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前途は遠かった。でもそれはどうでもいい。道こそが人生だからだ。 - Jack Kerouac

安定滑走定理

◆はじめに

ある曲線からなるレール上をある物体が重力だけで滑走するシステムを考える。代表的な例はジェットコースターであるが滑り台などもその一種と考えられる。ここで物体はレールに固定されずに単純に乗っているだけとする。物体が曲線上を動く中でレールから飛び出すなどの事象が発生せず、レール上を安定して滑走できる条件を考える。ジェットコースターには安全上ロック機構が施されているとは思うがここではそう仮定する。


◆分析モデル

分析モデル化を下図に示す。

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レール、あるいは滑り台の曲線をy=f(x)とする。物体はx=0で高さy0の位置から曲線yの接線の方向に初速度v0で動き出すこととする。また、物体とレールの間には摩擦力は存在しないこととする。エネルギー保存則から、物体の高さyには制限があり、曲線yの形状によらず、

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が成り立つ。滑り台などでは普通初速度v0=0で動き始めるので、当たり前だがその場合は滑り台の高さよりも高い場所には上がることはできない。初速度をつけて滑り始める勇敢な人がいれば話は別である。


◆滑走の運動方程式

レール上を滑走する物体にかかる力は、①重力、②遠心力、③レールからの抗力の3つである。安定して滑走している間はこれらの3つの力が釣り合っている。ジェットコースターなどではループなどを考えると、レールの下を滑走する場合もあるのでA)上側走行、B)下側走行の2つのケースを分けて考える。

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ここでRはレール上の物体の曲率半径である。遠心力の方向は曲線yの2回微分の正負により決まる。③レールからの抗力はレール上を安定で滑走できる条件として重要である。抗力を受けている間は安定して滑走できることを示しており、これが0もしくはマイナスになるとレールから浮いている、あるいはレール軌道から外れてしまっている状況を示す。ここではこれを物体が感じる重力と呼ぶことにする。

2つのケースでの運動方程式は、

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となる。これらから、上側、下側の重力には、

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という関係があることがわかる。ここで、エネルギー保存則、曲率半径の定義などから、

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が成り立つのでこれらを用いると、重力の有無を判定する式として、

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を得る。これを用いると実際の重力はG>0の時だけ存在し、実際の重力Gは、

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などと計算することができる。

安定滑走条件は、この重力GがG>0を満たすことである。エネルギー保存則から式のカッコ内は常に正なので、y’’>0の場合は常に、

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となり、上側滑走は必ず安定走行、下側滑走は不安定で必ずレールから離脱する。

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y’’<0の場合はどちらか一方だけが安定でもう一方は不安定である。

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本式の形を見るとわかるように、yの2回微分が発生する。この2回微分可能性は乗り心地を決めるために非常に重要である。円形ループのジェットコースターについてはかつて次のような事故が発生した。

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  これは下図に示す重力Gが跳躍することにより発生する。

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確かに現代のループは完全な円は採用していない。ループに入るときの曲線に曲率半径が滑らかに変化する曲線が採用されている。

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また無重力空間(g=0)においては、

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と簡略化される。y’’>0ならば上側だけ、y’’<0ならば下側だけが安定である。回転する宇宙ステーションにおいては内側にいれば安定だが、 外にいる人は投げ出されることになる。


◆滑走の具体例

まず前回同様、高さh滑り台を考える。滑り台は上側走行のみである。まずは初速度v0=0の場合を考える。いくつか形状について重力Gを計算した結果を示す。


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直線、2次式の場合は安定に滑れるが、3次式、円型の場合は途中で離れてしまい危険である。多項式型の場合は2次式までは安定だが、3次式以上はすべて途中で離脱する。

次に初速度v0>0を与えた場合を考える。円型の滑り台を例として示す。
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となり、

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初速度がある場合、離脱するタイミングは早め、離脱位置は高い場所となる。
 
次に半径rの円形のジェットコースターで安全に旋回できる最小の進入速度を求める。

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この場合、問題となるのは円の上部の下側を走行するときであり、重力の式はGLとなる。これを求めると、 

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これが最小となるのは物体が頂上に円の頂上にあるとき(y=2r)であり、この時、 
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これがG>0となる条件より、

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が得られる。

さて、円形のジェットコースターで頂上を経由してからその後、途中でレールを外れることはあるだろうか。

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実はこういう挙動になることはない。頂上を経由できればその後は必ず安定して走行する。これは円形の場合に限らない。一般的な線対称な形の場合の重力Gを考える。

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図のように対称で同じ高さの2点A,Bにおける重力を考える。

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2点における重力を考えると、線対称性から、

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が成り立つので、それぞれの地点での重力には、

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という関係が成り立つ。これより、線対称な形のレールを走る場合、

①対応する同じ高さの点には同じ重力が働く。

②G=0となってレールを離脱する条件も一致し、離脱条件が成り立つ場合は 片側で先に離脱する。

③片側で安定走破できれば反対側でも安定して走破可能であり、反対側で初めて離脱するというケースは発生しない。  円の場合もその通りである。

ということが分かった。

次に高さhの放物線型のジェットコースターを安定して乗り越えられる初期速度v0を計算する。

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まず乗り越えるために必要な最低速度はエネルギー保存則から、

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となる。レールから外れないように初速度の上限が定められる。重力Gを求めると、

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となるので、これが正となる条件から、

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以上を整理して、

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が得られる。放物線の高さが高いほど、安定走行可能なv0の範囲は狭くなり、事故は起こりやすくなる。それは直観とも一致する。


次に、下記のようにすべての位置でG=0となる曲線があったとする。

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この場合、

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を満たすことになり、上側、下側をかろうじてレールに沿って走れることになる。これはどのような曲線なのかを考える。まず両辺をxで微分すると、

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となる。よって、

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が解となる。後者は元の式に代入すると1=0となり不適なので、前者のみが可能性がある。この一般解は、xの2次式であり、

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これを代入して初期条件を用いて解くと、θをパラメータとして用いて、

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が得られる。これは高さy0の位置から速度v0、角度θで投げた物体の放物線に他ならない。

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仮にレールを除去しても物体はこの軌跡をたどるのは明白である。こういう特性を持つ曲線は放物線に限られる。

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◆まとめ

最後に今回の安定滑走定理を整理しておく。

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◆応用問題

最後に一つ応用問題を示す。

 円形のレールを持つジェットコースターで進入速度が不足して上る途中でレールをはずれ、円のちょうど真下の部分に落下する事故が発生した。レールから離脱するタイミングにおける角度θを求めよ。

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解答:θ=30°