直方体の積み木を積んで大きな直方体を作ります。いろいろな大きさや形の積み木があってもいいのですが一つだけ条件をつけます。それは小さな積み木の一つの辺の長さが整数であるというものです。それ以外の辺の長さは整数でなくてもどんな長さでもいいです。また積み上げるときあえて整数の辺を必ずしもそろえる必要はなく、自由な方向で積んでかまいません。こうして大きな一つの直方体が積みあがったとき、その直方体の形にはどのような特徴があるでしょうか。
実は小さい直方体と同じように一つの辺が必ず整数になります。
ちょっと不思議です。次に整数となる辺が2辺あった場合です。
この場合も、小さな積み木と同じように大きな積み木でも2辺が整数となります。
では3辺ともに整数の場合はどうなるかというと当然、大きな積み木の3辺とも整数になります。この場合は整数以外の数は存在しないので直感とも一致しますが、その背景にこのような法則が潜んでいたわけです。
これは、3次元の積み木に限らず、2次元の長方形でも4次元以上の直方体でも同じことが成り立ちます。これを一般的に書くと次のようになります。
▮積み木定理
n次元直方体でk個(k=1~n)の辺の長さが整数のものを任意の大きさ、形、方向で組み上げて大きなn次元直方体を作る。それがどのような大きさ、形であってもk個の辺の長さは必ず整数になる。
以下にこの証明を試みます。
【証明】
まず、2次元の場合で説明する。
長方形全体の大きさはAxBでそれは小さな長方形C1~Cnに分割される。ここでC1~Cnは辺の一方が整数である。ここで次のような関数f(x)を定義する。
{ x }はxの小数部分を示す記号である。関数f(x)はこのように積分したときに積分範囲の小数部分が得られるという形で定義される。イメージとしては、こんな感じである。
特に、
が成り立つ。これを用いて次の積分を考える。
これは簡単に計算できて、
となる。同じ積分を小さな長方形のエリアC1~Cnに分けると、
となる。この一般項kについて計算すると、
こうして全項とも0となる。ここで各長方形の一辺が整数なので{a}、{b}の項がどちらかが0となることを使用した。結局、
となり、AまたはBが整数であることが示された。
3次元の場合も全く同様で、
を計算することで、
が得られ、直方体のA、B、Cのいずれかが整数であることが分かる。4次元以上も同様である。
次に整数の辺が2つの場合を3次元の場合で説明する。この場合は積分として、
を考える。同様の計算により、
が得られる。各項は正の数であることから、
となり、A、B、Cのいずれか2つは整数であることが示された。
最後に自明とした直方体の3辺ともに整数の場合は、
を同様に計算することにより、
となり、大きな積み木の3辺がともに整数になる、と説明される。
以上は小数部分を使った証明でちょっと分かりにくかったかもしれない。よくよく考えてみれば、周期1の周期関数ならばなんでもいいはずなので周期関数としてなじみの深い三角関数(sin/cos)を用いてやってみる。まず被積分関数を、
とする。こうすると、
となる。エリアを分割した積分の一般項は、
となる。最後の=0については、エリアの一方が整数(N)なので、
となることを利用した(aの場合だが、bの場合も同様)。こうして、
となり、AまたはBが整数であることが同じく示された。
【証明終】
なんとなく自分でも狐につままれたような証明で結局どうして?という直感的な問いには答えられていない気がします。
この定理が示しているのはある部分を組み上げて大きなものにするとき、それぞれの部分が共通に持っていた性質、特徴のようなものはそれが大きくなったとしても保存されることがあるということです。それは人に例えて言うなら、個人の集団からなるチーム・組織があったとき、個々人はバラエティに富んでいたとしてもある共通の性格をもてば、それがチーム、組織の性格となって現れるということでしょうか。また、細胞から器官ができる、生物が細胞分裂で成長していく、素粒子から星が、そして宇宙が組み立てられる、そんな自然のダイナミズムの中にもこの定理の本当の意味が隠れているような予感があります。