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★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

入国審査の数理(問題篇)

 こんな経験がある。

 サンフランシスコに出張した時の空港の入国審査場でのことだ。

 そのフライトは満席ではあったものの私は比較的高いクラスの席に座れたので入国審査場に向かう時は早いほうの集団の中にいた。数少ないアメリカ市民たちが優雅に並ぶレーンを横目で見ながら10ほどもあるビジター側のレーンに到着するとすで5人ずつ程度の待ち行列ができていた。私はどれでも時間は同じだろうと乗客の流れに従って適当に一つのレーンを選んで並んだ。乗客はそれから次第に増えていき最終的には私よりも後方には総勢200人ほどが分かれて並んでいた。

 

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 ところが私の並んだレーンはなかなか進まない。隣のレーンを見ていると着実に流れているように見える。隣の列で一緒に並んだカップルは前の方に進んでいる。私のレーンは時折、思い出したようにしか進まない。その状態がしばし続いたが私はそのまま待っていた。ふと後ろを振り向いてみるとこのレーンで後ろには誰もなく、他のレーンでも200人ほどいたはずの乗客はほとんどいなくなっていた。同じレーンで私の前に立っていた人が満を持して隣のレーンの最後尾に移動した。

 やがて空港の係官が2名颯爽と登場したと思うと、私のレーンの審査官をブースから引っ張り出して両脇を支えるようにして連れ去った。そのレーンは閉鎖となり、係官は私たちに他のレーンに並ぶように指示した。私はやむなく他のレーンに並びなおしたが、結局、この200人を超える乗客の中で一番最後に審査を受けることになったのである。

 この審査官は体調不良だったのかもしれない。普通、審査官によって質問の数や端末処理の時間は異なる。今回の場合は極端であるが2倍くらいの差は当たり前にある。でも審査官の列を選ぶときにはそんな事情は分からない。勿論、長い時間観測すればそれはわかるのだろうがそんな時間的な余裕はあるはずもない。できるだけ短時間で審査官の処理能力を判別してリスクを下げる必要がある。

 さて、この経験から次の問題を数学的に考察してみたい。

とある国の入国審査場には10人の審査官がいる。その審査官たちの処理時間は9人は5分だが、残りの1人だけは50分と10倍である。それが誰だかはわからない。いい加減に選ぶと運悪くこの50分審査官に当たることがあり、その確率は1/10となる。

ここで、ある人が次のような審査官の選び方をしたとする。

 

ルール:
しばらく各審査官を観察し、進んだのが確認された審査官を選ぶ。

 

さて、この人が50分審査官を選んでしまう確率はいくらになるか?

 具体的には選んでしまう確率を1/10からどれだけ減らせられるだろうか?ということになる。結果は次の機会の報告する。

 私はこの計算結果に基づいてそれ以来この選び方をすることに決めている。そして実際にあまりひどい目にはあっていない。

 

 基本的な確率はあらかじめ与えられているのだが、あるデータを観測したことでその現実的な確率が変化するという事例であり、これは有名なモンティ・ホール問題に似ている。

 

  これらの問題の数学的解法にはベイズ理論が有効である。

 ベイズ事前確率事後確率という概念を確立しその後、ベイズ統計、ベイズ推定、ベイジアンフィルタベイジアンネットワークなどへの発展を遂げ、最近ではビッグデータ、AIの分野でのその活用にも脚光を浴びている。となるとベイズという人は現代を代表する数学者なのかと思われるかもしれないが、実は18世紀初頭の英国の牧師さんである。サイドビジネスで保険の掛け金の計算などを行っていたらしく、そのためにこの画期的な確率論を立ち上げることになったと言われている。まさに必要は発明の母、である。