■ 雪ウサギおぼろ霞みて、ひと逝けり
誰よりも春の到来を待ち望んでいた人。
■ 風花のひとひら溶けり頬の上
風の中を音もなく舞う雪。肩に残るあまりに淡い最期のぬくもり。
■ ピアニカの列、交差せり母の列
火葬場に向かう葬列が、故人の生まれた町を通り抜ける。
川にさしかかるところで、普段通りの通学の子供たちの列とすれ違う。
■ 門に来て主さがすや、つばくらめ
家の門(かど)にいつも故人が米を置いていた。
その声は幾度となく聞いた嗚咽にように心に響く。
■ 巣立つ日や矢羽根かすりの背にも花
涙にくれた弔辞のあとは、晴れやかなる答辞。矢羽模様の着物は故人から譲り受けたもの。
今生の別れ、卒業式、いずれも背中を見送ること。