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★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

プロビデンス探訪記(第1回)

 プロビデンスを訪れてみたい、その気持ちが芽生えたのはいつの頃だったろう。プロビデンスは、20世紀を代表するアメリカの幻想小説作家であるラヴクラフトの故郷であり、彼は生涯の大半をその街で過ごした町である。彼の小説の内容はさておき、彼の小説の舞台は主にアメリカ北西部のニューイングランド地方である。それは「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」が起こり、「クトゥルフの呼び声」で青年芸術家ウィルコックスも住み、「忌み嫌われる家」のあったロード・アイランド州プロビデンスであり、「インスマウスの影」で主人公が不気味な港町へのバスに乗るマサチューセッツ州ニューベリーポートであり、「ピックマンのモデル」が徘徊したボストンである。
 その中でもプロビデンスラヴクラフトの分身でもある「チャールズ・ウォード」が幼少の頃、叔母に連れられていった散歩の情景が私の頭にくっきりと刻み込まれている。ラヴクラフトの一連の小説群は、ひとつの神話体系をなすといわれているが、私のラヴクラフトとの付き合い方は少し違う。彼の小説の特徴のひとつには、街の風景描写の緻密さにあると思う。それらを総合すると一枚の色塗りの地図ができあがるような感覚にとらわれていた。私の頭の中には彼の仮想する街の全体図が刷り込まれており、それは恐らく彼の故郷であるプロビデンス市に他ならないと確信していた。ただ、彼の死後、すでに70年以上を経過している。ひとつの街が消滅、生成するに十分な時間である。それでも、彼の作品に通底する主張である、「原初の地球には旧支配者が君臨していた、彼らは地上から姿を消したが、海底、地底、異次元などにいて、復活の機会を待っている。そして人類の中でも彼らの記憶は形を変えて残り、一部の者はそれに共鳴して恐怖を感じている。」と同じく、私自身も時間を越えて彼に共鳴しており、その記憶は今の街の景色の中にも見つかるはず、と勝手に考えている。

 さて、プロビデンス行きを不意に思い立ったのは、2008年初夏のことである。サンフランシスコからシカゴで飛行機を乗り換えてそのニューイングランドの小さな町であるプロビデンス空港に降り立ったのは5月24日の夜のことだった。着陸する飛行機の窓からは、暮れ行く西空とともにプロビデンス市街の灯りが美しく見えて、明日からの旅への期待に胸を震わせた。

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   プロビデンス夜景>