アリはゴムの上を歩き始めた。
キリギリスの策略によってゴムは次々に引き延ばされ角砂糖はみるみると遠ざかっていく。1時間も経過すると角砂糖は100m先まで遠ざかりとうとう見えなくなった。その後も200m、300mとさらに距離は遠ざかっていく。
しかし、出発10時間を過ぎて距離が400mを超えた頃から少し様子が変わってきた。角砂糖の遠ざかる速度が少しずつだが鈍ってきたのである。
そして12時間を回ったときのことだった。ゴムはすでに4.5kmの長さにまで伸びていて、角砂糖までの距離は約450mだったが、これが反転して短くなり始めたのである。アリは希望を手に歩き続けた。
そして出発から34時間後、とうとう角砂糖に到達した。そのときゴムは12kmを超えて伸びきっていた。アリはこの12kmを歩き通して見事に偉業を達成したのである。
キリギリスは次回はもっと頻繁にゴムを伸ばそうと企んでいるが、どんなに頻度を上げてもアリは有限回で角砂糖に到達する。もちろん、寿命や体力の問題を考えなければ、である。
今回の場合、ゴムを元の長さに戻したときにアリがどれだけ進んでいるかを考えるとそれは次の級数の形となる。
これが発散することがその理由となる。
このL(n)が10まで到達したときのnがまさに角砂糖に到達するときである。このnを概数で求めると、
これがグラフで示したように時間にして34時間、距離にして12kmに相当する。キリギリスは次回はゴムを伸ばす頻度を2倍(5秒周期)にしようと考えている。その場合は、L(n)を20まで到達させることになるので、その時のnを概数で求めると、
となる。アリが角砂糖に到達するまで時間にして約36年、距離にして27万km、つまり地球を7周近くまで回る必要がある。
ちなみにさらに頻度を2倍(2.5秒周期)にしたらどうなるか(L(n)=40)。
となる。これは、104億年、つまり宇宙の年齢に匹敵する時間である。距離にして40万光年、つまり銀河系の外までゴムは伸びている。
いずれにしても、計算上は有限時間、有限距離で到達できることに間違いはない。