会社の同期入社の同僚と久しぶりに屋台のおでん屋に出向いて、二人でおでんと熱燗で一杯ひっかけた。
-こうして二人で飲むのは久しぶりだな。以前は会社で毎朝顔を合わせて挨拶していたのに、お前が車で通勤するようになってからまったく会うことがなくなったからなあ。
-うん、確かに。入社したての頃は週末になるといつもこうした屋台でくだを巻いていたのを思い出すよ。
-そうだなあ。俺昔から不思議に思ってたんだけど、おでんてさ、自慢話とか手柄話とか似合わないんだよなあ。それに会社とか仕事の愚痴とかも。
-おでんの前だと肩書とか関係なくみんなが対等な関係になれるというか。
-普通、酒を飲むときの想いというものを考えるとさ、「今日もご苦労様」という感謝の気持ちと「明日頑張ろう」という希望の気持ちの2つがあると思うんだよね。酒を飲むというのはこの今日の感謝と明日への希望という二つの気持ちを橋渡ししているんだと思う。そして言えるのはおでんで飲むというのは感謝の方だけでできているということだ。
-うん、そうだね。おでんはきっとそれで本望なのに違いない。
-おでんを食べるということは我々も自然におでんの構成員になっていく、ということかもしれないなあ。
-どういうこと?
-たとえば、これ。タコ。どうしてタコがあってイカがないかわかるか?イカはなあ、自分から味を出してしまっておでんの汁に影響を与えるんだ。だから嫌われる。おでんの具としては汁にきちんと染まるお行儀のよさが必要なんだ。きちんと会社の色に染まってその中で自分の立ち位置を決めて周りに影響を与えない範囲でいい仕事をしようとする、我々と同じだよ。
-その代表格が大根だよな。バランス感覚に優れて、まわりの雰囲気の吸収力たるや圧倒的だ。人気は一番だが、その気負いもなく常に謙虚なのでみんなからの信頼も厚い。
-昆布は吸収力という面と周りにいい影響を与えるという二つの面でバランスが優れている。目立つ影響を与えるというよりは下支え、 引き立て役に徹して周りへの配慮にも余念がない。
-タマゴも人気がある。栄養価という意味では際立って有能、優秀だ。しっかりと自分を持っていてそれを慎ましく隠すすべも持っている。 そのために周りとしっくりくるまで時間がかかるところがあるが。
-コンニャク。彼はいつも飄々としている人気者だ。染まっているように見えて実はあまり染まっていない。それでもまったくというほど嫌味がないので人気者だ。ちょっと無骨に見えるところもあるが、それは腹心の部下であるしらたきがよくサポートしている。
-餅入り巾着。これも栄養価という意味での本当の姿は有能だ。でもそれをそのまま全面に出してしまうと周りに悪い影響を与えてしまう。だから彼は巾着を身に着けることにした。それでも巾着の中で自分の目標に向かって着々と実力を蓄えていて、自分の出番を待っている。
-ジャガイモ。これも栄養価的には異色の存在だが、その吸収力のあまり、つい周りに合わせすぎるところがある。そして時々ほころびがでてしまう時がある。
-そして練り物派閥。はんぺん、ちくわ、さつま揚げ、つみれ、彼らは他の連中をよく調べ抜いている。そのチーム力と栄養価をの両方を狙って勢力を拡大してきた。我が生きるはここぞ、という覚悟とその反面のあざとさがある。実際、この中では元気なのだが、一歩外にでるとあまりいい仕事をしない。
-(中略)
-さて、そろそろ帰ろうかな。今日はありがとう。久しぶりで楽しかったよ。いろいろな奴がいて大変かもしれないが頑張ってくれよ。社長!