★Beat Angels

前途は遠かった。でもそれはどうでもいい。道こそが人生だからだ。 - Jack Kerouac

三角形の公園

子供のころ住んだ町のはずれに三角形の公園があった。

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その日の放課後、僕たちは同級生4人で公園に集まって三角ベース野球をした。僕たちの三角ベース野球とはだいたい次のようなルールであった。

・普通の野球と違って2塁がない。
・4人の場合、2人ずつ2チームで対戦する。
・守備側は一人がピッチャー、もう一人の野手はどこで守っても構わない。
・走者にボールをぶつけたらアウトとする。そのためビニール製のやわらかいボールを使う。

1塁、3塁はこのように配置する。

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攻撃側はフェアとなる角度が直角よりもやや狭くなっている。もともと守備側は野手が一人しかいないので攻撃側が圧倒的に有利になってしまう。この角度はハンディとなって白熱した試合にすることができた。そしてこの三角形の公園は三角ベース野球にとても適した形であったのである。

三角ベース野球にはもう一つ特別なルールがあった。それは「透明ランナー」と呼ばれていたものである。攻撃側が2人しかいないので満塁になると打者がいなくなってしまう。このとき3塁にいる走者が打者となり、1塁の走者は3塁に進塁し、1塁には「透明ランナー」がいることをしめし合わせて試合を続行するのである。

その日も白熱した試合展開であった。
僕とアキヒロのチームは8対7と一点を追う形で最終回の5回裏を迎えていた。ノーアウトでランナーは3塁。その後、二回は凡フライが続いて2アウトとなった。その間攻撃の僕たちは3塁ランナーと打者を2度ほど入れ替わった。そして迎えた僕の最終打席。空いてはビニールのボールに回転を与えたカーブで挑んできた。僕はその曲がり際をとらえ、打った打球は三遊間を守る野手の頭上を大きく超えていった。アキヒロは3塁からホームインして同点。そして腕を大きく振り回して「回れ―!」と大きく叫んだ。僕は1塁を回り3塁に向かう途中まで走ったが、ピッチャーがうまくボールを中継したのであえなく1塁に戻った。

そこでアキヒロは飛び上がって叫んだ。「勝ったぞー!」

相手はあっけにとられて言った。「何を言っているんだ?まだ同点のはずだ。」アキヒロはそれに応えて言った。「1塁にいた透明ランナーがホームインしたんだよ。」相手も勿論黙っていない。「そんなわけないだろ!1塁打だ。」「いや、3塁の途中まで行ったんだから透明ランナーは楽々ホームインできたはずだ。」幾度か応酬があって、相手側は最後には「俺は見ていないぞ。」と当たり前のことを主張し始めた。

1塁横の鉄棒の近くにアキヒロの小さい妹がいた。試合をずっと見ながら砂のスコアボードに得点を書いていたのだ。妹は言った。「私は見たよ。透明ランナーがホームを駆けぬけていくのを。」アキヒロは言った。「そらみろ。やっぱり俺たちの勝ちだ。」

僕たち4人は妹の書いたスコアボードのところに集まった。すでに日は沈んでいて公園には夕闇が降り始めていた。相手側の2人もこれでは仕方がないな、というあきらめの顔をしていた。アキヒロの妹はみんなに向かってぽつりと言った。「でも、不思議なの。透明ランナーはホームインした後、まっすぐ駆けていって公園のフェンスを通り抜けて道の向こうに消えていった。」僕たち4人は一斉にホームベースの方に顔を向けた。そこには誰もおらず、風にあおられた砂ほこりが静かに舞っているだけであった。

唖然とした僕たちの前を妹が木の棒を手にしてトコトコと歩き出した。そして5回裏のところで立ち止まり「2X」と書いた。