★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

I am Drinking!

ホテルの窓の影が寄り添う頃
夜にあぶれた男たちがMoney
闇にばらまく

この世は一度だけと
すぐ決めてかかる
女が夢を嘘で嘘で嘘で包む

いつの日か償いの嵐が来て
何もかもこなごなにすればいい

I am Drinking I am Drinking


思い出たどるほどの余裕もない
まして明日を口にすればCrazy
笑われるだけ

お前にわかる事はこの胸の痛み
教えてくれる生きて生きて生きているよと

悲しみが喜びに溶けて消える
街中のサイレンは子守唄

I am Drinking I am Drinking
Are you Drinking? I am Drinking!


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豚君記念日

本日は、都内某所のイベリコ豚専門店にいる。4年熟成の「レアル・ベタージョ」。どんぐりだけ食べて育つ。それも樹齢200年以上のコルク樫限定。
 

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これ1本で25万円、キープ可能。今回は差し入れで特別にいただいた。独特の歯ごたえと深遠な風味は格別。いつまでも食べ続けられる気分。イベリコ豚は古代ローマ時代の壁画に登場している。つまり2000年の歴史があるということ。

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料理する男、吊り下げられた食材の一番左はまさしくイベリコ豚である。この長い歴史を実感させる深い味わいである。

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そしてお寿司。かわいい3匹の豚君の置き物食べてたちもそれを固唾をのんで見守る。

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そして、セイロ蒸し。

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そして食後のデザートのアイスクリームも豚君のチョコレート添え。

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豚君、僕は君を誤解していたのかもしれない。

ストーブの炎の色のこと

北国ではストーブの季節を迎えている。先日、寒い部屋で灯油のストーブをつけて部屋が温まるまでの間、ストーブの炎をぼんやり眺めていた。

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炎はよくみると一つではない。ストーブの芯は円筒型の耐熱ガラスで覆われていて炎の光がガラスの内側で反射するからである。

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ストーブ内部では反射は幾度となく発生するので円筒内での光のルートは複雑だが、


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仮りに炎とガラスが等間隔で並んでいると考えるとわかりやすい。例えば4番目の炎はガラスで3回内部で反射した後、最後にガラスを透過して外にいる人の目に届く。

さらにストーブの炎に目を凝らしてみると、

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複数見える炎の色は同じではない。上に向かうに従って赤・橙色から黄色・緑色、そして青色へと変化している。人が見える光の波長は400nm~700nmの範囲であり、色は波長で決まる。赤色はその上限の700nm近辺、紫色は下限の400nm近辺である。見え方として上に見えるということは上図で示したように円筒内でのガラスの反射の回数が多いということである。


さてこの青方遷移ともいえるこの事象は物理的にどう説明されるのだろうか。


まず、炎そのものの色について調べた。

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グラフの中で今回の対象である油焚燃焼炎の可視光範囲を赤で囲んでいる。肉眼で受ける印象の通り、波長の長い赤・橙の色は強く、波長の短い青・紫色は弱い。先に青方遷移と書いたが実際には波長そのものが変化することは考えにくい。今回の現象は、円筒内で光が反射するたびにこの波長の大きい赤・黄色側の光が徐々に減衰していき、中心波長が微妙に変化していくことが理由であると考えられる。

次にガラスの反射率の波長依存性を調べてみた。一般のガラスは透明度を重視するので可視光の範囲内では反射率が波長に依存しないものがほとんどであった。しかし、耐熱ガラスを調べていた時に、今回の事象に合致する特性のガラスを見つけた。その製品名はネオセラムという。

 

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ネオセラムの反射率・透過率の波長依存性は下図のようになっている。分かりやすいように可視光の波長範囲(400~700nm)をその色で塗っている。


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波長が短い範囲では反射率は大きく、波長が長くなるにしたがって反射率は小さくなる。実物の写真を見てもこのガラスは茶系の色をしており、長波長の光を透過しやすいことが予想される。

以上に基づいて、反射回数に応じた波長ごとの強さを計算した。光源である炎の波長分布データからスタートして各波長の反射率により波長ごとの反射回数に応じたレベルの推移を計算した。結果を下図に示す。

 

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最初は光源の中心波長である赤・橙色が支配的であるが、それは反射が行われるたびに、反射率が低いため減衰し、全体に対する割合は減っていく。相対的に割合が増えていくのはそれよりも反射率が高い黄・緑色である。やがてさらに反射率の高い青・紫色の割合が大きくなっていく。

以上より、ストーブの炎の色が反射のたびに変化していく原因はガラスの材質にあることが分かった。すなわち、ガラスの反射率の波長依存性によって、反射が起きるたびに波長の割合が長波長側から短波長側に徐々にシフトしていくために起きる現象である。

修学旅行のバスから観音様は見えたのか?

先日、中学時代の同級生と話をしていて、話題は当時の修学旅行の思い出話に及んだ。その修学旅行はすでに40年も前のことであるが、その日、僕たちは東京の水道橋あたりにあった宿泊施設からバスで鎌倉八幡宮に向かった。僕は八幡宮を詣でた記憶はほとんどなくなっていたのだが、ひとつだけ明確に覚えていることがあった。それは八幡宮に向かうバスの車中での出来事である。

①鎌倉八幡宮に向かう途中、バスガイドが、
『右手をご覧ください。山すそに観音様のお姿が見えます。大船観音といいます』
と言った。窓の外をみてみると、道沿いの山すその緑を背景に半身の純白の観音像があって、窓ガラス越にあでやかな横顔が見えた。その巨大さに不気味を禁じえなかった。

②そのすぐ後、バスガイドは、
『今から、踏み切りに差しかかります。すごく揺れますのでしっかりつかまっててください。』
そう言い終わらないうちにどこからともなくガタンと大きな音がしたかと思うと、バスはまず上下、そしてすぐ左右に大きく揺れた。それは座席から浮きあがるほどの揺れ方だったので、バスの車内は男子の歓声と女子の嬌声に包まれた。


さて、その同級生はこれらをさっぱり覚えていなかった。

僕はその後、偶然にも観音像がある場所の近くに引っ越してきたのでいくども観音様をみることになった。観音様のすぐそばを電車が走っていたので、その車内からも観音様は間近に見ることができたのである。

しかし、あの修学旅行当時、僕たちはいったいどこから観音様を見たのかについてはずっと謎として残っていた。この付近の地図を眺めてみる。

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 おそらく僕たちが当時通ったのは県道21号線、つまり鎌倉街道であろう。この赤いライン上のどこかから観音様を見たに違いない。この通りの先にはJR横須賀線との踏み切りがある。バスが大きく揺れたのはきっとこの踏み切りに違いないと確信した。

ということでそれを確かめるべく、このあたりを実際に歩いてみることにした。

 

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当時の記憶では、道沿いには何もなかったような気がするのだが。

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結構、ビルや民家が立ち並んでいる。
 

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観音様が見える気配はまったくない。この40年間に駅前から開発の波がここまで押し寄せてきたということなのだろうか。この通り沿いの一番大きな建物に向かうと、通りの反対側に非常階段があったので無断で登らせてもらうことにした。

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最上段まで上ってみるとそこから見えたのは、まさしく観音様であった。しかし、

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 実際の大きさはこの程度であった。米粒ほどである。言われなければ気がつかなかったであろう。

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記憶では観音様の表情まで見えたことになっているのだが。記憶の中の観音像はその後付近に移り住んでから見慣れた像にすっかり置き換えられていたのである。この距離からみた像の大きさを不気味とは感じないはずである。ということは記憶の中で感情まで置き換えられたということである。

複雑な思いを胸に、続いてバスが大きく揺れたと記憶している踏み切りまで歩いていった。

 

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線路は道路と直角に交わり、見通しもよいわかりやすい踏み切りである。まわりの地形も平坦である。40年前とは地形が大きく変わったのであろうか。線路という事情からそれは考えにくいと思う。踏み切り近くのバス停の名前にあった成福寺という寺を訪れて住職に尋ねてみた。


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住職はずっとここに住まわれていて、物心ついたときにはすでに線路も踏み切りはそこにあった。ただ、遮断機はなくそれができたのは住職が高校生のころだったそうである。住職が当時を思い出して言うには、確かに道幅は今よりも狭かったかもしれないが、周りの風景はいまとそう変わらない。車が大きく揺れるようなことは記憶にない、とのことである。そういわれて自分でも不安になってきた。それは、そもそも踏み切りに入った途端に急に起伏が激しくなる、というようなあえて危険な設計がありえるだろうか、という素朴な疑問で沸いたのである。

あらためて付近の地図を眺めてみる。

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この踏み切りを渡った後、バスは左折して電車の線路と平行した道を鎌倉に向かって進む。北鎌倉の円覚寺を通り過ぎてしばらく進むと再び電車の踏切が現れる。道路と線路は平行して走っているのに交差するというのはどういうことだろうか。道路はまっすぐに八幡宮に向かって走るのだが、線路はここから大きく右に曲がって、鎌倉駅に向かっていく。そして角度的には苦しい交差点が出現したのである。斜めに交差するので自然と踏み切りの幅は道路の幅よりも広くなっている。


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この踏み切り近くにあった土産物屋の女性に尋ねてみた。彼女はここで生まれ育ったらしく結構昔のことを覚えていてくれた。当時の道路は線路ときちんと直角に交差するようにするために急な角度で曲がりくねっていてた。そして踏み切りの幅はもっと狭かった。遮断機の長さに制限があったためである。そして車がそれをきちんと曲がりきれるように道には急な高低差が作られていた。それで車がここを通り抜けるとき大きく揺れた、というのである。

僕の記憶の踏み切りはやはりこれであった。しかし僕の記憶の中では観音様をみた直後にバスは大きく揺れたのであった。しかし地図で見るとゆうに2km以上は離れていて、バスでは5分以上はかかったであろう。記憶の中で途中のこの時間がきれいに切り取られたしまったのである。


記憶は時間の経過とともに補正されていく。記憶の中で、観音様の像はその後間近で見たリアルな姿に置き換えられ、意味をもたない時間は切り取られた。記憶は自分がそれを知識として活用しやすいようにあるものは増幅、脚色され、あるものは削除、省略されて都合よい形に整理されていったということなのであろう。

実は冒頭で敢えて書かなかった記憶がもう一つだけある。それは、バスが踏切で大きく揺れたときにあがった女子生徒たちの数限りない嬌声の中に、僕はあるひとつの声だけをちゃんと聞き分けられたと確信している。それが果たして事実だったのか、単なる補正のいたずらだったのか、これについては今では確かめるすべもない。

スーパーボールの運動解析(その3)


前2回に引き続き、最終回である。

前回までで、スーパーボールの運動を記述する運動方程式は、 

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であり、この解は行列を用いて、

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という変換で記述される。

ここで登場した行列Aには、

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という顕著な特徴があり、これにより2種類の運動が交互に現れることを示した。


さて、ここで出てくる疑問はこの特徴は球体固有のものなのだろうか、というものである。例えば、球体ではなく中空の球殻ならばどうなるであろうか?

 

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このように両者は慣性モーメント(回転しやすさの指標)だけが異なる。これを代入して解けばいいのだが、当然その後でこの二つの途中の形状の場合はどうなのか?などの次の疑問がわいてくることが予想されるので、もっと一般的に求めてみる。

結論から先にいうと、慣性モーメントに依存することなく、

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が成り立つのである。つまり中空のスーパーボールを使っても同じように2種類の運動が交互に現れる。

この現象の根源は対象が球体であることではなく、もともとの運動方程式

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の形だけに依存し、係数にはよらない。この式を一般化する。

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これを変形すると、

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となる。ここで、γ、εは初期運動によって決まる固定値である。変換の前後で式の値が保存される条件(第1式)と符号が反転する条件(第2式)がある。これらはよく見ると、

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という固定ベクトルを定義したときに、内積の表示を用いて、

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と表せる。
これらはxy平面上で直線である。両者の交点が存在しうる運動を規定する。

前者を直線A、後者を直線B+、B-としてxy平面上に作図すると、


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解は直線Aと直線Bの交点A、Bである。直線Bは、B+, B-を交互に交代するので、解は交点である点Aと点Bを交互に移動する。これより、2種類の運動が交互に現れることがわかる。

この説明はちょっと分かりにくいので、最初の式、

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に立ち戻って直接解いてみる。行列Aを求めると、

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となる。こうしてみると、α=βの場合が気になってしまうが、今回の解析ではα、βは符号が異なるのでここでは気にしない。

本行列は一見、複雑だが、これを2乗するとまるで手品のように、

 

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となることがわかる。

これは任意のα、βについて成り立つので、元の方程式と見比べてると慣性モーメントには依存しないことがわかる。また、スーパーボール的な反射のルールである「床面接触時に床面からの摩擦力を滑ることなくきちんと受け止める」を守りさえすれば、形状も球形にこだわらず、多少ひしゃげていても大丈夫である。もちろん、ラグビーボールのように尖って別な動作が発生しない範囲において、である。

スーパーボールの運動解析(その2)

前回に引き続き、スーパーボールの挙動についてである。

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今回は連続して衝突が発生する場合を考える。そのために準備をする。

スーパーボールの床面との衝突運動は、前回の説明のとおり、運動量の保存則、そしてエネルギーの保存則である次の2式に従う。

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これをv、 ω連立方程式として解くと、

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なる行列Aを用いて、

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という形で表すことができる。これを用いると行列計算によって運動を計算することが可能となる。

実はこの行列Aについては、

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という特徴がある。ここで行列E単位行列である。これが意味するところは、2回床面に衝突すると再びもとの運動に戻る、ということになる。この特徴については具体的なケースで説明する。


◆連続衝突:水平速度なしの場合

ボールをまっすぐ下に落とす場合である。その際、ボールに回転を加えなければ、

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同じ位置にとどまって、上下運動を繰り返すだけである。これに対してボールを離す時に回転を加えてみると、

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回転方向に移動を開始する。反対に回せば逆の方向に進む。その際、移動する運動と単なる上下運動を交互に繰り返す。これがさきほど述べた、行列Aの2乗が単位行列になることに対応している。


◆連続衝突:水平速度ありの場合

続いて、ボールの水平方向の速度をつけて放り投げる場合を考える。放り投げる際に与える回転数に応じて挙動が異なる。ωの大きさに対応した挙動を下図に示す。

 

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この場合においても2種類の動作を交互に繰り返すことは同様である。2種類を青色、赤色で識別している。

(1) β=-5/2の場合が前回説明した振動する条件である。それ以上ならば全体として右方向、それ以下ならば左方向に移動していく。
(2) β=+1の場合が前回説明したスーパーボールらしからぬ挙動である。
(3) β=-3/4の場合は、2度目の動きは単純に上下する運動である。上述の(b)の挙動と同じである。

さて、以上のケースはすべて2通りの形が交互に現れるというルールはきちんと守られているがそれが守られないケースは存在しないのであろうか。実はそれは身近に存在する。それは挟まれた2枚の板の間の空間でボールが両方に衝突する場合である。




◆連続衝突:上下2枚の板に仕切られた空間内での運動

2枚に仕切られていたとしても、個々の衝突は同じ法則に基づくと考えてしまいがちであるが、実はボールの回転方向に対する摩擦力の方向が2枚の板でちょうど逆の関係になる。仮に下側の板での衝突運動を表す行列を、

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という前述と同じであるとすると、もう一方の上側の板との衝突については、行列の一部の符号が反転して、

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となる。この場合は、行列A、行列Bが交互に作用することになり、運動は一転して複雑化する。その一例としてボールを回転させずに投げた場合のボールの軌跡がどうなるかを計算で10回目の衝突まで求めた結果を下図に示す。


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実際にスーパーボールでこれを試してみると、運動は複雑で何が起きているのかわかりにくいものの、ある決められた範囲の中でうろうろと迷走している雰囲気だけは観測できる。

特に最初の1→2→3→4でボールは手元に戻ってくる。これなどは会社のデスクなどを使ってすぐに実験できるのでチャレンジされたい。

魔王

父は豪雨の中を子供を胸に抱いて馬に乗り、険しい山道を走らせていた。

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【BGM:魔王(シューベルト)】

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子供は父に買ってもらったシウマイ弁当の箱を大事そうに抱えていた。

-お父さん、おなかがすいたよう。

-もう少しの辛抱だ。もうすぐ家につくからな。

父は、魔王が我が子を奪い取ろうと狙っているのを知っていた。だから馬をとめるわけにはいかなかった。

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父は急に不安を感じて、馬をとめて息子の抱えているシウマイのふたを開けてみた。すると、シウマイのひとつが消えてなくなっていた。父は驚いて我が子の顔を見た。しかし、子供がそれを食べたとは思えなかった。父の背中を悪寒が走った。父は気を取り直して再び馬を全速力で走らせた。

-お父さん、シウマイ食べたいよう。

息子がうわごとのように繰り返していた。通り過ぎていく木々は悪魔に姿を変えて枝を触手のように動かして馬の進路を妨害しようとしていた。

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父は再び馬をとめて、シウマイの箱を開けてみた。すると、またもうひとつシウマイが消えていた。父はその忌まわしい弁当をほうり捨てたい衝動にかられたが、こんどは自分でその弁当を抱えて再び馬を走らせた。

-お母さんが待っているから急ごう。

木々の陰から魔性の女たちが幻惑するように歌う声が聞こえてくる。息子は泣き出しそうな震えた声で言った。

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-お父さん、もう死にそうだよ。シウマイ食べたいよう。

父はまた馬をとめてシウマイのふたをあけた。すると、またもうひとつのシウマイが忽然と消えていた。今回は自分がそれをしっかりと抱えていたはずだった。父は恐怖のあまり叫び出したい気持ちを懸命に抑えた。そのときである。息子が急にまじめな顔をして指をさしてこう言った。

-お父さん、それをよく見て。

息子が指差したのは弁当のふたの方だった。ふたには、3つのシウマイがしっかりとくっついていた。


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