翌朝は晴天。まずは、ミスカトニック大学のモデルともなったブラウン大学へ向かう。ミスカトニック大学は、古代遺跡、文献調査で有名で、その付属図書館(後述するジョン・ヘイ図書館)には魔道書「ネクロノミコン」の原書を含む、人類の英知を超える資料を所蔵しているはずである。
大学に向かう途中、いくつか古めかしい建物をみつけた。昨晩のウィッケンデン街はやはりこの街では異端に属していて、保守的な旧市民たちはそれを快く思っておらず、根深い対立の構図にあるに違いない、そんな考えが浮かんだ。
大学に近づくにつれて、遠くから不穏な音が断続的に聞こえ始めていた。それは、まるで群集の怒号のように聞こえた。何か事件が起こっているのでは?と私は不安と期待に膨らんだ。
ブラウン大学に近づくにつれて、それは民衆の歓声であることが判った。それはどこか楽しげである。そして、それはブラウン大学に近づくにつれてやがて確信に変わっていった。
そう、今日は奇しくもブラウン大学の卒業式だった。ベネフィット街を闊歩して肩をたたきあい、時には抱き合う卒業生達。舗道から写真を撮り、大きな声を浴びせる家族や住人たち。そして、彼らを祝福する教会の鐘が街中に鳴り響いている。あの方向からすると、ファースト・バプテスト教会であろう。この小さな街をあげて学生達を祝福している、そんな感じだった。陰鬱なムードを期待していた私はあっけにとられた。卒業生達は、証書を受けとると、全員教会に向かって進んでいく。そちらでも神の祝福を受けるのであろう。
<ファースト・バプテスト教会:光>
こういうさわやかでほほえましい光景を目の当たりにして、私には、この街は、ラヴクラフトがかつて奏したように深夜も、もう一度、歩いてみるべきだという考えにいたった。以後は、昼と夜のプロビデンスの風景を重ねてみる。あのファースト・バプテスト教会も深夜は、まったく違う顔を見せてくれるからである。
<ファースト・バプティスト教会:影>