格子状に無限に広がる穴に向かって、球を打ち出す。
ここまで、次の定理が成り立つことを証明した。
◆ピンボール定理
球、穴の大きさが両方とも0の場合、球の打ち出される傾きの値が、
(1) 有理数の場合、球はどこかで穴の中に落ちる。(2) 無理数の場合、球は永久に穴に落ちない。
(3) 傾きの値を実数のランダム値として、球を打つことを繰り返した場合の穴に落ちる確率は0である。
この考察の過程で次の予想が得られた。
◆ピンボール予想
球の大きさが0、穴の大きさが0でない場合、穴の大きさがどんなに小さくても、またどんな方向に球を打ち出しても、球は必ず穴の中に落ちる。これは傾きの値が無理数の場合も含めて成り立つ。
これについて考える。
傾きが無理数の場合の例として、
を取り上げてグラフを書いてみる。
穴との距離を赤線で示している。この長さは、
に対応する。実際に値の列を眺めてみると0~1の間でランダムな値をとるように見える。そして、一度登場した値は現れることがなさそうである。このことは次のように説明される。もしも同じ値が2回現れたと仮定すると、小数をとる前の数の差が整数となってしまう。これが√2が無理数であることと矛盾してしまうからである。
さて、今回の予想はこのようにδ(n)が0~1の間でランダムに存在するであろうことを利用する。
まず、0~1の間をN等分する。
次のN+1個の数列を考える。
これらは上図のN等分された区画に入るが、最低でも2つの項はどこか一つの区画に一緒に入る。これは例えば、6人を乗せたエレベータで先階ボタンが5つ押されているときに、どこかの階で二人が一緒に降りるはず、といういわゆる鳩の巣原理である。こうして選ばれた二つを下記とする。
こうして選ばれた2つの差は当然、1/N以下である。また、前述のとおり決して等しくはならない。大小関係で2つに分類して調べる。
この場合、
なので、
となる。穴の半径をRが与えらえれたときに、それがどんなに小さくても、十分大きいNをとることで、
とすることができる。ここで、上記と同じ手順を経ることで得られたi, jに対して、
となるmを用いれば、
となり、球は穴の中に落ちることが示された。この場合は、穴の中心よりも上側の部分に落ちることになる。
こちらの場合は逆に穴の中心から下側の部分に落ちる場合である。途中の計算は省略するが、
が得られ、やはり球は穴の中に落ちる。