これは友人であるF君からもらったお土産である。
普通に軸を上にして回転させると次第に球形の方が上に持ち上がっていき最後は軸を下にして逆立ちして回転するようになる。いわゆる逆立ちゴマである。同じような挙動はゆで玉子でも見られる。丸い方を下にして回すとやがて丸い方が上側となって回る。どちらも重い方が上になっていくのでまるで逆立ちしたような印象となるのである。
この不思議な逆立ち動作をさせるのは地球からの重力であろうか。そこでコマを回転させながら空中に放り投げてみる実験をしてみる。しかしコマは安定して回転するだけで、逆立ちするような動きにはならない。つまり単純な重力が原因ではないということである。次に考えられるのはコマが回っているときの床面から受ける力の影響である。
逆立ちゴマの運動を解析するために、各種パラメータを次のように定義して実際に逆立ちするまでの時間Tを求めてみる。
コマはほぼ球形であると考えてよい。また角運動量Lはほぼコマの中心から鉛直を向いていると考えてよい。摩擦力FによるモーメントをNもほぼ水平方向と考えられる。コマと一緒に回転する座標系での運動方程式は、オイラー方程式の形で、
として与えらえる。このコマがほぼ完全な球であると想定すると、角運動量Lは慣性モーメントIを用いて、
となり、ω x L の項は"0"となるので、オイラー方程式は、
となる。でコマの軸方向(k)の成分を考えると、
が成り立つ。これについては、
という作図から、
が成り立ちこれを代入すると、
を得る。これにより、角運動量L、摩擦力によるモーメントNが一定ならばコマは一定の速度で立ち上がっていくことがわかる。つまり、逆立ちゴマを逆立たせる原因は床面から受ける微小な摩擦力なのである。本式から逆立ちするまでの時間Tは、
となる。この時間は摩擦力が大きければ大きいほど短い、つまり短時間で逆立ちすることがわかる。これはつるつるの床(例えば机の上)とざらざらの床(例えば絨毯の上)で実際に比較してみるとわかる。また、角速度が大きいほど、逆立ち時間は大きくなる。コマをゆっくり回したほうが早く逆立ちしてくれることになる。
以上よりコマを早く逆立ちさせたいならば、ざらざらの床面でゆっくりと回すことがコツとなる。
さらに摩擦係数μを導入して、具体的なコマの慣性モーメントなどの関係式、
などを用いて計算すると、
となる。ここで登場したrωについて考えてみると、
この図のように回転するコマの赤道部分の表面の速度Vに等しい。よって、最終的に
を得る。逆立ちまでの時間は摩擦係数μが大きいほど、そして回転速度が小さいほど短くなるが、コマの重さには依存しない。
具体的な時間を計算する。コマの半径を1cm、回転数を毎秒20回転とすれば、回転速度Vは1.3m/秒。摩擦係数μはなめらかな床を考えて0.1とすればTは1.6秒となる。