便宜的に角度45°のエリアだけを考える。球の方向を下図のように傾きaで表現すると、
傾きaの値が有理数の場合、必ずどこかの穴に到達する。無理数の場合はどの穴にも到達しない。
ここで、図の線分ABを考えて球がこの線分を通過する点のY座標は、球の打ち出しの傾きに対応していて、
0から1の間のある値をとる。これより、球が穴に到達する確率は次の式で表される。
ピンボール問題は数直線のある区間において、有理数と無理数の数がどちらがどれだけ多いかによって決定されるということになる。しかし、有理数、無理数どちらの数も無限である。これをどうやって計算したらいいのであろうか。
仮に有理数が、
のように、部分的にでも幅をもって連続に存在するならばこのLを合計することで確率を計算することが可能となるのだが、有理数と無理数は数直線上で複雑に入り乱れている。
どんなに近くにある2つの有理数においてもその間に必ず無理数は存在する。どんなに近くにある2つの無理数でもその間に必ず有理数が存在する。それでは開き直って、一つ一つの単独の有理数を数えようとしても、
その幅はあくまで0なのでこれをいくら足し合わせたところで、やはり合計は0のままである。その事情は無理数でも変わらない。
そこで一つの有理数に対して仮想的な幅Lを持たせるという冒険を行ってみる。
有理数の特徴は順番をつけて並べることができることである。
このように単純に番号を振っていく実は同じ値になるものが登場する。1/1と3/3、1/2と2/4などである。それは気持ちがよくないので同じ値は番号を飛ばすルールにすると、
のようになる。この規則によればこの範囲におけるすべての有理数には番号が割り当てられ、番号を指定すればそれに対応する有理数がひとつ決定される、これは無理数にはない特徴である。
こうして番号をつけた有理数を、
のように表現して、それぞれの仮想的な幅を、
とする。ここでこの幅を、ある小さい正の定数εを用いて、下記とする。
番号が増えるにしたがって幅が半分になっていくということである。有理数全体の幅を足し算すると、
となる。不等号は、各範囲には重複や区間からのはみ出しがあるためである。任意のεについてこれが成り立つということは、結局、
であるということである。以上より、
であることが示された。
以上のとおり、穴は無限に存在しているのにも関わらず、球が穴に入る確率は0なのである。
この考察の過程で次の予想が得られた。
◆ピンボール予想:
球の大きさが0、穴の半径が0でない場合、穴がどんなに小さくても、任意の方向に打ち出された球は必ずどこかの穴に到達する。
傾きが有理数の場合は当たり前にいつか穴の中心に命中する。無理数の場合でも成り立つというのがこの予想のポイントである。言い換えると無理数の傾きで打ち出された球は穴の中心には永遠に命中しないがどこまでもそれに近いところをかすめて進んでいく、ということである。
次回はこれを証明する。