球形であると考えてよい。また角運動量Lはほぼコマの中心から鉛直を向いていると考えてよい。摩擦力FによるモーメントをNもほぼ水平方向と考えられる。コマと一緒に回転する座標系での運動方程式は、オイラー方程式の形で、

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として与えらえる。このコマがほぼ完全な球であると想定すると、角運動量Lは慣性モーメントIを用いて、

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となり、ω x L の項は"0"となるので、オイラー方程式は、

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となる。でコマの軸方向(k)の成分を考えると、

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が成り立つ。これについては、

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という作図から、

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が成り立ちこれを代入すると、

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を得る。これにより、角運動量L、摩擦力によるモーメントNが一定ならばコマは一定の速度で立ち上がっていくことがわかる。つまり、逆立ちゴマを逆立たせる原因は床面から受ける微小な摩擦力なのである。本式から逆立ちするまでの時間Tは、

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となる。この時間は摩擦力が大きければ大きいほど短い、つまり短時間で逆立ちすることがわかる。これはつるつるの床(例えば机の上)とざらざらの床(例えば絨毯の上)で実際に比較してみるとわかる。また、角速度が大きいほど、逆立ち時間は大きくなる。コマをゆっくり回したほうが早く逆立ちしてくれることになる。

以上よりコマを早く逆立ちさせたいならば、ざらざらの床面でゆっくりと回すことがコツとなる。

さらに摩擦係数μを導入して、具体的なコマの慣性モーメントなどの関係式、

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などを用いて計算すると、

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となる。ここで登場したについて考えてみると、

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この図のように回転するコマの赤道部分の表面の速度Vに等しい。よって、最終的に

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を得る。逆立ちまでの時間は摩擦係数μが大きいほど、そして回転速度が小さいほど短くなるが、コマの重さには依存しない。

具体的な時間を計算する。コマの半径を1cm、回転数を毎秒20回転とすれば、回転速度Vは1.3m/秒。摩擦係数μはなめらかな床を考えて0.1とすればTは1.6秒となる。

セルンの憂鬱

スイスの素粒子物理学者であるセルンは憂鬱な日々を過ごしていた。

セルンは素粒子物理学の発展にかかせない電子と陽電子の粒子加速器の建設を提案した。提案が採用され完成したのは1989年のことだった。そこからすでに10年が経過していたのだが目立った成果はまだ出せていない。最近では若い科学者たちの関心は重力を作り出す粒子の方に移っていて新たな粒子加速器を提案する動きも出始めている。セルンとそのチームはそんな焦りの中にいた。

セルンたちが抱えている問題は粒子加速器を加速するために必要な磁界の制御がうまくいっていないことだった。正体不明のノイズにより粒子の加速が思うようにできない。セルンはデータを眺めてみた。 

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これらは年間を通した季節変動と一日の中の変動であり、それぞれ特徴がある。

ーこのノイズの正体がつかめてそれが対策できればいいのだが。

ちょうど季節は春で磁界ノイズが増加し始めていた。ノイズの影響で実験もうまくいかないのでセルンは気分を変えてみようと研究所を抜け出してレマン湖のほとりを散策していた。レマン湖は研究所から2km程度の距離にあるアルプスの膨大な水をたたえた美しい湖である。セルンは湖のほとりにあるベンチに座って湖水とその背景にあるアルプスの山々の稜線を眺めていた。山々の雪は解けかかり美しいモザイク模様を描き始めていた。レマン湖にもその雪解け水が流れ込んでいて湖面はいつになく高く、豊かな水をたたえていた。

セルンはそのとき磁界のノイズはデータが頭をよぎった。あのデータもちょうど3月下旬の今頃に急に増えてきてそれが夏まで続いている。セルンは叫んだ。

-そうか、あれは雪解け水だったのか!

セルンは思わず駆け出してレマン湖のほとりのコルナバン駅まで行き、電車にのって研究所へと急いで引き返した。研究室に走りこむとその仮説をみんなに披露した。誰かがレマン湖の湖面の高さの変化のデータを持ってきた。もう一人は湖の水量の変化を計算してそれから重力を導き出し、それをもとに加速器にかかる引力から形状の変動量を計算して言った。

-1mmです!

加速器レマン湖の湖水からの引力の影響を受けて変形するのである。その量は1mm程度ではあるが、粒子のレベルでみるとその影響は計り知れない大きさとなるのである。こうして磁界ノイズの謎の一つが解けた。

続いて一日の変動である。セルンは一日周期のゆったりした変動の原因はなんだろうと考えた。レマン湖の影響のアナロジーからセルンはすぐに気が付いた。セルンはカレンダーを取り出してそれとデータと比較してみて叫んだ。

-これは月だ!

セルンがみていたのは月齢カレンダーであった。一日周期の変動の要因は潮の満ち干だったのだ。スイスという国は内陸奥深くにあって勿論海は遠く離れている。しかし地球規模の潮の満ち干による海水の移動量はレマン湖よりもはるかに巨大だ。それを受けて重力が微小に変化し、加速器に微弱な影響を及ぼしているのだった。それまでスイスに住んでいて気にしたこともなかった海からの影響を目の当たりにして素粒子との戦いは地球規模のスケールとの戦いも含んでいることに物理学の奥深さを実感させられた。しかし、まだ謎は残っている。

残るは一日のデータで観測されるパルス状のノイズであるが、発生の時間帯をみると朝5時くらいから深夜まで続いている。セルンは一日の最初のパルスの時間を正確に記録して国営鉄道TGVに電話をかけた。そしてジュネーブ発パリ行きの始発電車の発車時刻を尋ね、その答えを聞くとにやりと笑った。そう、電車が研究所を通り過ぎる時刻とパルスの時刻は完全に一致していたのであった。このパルスノイズの原因は研究所の近くを通り過ぎる電車の影響だったのである。

こうしてすべての謎を解明したセルンとチームのメンバーは小躍りして喜んだ。

さて、セルンたちの次の仕事はこのノイズの対策である。レマン湖の湖水、そして地球規模の潮の満ち干、そして電車からの電磁波影響の除去である。それは苦難の道のりだった。そしてその道半ばで突然の悲劇が訪れた。今の加速器プロジェクトの中止と新たな加速器の建設が同時に発表されたのである。それは2000年のことであった。11年をかけたプロジェクトは華々しい成果を上げることなく終了を余儀なくされた。

セルンはプロジェクトの終了とともに研究所を去ることにした。研究所での最後の日、研究室に一人残って資料やデータを整理していた。加速器のデータは膨大にあったがほとんどノイズを測定したに過ぎなかった。セルンはそれを床に並べて眺めた。プロジェクトには膨大な費用をかけたが、結局の成果はレマン湖の湖水面の高さ、潮の満ち干、そして電車の時刻を測定しただけだった、それも誰にも負けないほど正確に、と苦笑いを浮かべた。潮の満ち干などこの山国スイスでなんの役に立つというんだろう、と思い至った瞬間、とある考えを思いついた。セルンはデータをカバンに詰め込むと研究所をあとにした。それを見かけたよるとその時のセルンは颯爽とその顔は希望に満ちていたという。

そしてその成果は2003年すぐに現れ、新聞をにぎわすことになった。

 

■ 2003/3/3 スイス新聞

海に接していない「大陸の島」スイス。アルプスの国スイスが「海洋戦争」で最後の勝利を収めた。2日、ニュージランドのハウラキ湾で行われた第31回アメリカズカップ(ア杯)ヨット大会決勝戦の第5戦。スイスの「アリンギ・チャレンジ」号は大会2年連続優勝に輝くニュージランドの「チーム・ニュージランド」号を45秒差で破り、見事優勝を勝ち取ったのである。スイスの大統領は「海のない山登りが伝統の国がヨット競技で勝つことができたというのは、スイスという国が人々を驚かすことができるという証拠だ」とコメントをした。勝因は?と尋ねられると「我々は潮の満ち引きを世界のだれよりも精密に知っているからだ」と答えた。

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*これは完全なフィクションである。