ある日、ノブヒコはとあるゲームを思いついた。それは例によって数学の確率論を巧妙に利用したゲームである。それはどういうゲームかというと、
▮財布ゲーム
(1) 二人で行うゲームである。
(2) まずお互いに財布の中身を見せ合う。
(3)財布に入っている金額を比較して多いほうが勝ち。多いほうは少ないほうに財布の中身を全額寄付する。
という一見単純なものであった。
このゲームに対するノブヒコの作戦と思惑はこうであった。
★ノブヒコの思惑
(1) お互いの財布の中身はわからないし日々増えたり減ったりするので勝ち負けの確率はだいたい半々であろう。
(2) もしも自分が勝ったら(多かったら)自分の財布の中身を渡すだけである。
(3) もしも自分が負けたら(少なかったら)(2)で自分が払うより多い相手の財布の中身がもらえる。
(4) 勝ったり負けたりはするだろうが回数をこなせば結果的に必ず儲かるはずである。
ノブヒコはこのゲームのカモとして後輩のジュンイチを選んだ。それからノブヒコはジュンイチを幾度か呼び出してこのゲームを続けたが思惑とは違って財布の中身は増えていかない。決して勝ってばかりや、負けてばかりではないのに、である。ノブヒコはやがてジュンイチがインチキをしているではないかと疑うようになった。ある日、業を煮やしたノブヒコはジュンイチを問いただすべく自分の思惑と決して負けるはずがない理由を説明した。
ジュンイチは答えた。
-特に作戦なんてないですよ。でも、その思惑のことですが私の立場から見ても同じに思えますけど。もしもそれが正しいとすると私も儲かり続けることになりますよ。二人とも同時に儲かるはずはないので何か間違っていますよ。
ノブヒコは言葉を失った。