最初に問題から解説する。まず、折り紙を下図のように2回折り畳む。
次にこれに下図のように中心点に向かってハサミで切り込んでいく。この時、元の折り紙はいくつに分断されるか、というものであった。
普通に考えると下図のとおり4つに分断されそうに思える。
実際に折り紙を使って実験してみたが結果は、10回中10回ともに4つではなく3つに分断された。AまたはBのいずれかが切断されずにつながったままだった。
このことは次のことから明らかである。切り込み線が中心点を通らずに左右にずれた場合を作図してみると、
となり、A,Bのいずれかが二つの三角形がつながったままとなることが分かる。逆に4分割するためには切り込み線が厳密に中心点上を通過することが必要である。
果たしてそれが可能なことなのか、について幾何学という数学上の世界と現実世界という二つのアプローチを行ってみる。
▮数学的世界
仮定1:折り紙はいわゆる「面」であり、面積はあるが厚さはない。何回折り重ねても厚さは0のままである。
仮定2: 切込み線はいわゆる「線」であり、長さはあるが幅はない。
仮定3: 中心点はいわゆる「点」であり、面積、長さはなく、位置を示すのみ。
以上の仮定の下で、ハサミで切込みを入れる行為がこの中心点を必ず切断できるような手段(おそらく機械的な)があるならば、4分割は可能である。
しかし人がハサミで切込みを入れる行為として考えると次のこと仮定するのが自然である。
仮定4: 中心点を目指してハサミで切込みを入れていくが中心点に必ず当てることはできない。中心点を中心としたある変動幅(≠0)が定義され、その幅の中で均一に変動してしまう。
以上の仮定1~4を仮定した場合において、切込み線が中心点を通る確率は”0”となる。つまり人手による4分割は不可能である。
これは中心点が大きさが“0”の「点」であるのに対して、ハサミの切込み線が有限の0でない変動幅を持つためである。変動の幅がたとえ1マイクロメートル(=0.001mm)レベルで中心点に近づけることができる人がいたとしても点が点である以上、4分割できる確率は”0”であり、何度試行しようとしても4分割は決してできないこととなる。
▮現実的世界
当然のことながら現実問題として仮定1~3は厳密には成立しない。これらを現実に基づいて書き換えてみると、
現実1:折り紙はある程度の厚さを有する。
現実2:切込み線は一定の破断幅(ハサミが紙を破壊する幅)を持っている。
現実3:折り紙を折り曲げるたときの中心点は純粋な点とはならない。
現実4: 中心点を目指してハサミで切込みを入れていくが中心点に必ず当てることはできない。中心点を中心としたある変動幅(≠0)が定義され、その幅の中で均一に変動してしまう。
現実1については今回購入した折り紙で測定してみると、その厚さは20枚で1ミリメートルなので1/20ミリメートルである(=50マイクロメートル)。現実2についてはハサミの精度もよるが数マイクロメートルと推定される。現実3については厚さのある紙を折りたたむので純粋な点とはならない。ある領域を占有する中心点エリアのような形状となるであろう。現実4については前述の仮定4と同じものである。個人の能力(視力、手先の器用さ)に依存するが習熟すれば、0.2ミリメートル(200マイクロメートル)程度までは到達できるのではないかと想像する。
さて、こうした現実的な世界の中ではたして4分割は可能なのか、その場合の確率はどの程度か、今後の研究成果が待たれる。ちなみに今回は実際に100枚の折り紙で実験してみたが一度も4分割は成功していない。