■はじめに
実係数の2次方程式、
が実数解をもつかどうかは、
を調べればよく、これを判別式と呼ぶと習ったと思います。元の方程式は、この判別式Dを用いると、
と書けます。
さてここで、Dの代わりにこの式の右辺に現れた項(D/a)を判別式としたらどうなるでしょうか。
係数aの正負で場合分けなどめんどくさい、と全国の中学生たちから猛反発を食らいそうです。しかし、実はこれが判別式の一般的な表現方法なのです。それは変数の数をxの1個だけではなく、もっとたくさんあった場合も考えると自然にこれが導かれる、ということです。以下、それを説明します。
■問題
まず、x、yの2変数の場合を考えます。この時、2次方程式は、
というようにxyの項が出現します。このような多変数の2次方程式において、実数解(x,y)が一つでも存在するか、まったく存在しないかを判別する式Dを求めることが目的です。
一般的なn変数の場合の2次方程式は、
となります。少し式が煩雑なので行列、ベクトル、内積を用いた表記だとこういう形になります。
これをいきなり解くのは難しいのでまず、簡単な場合でウォーミングアップしてみます。
■ウォーミングアップ(2変数)
まず、2変数の場合でさらにxyというクロスの項がない場合を考えます。つまり、
です。この場合はx、yがきれいに分かれるので、1変数の場合と同様に、
という形に変換できます。右辺をそのまま判別式にすると、
元の方程式は、
となります。これをよく見てみると、
であることが分かります。最後は少し説明が必要かもしれません。
と変形して、a11が正、a22が負の場合とします。すると右辺はDがどんな負の大きな数だとしても、右辺を正とする十分大きい実数yが存在します。そうするとそのyについて右辺は正となりそれに対応する左辺の実数xが存在します。a11, a22の正負が逆の場合も同様です。
■多変数2次方程式の判別式
それでは、さらに変数の数が大きく、xyなどのクロスの項も存在する場合について、線形代数の力を借りて次の一般的な2次方程式の判別式を求めます。
どうやってもわかりにくいと思うので、一気呵成に行きます。読み飛ばして結論だけ見てもらえればそれでもいいです。
まずは、xyなどのクロスの項の存在が面倒なので行列Aを直行行列Tで対角化します。つまり、
ここで行列Lは対角化行列となります。この行列Lを用いると、方程式は次のようになります。
ここで、次の記号を使いました。
この対角化によってxyなどの項は除去されました。ただ、次はx’の項が邪魔なのでそれを除去したいです。そのために座標シフト(平行移動)を行います。実はこれが2次方程式の平方の形に変形することに相当します。具体的には、
とシフトすると、
となります。ここで、
であることから、両辺の逆行列をとれば、
であることより、方程式は対角化と座標シフトにより最終的に、
となる。よって判別式は、
となる。これを用いた実数解の存在の判定は、行列Aの固有値をλ1~λnとして、
となります。この固有値がすべて正、全て負の行列はそれぞれ、正定値行列、負定値行列などという名前で知られていることを用いると、以上の結果は次のように整理されます。
これを最初の1変数の場合に立ち戻ってみます。その場合、行列Aは1行1列のaという要素だけを持つ行列です。そのその逆行列は1/aだけを持つ1行1列の行列になるので、
であり、判定条件は、
となります。一変数の場合は不定値行列とはなりません。また、1変数の場合に限ってこの条件は、
という式に統合されます。そこで、判別式を
とすると、判定条件もD>0に単純化できる、という理屈になります。こうした簡単化は1変数の場合だけであってあくまで例外だということです。