★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

皿みそ

 徒然草の第215段にこんなエピソードがある。

平宣時朝臣が、年老いて後、昔語りに、「最明寺入道(五代執権北条時頼)が、ある宵の間にお呼びになる事があったので、「すぐに」と申しながら、しかるべき直垂がなくてあれこれしている間に、また使いが来て、「直垂などがございませんのですか。夜であるのでどんな格好でも構いません。すぐに」とあったので、よれよれの直垂を着て、普段着のままで参上した所、銚子に素焼きの器を添えて持って出て、『この酒を独りでいただくのが物足りないので、来てくださいと申上げたのです。肴が無いのですが、人が寝静まっています。肴になるような物はないか、どこまでも探してみてください」とあったので、脂燭をさして、すみずみまで探し求めるうちに、台所の棚に、小さな素焼きの器に味噌が少しついたのを見つけて、『これぞ見つけ出しました』と申し上げた所、『十分です」といって、こころよく何杯も酌み交わして、上機嫌になられた。その時代は、万事こんなふうでございました」と申された。

 

 友人とどうしても酒を酌み交わしたい夜がある。早く来てほしいと使いの者をなんども差し向けて催促する。恰好など気にしないでいいから、という。位の高い人であるのに、寝静まった家人を起こすにも忍びないので、酒の肴をこっそりと台所で探し回る。そこで皿にちょっとした味噌が残っているのをみつけてそれだけで二人で夜遅くまで酒を酌み交わす。

 

 皿みそ、酒飲みの極意と美学がすべてここに凝縮されている。

 

 先日ちょっとしためでたいことがあり、古い友人にそれを手紙で伝えたところ、これがお祝いの品として送り届けられた。

 

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 かつては恋敵でもあったその友人のことを思い出しながら一人で酒をたしなんだ。肴は皿にもったお祝いの味噌だけである。外は季節外れの雨が音もなく蕭蕭と降っている。一人思い出にひたるにはまさにうってつけの秋の夜であった。

 

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切符は正しく目的地まで買いましょう

 仕事柄、東北新幹線を利用して仙台に出張することが多い。仙台駅から戻る時は東京駅まで新幹線を利用して、そこから会社のある横浜まで東海道線に乗り換える。

 これに関連する首都圏の路線図を下図に示す。 


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 かねてから謎だったことがある。それはこの乗車運賃がどうも毎回一定でないことであった。仙台駅では新幹線の切符をいつも窓口ではなく、機械で購入するので乗車券の横浜駅の名前を入力するのが面倒である。だから急いでいる時などはとりあえず東京駅までで購入しておき、実際には横浜で降りるときに清算しようとする。きっとそれが運賃が毎回同じにならない理由であろうことは察しがついていた。

 あらためて調べてみると、どうも特定都区市内規定というのが、その秘密を握っていることが分かった。

■特定都区市内規定(JR旅客営業取扱基準規程86条、87条)

「特定都区市内にある駅」から「その特定都区市内の中心駅から200kmを超える鉄道区間内にある駅」までの運賃計算に用いる営業キロ(または運賃計算キロ)の起点(または終点)を当該中心駅とみなす。

 これは歴史的には大都市における改札業務を簡素化するために設けられたものである。平たく言うと仙台のような遠いところから東京に来る場合は23区内にある駅までの運賃は全部一律にしてしまおうというものである。

 特定都区市内として規定されているのは、全国に11都市ある。その中でも今回の議論に関係してくるのは東京都区内横浜市の2つである。この二つエリアは上の図に示したように隣接している。それが事情をさらに複雑なものにしている。

 中心の駅をベースに考えるということなので、上の図を見るように東京都区内ならば東京駅、横浜市内ならば横浜駅を選び、仙台からそこまで距離から運賃を算出する。そしてその料金をこのエリア内のすべての駅に一律に適用するのである。すると当然、エリア内で仙台からみて遠い場所にある駅はお得で、逆に近い駅はなんとなく損をしたような気分になるのが人情というものだろう。例えば、東京都区内ならば南北の端にある赤羽駅蒲田駅は30kmも離れているのに同じ運賃になるからである。仙台から見たら350km程度も離れているのだからどちらも同じ程度と考えてもいいだろう。それがこの料金体系の論拠ではあるのだが。

 でも例えば川崎駅は横浜市内エリアの東京よりの端にある。となりの蒲田駅までは東京駅と同じ料金でこれるのに、一駅を越しただけで横浜駅までの運賃になるのはおかしい、と思うかもしれない。実際に二通りの運賃を計算してみると、

 ①仙台から横浜市内エリアまでの均一運賃を払う・・・¥6,480

 ②仙台から東京都区内エリアの均一運賃を払って蒲田駅まで行く。
  そして蒲田駅から一駅区間分だけ追加で支払う・・・¥6,100

 と約400円近い差が生じる。さてこの事情をエリアを広げてグラフとして示す。

 

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  目的地までの運賃を払った場合を赤丸、そこから追加で運賃を払った場合を黒丸で示している。またいくつかの駅からのそれぞれの追加運賃を加えた額をグラフで表している。この絵のとおり、東京都区内の切符を買って一番遠くまでいける駅である蒲田駅から追加料金を払うのが一番割安になることが分かる。

 

 さて、この方法で横浜まで行ってみると計算上は300円ほど割安になるはずであった。実際に横浜駅で乗り越しの清算を精算機でやってみると機械に表示された質問に慄然とした。

「あなたの乗り越し区間蒲田駅から横浜駅でいいですか?よければ『はい』のボタンを押してください。そうでないならば駅員にコンタクトしてください。」 

 ひっかけ問題のように知っているくせに聞いてくることに不安を感じた。確かにこちらとしては蒲田駅とは縁もゆかりもない。元々蒲田駅になんの用事があったか?にこたえられない。なぜ乗り越しすることになったのか?に対しても同様である。そういわれて考えると経路探索のツールを使ってもこういう方法が最安値で検索できたこともない。またそういえば窓口で「切符は正しく目的地まで買いましょう」というポスターも見たことがある。そんなことを考えているうちに機械の前で動けなくなり、呆然と立ち尽くしたのであった。

 

 この記事はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

ノブヒコの財布ゲーム

 ある日、ノブヒコはとあるゲームを思いついた。それは例によって数学の確率論を巧妙に利用したゲームである。それはどういうゲームかというと、

 

▮財布ゲーム

(1) 二人で行うゲームである。

(2) まずお互いに財布の中身を見せ合う。

(3)財布に入っている金額を比較して多いほうが勝ち。多いほうは少ないほうに財布の中身を全額寄付する。

  という一見単純なものであった。

 

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 このゲームに対するノブヒコの作戦と思惑はこうであった。

 

 ★ノブヒコの思惑

(1) お互いの財布の中身はわからないし日々増えたり減ったりするので勝ち負けの確率はだいたい半々であろう。

(2) もしも自分が勝ったら(多かったら)自分の財布の中身を渡すだけである。

(3) もしも自分が負けたら(少なかったら)(2)で自分が払うより多い相手の財布の中身がもらえる。

(4) 勝ったり負けたりはするだろうが回数をこなせば結果的に必ず儲かるはずである。

  

 ノブヒコはこのゲームのカモとして後輩のジュンイチを選んだ。それからノブヒコはジュンイチを幾度か呼び出してこのゲームを続けたが思惑とは違って財布の中身は増えていかない。決して勝ってばかりや、負けてばかりではないのに、である。ノブヒコはやがてジュンイチがインチキをしているではないかと疑うようになった。ある日、業を煮やしたノブヒコはジュンイチを問いただすべく自分の思惑と決して負けるはずがない理由を説明した。

 ジュンイチは答えた。

-特に作戦なんてないですよ。でも、その思惑のことですが私の立場から見ても同じに思えますけど。もしもそれが正しいとすると私も儲かり続けることになりますよ。二人とも同時に儲かるはずはないので何か間違っていますよ。

 

 ノブヒコは言葉を失った。

 

一日警察署長アミちゃん(後日談)

 一日警察署長を無事に勤め上げ、鋭い推理力と直観で難事件の解決にも貢献したアミちゃんはその後も警察署の署員たちの語り草となっていた。

 

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  アミちゃんは一日署長を務めたその日、自由な時間を利用して署内を歩いていろいろな人と会話した。そこでのエピソードを記しておく。

 

 アミちゃんは捜査1課の会議室に立ち寄ってみた。ホワイトボードに女性の写真が貼られていて一人がそれを指さしてながら発言した。

 -この銀座のホステスが事情を知っているはずです。聴き込みに行きましょう。

 アミちゃんは会議中のみんなに向かって言った。


 -あ、そのホステスの人ならば知っていますよ。・・・アケミさんですよね?
 -あたりです!どうして知っているんですか?

 アミちゃんはふふふ、と小さく笑うとその場を立ち去った。

   

 アミちゃんが鑑識の部屋に立ち寄ると、白衣の担当官が刑事と話をしていた。


-ガイシャのシャツに付着していた物質の成分については大学の研究室に分析をお願いしています。

 アミちゃんは二人に向かって言った。

-あ、その大学ならば知っていますよ。・・・城南大学ですよね?
-あたりです!どうして知っているんですか?

 アミちゃんはふふふ、と小さく笑うとその場を立ち去った。

 

 捜査2課の前の廊下を通り過ぎたときに、中から大きな声が聞こえてきた。アミちゃんはドアをそうっと開けると、課長が若い刑事に指示を出していた。

-よし、その会長に逮捕状を請求しろ!

 アミちゃんは部屋を飛び出そうとした若い刑事に言った。

-あ、その会ならば知っていますよ。・・・龍神会ですよね?
-あたりです!どうして知っているんですか?

 アミちゃんはふふふ、と小さく笑うとその場を立ち去った。


 昼休み時間、署内を散歩していたアミちゃんは階段を降りたところでラーメン屋の若い出前持ちの店員とすれ違った。店員はすぐにそれがアイドル歌手のアミちゃんだと気づき、帽子をとって直立不動の姿勢であいさつした。アミちゃんは、店員に向かって言った。

 -そのラーメン屋さんならば勿論知っていますよ。・・・来々軒ですよね?
 -あたりです!どうしてわかったんですか?

 アミちゃんはふふふ、と小さく笑うとその場を立ち去って署長室に戻っていった。


 アミちゃんは一日署長を務めることが決まってから1カ月間はテレビであらゆる種類の刑事ドラマをずっと見続けて勉強したので大抵のことは知っていたのである。

 

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黄昏時のホームで今日も無情に発車のメロディが流れる

  とある城下町。駅のホームから見渡せる町並みには会社帰りの乗客を待つ明かりがちらほらと灯り始めるころだった。家路へと向かう乗客で混雑している下りのホームとは裏腹に、人影まばらな上りのホームでは始発電車が刻々と迫る発車の時間を待っていた。

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 少年はたった一人で旅立ちの思いを胸に秘めてその始発電車にぽつんと座っていた。大きな荷物はすでに上の棚に乗せてある。古い城下町での日々のしがらみに辟易していた彼は、都会での一人暮らしをずっと夢見ていた。そして彼は今日とうとうそれを実行に移したのであった。しかし彼の気分は晴れない。新しい生活とかけがえのない夢のことを考えようとするのだが、どうしても家のテーブルの上に残してきた母親あての短い書置きのこと、そしてそれを読んだ時の母親の顔がどうしても頭に浮かんで離れない。少年は深い迷いの中で目を閉じてうつむいて座っていた。

 やがてホームには無情にも電車の出発を告げるメロディが流れた。

 するとどうであろう。それまでうつむいて座っていた少年はその顔をあげて立ち上がると大きな荷物を棚から降ろしてさっそうと電車を降りた。そして改札に向かう階段を駆け上っていった。やがて電車のドアは閉まり、電車は少年を乗せないまま、少年の旅立ちのくすぶった思いだけを社内に残したまま、まるで滑るようにホームを軽やかに走り去っていった。

   *                                   *            *

 

 ちょうど同じころ、隣の車両では電車の出発を前にして若い男女が電車のドアを挟んで立っていた。男は電車の中、女はホームにいて黙って見つめあっていた。今日、男は煮え切らない彼女に対して賭けにでたのである。一緒に都会に行って暮らそう、そしてこれが最後のチャンスである、彼女がついてこなくても自分は一人で旅立つ、と。しかし女はまだ迷いの中にあった。昨日の晩、男の口から不意にこぼれた永遠という言葉に対してである。これまで知らずにいた永遠という言葉の重さ、冷たさがまるで呪縛のように彼女の心に重くのしかかって首を縦に振ることができずにいたのである。

 やがてホームには無情にも電車の出発を告げるメロディが流れた。

 するとどうであろう。女の硬い表情から緊張がふっと抜けたかと思うとそれは屈託のない笑顔へと変わった。女はゆっくりと男に手を差し出した。男はその手をとると女を電車の中に引き上げた。女は微笑んだままそれに応えた。そしてやや混雑し始めた乗客たちの中に吸い込まれるように消えていった。やがて電車のドアは閉まり、二人の男女を乗せた電車は黄昏の町を滑るように走り出したのである。

   *                                  *              *

 

 ここはJR小田原駅のホーム。そして発車のメロディは「おさるのかごや」である。

 

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K駅への最適アプローチ(その2)

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まず、あらためて問題を整理する。


<K駅への最適アプローチ問題>

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前回の議論では一定の速度αで移動した場合においては、Kは速度αによらず、

 

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となることを示したがこれをさらに一般化して、電車の到着は気にせず時間的な変化を含む任意の速度α(t)で移動した場合を考える。

 まずTであるが、駅前通りを移動するのに必要な時間はt0なので、駅での待ち時間の期待値5を加えて、

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となる。Lについてもう少し計算すると、

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ここで、α(t)の定義である、

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を上式に代入すると、

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この積分の項は明らかに駅前通りの距離Dを表しているので、  

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となる。D/v0は駅前通りを歩行する場合の時間なので10となる。これより、Kを計算すると、

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となり、時間変化を含めた任意の速度α(t)に対しても、Kは固定値15となることがわかる。どのようなアプローチ速度の工夫をしてもK値の改善は行えないことが示されたことになる。

 唯一残された工夫の手段は移動中に電車が見えた場合の行動を変えることである。

 移動中に電車が見えたときにはそれには乗車できずさらに10分後の次の電車に乗ることになる。したがってその時点でもう駅に向かって急ぐ必要はない。ゆっくり歩いていけば必ず次の電車に間に合うのである。電車到着という情報を活用することで省力化が図れてK値は改善することが期待される。

 このケースでのK値の改善量ΔKを計算する。この場合、待ち時間の期待値(T)については最後を歩こうが走ろうが次の電車であることが見えているので変わらない。改善するのは疲労度(L)の方だけである。少し複雑な確率計算によって、

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が得られる。改善量は走る速度αの2次関数となる。この改善の様子を下図に示す。 

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 α=0.5、つまり歩行速度の2倍のときに最小値K=13.75をとることがわかる(約10%低減)。α=0,1の場合はK=15となり効果はない。これは次のように定性的に理解される。α=1(歩行速度)の場合は効果がないのは明らかである。α=0の場合は速度は無限大に近づくが、そうするときわめて短時間で駅まで到着してしまうので電車の到着を見つける確率がほとんど0になってしまうことで効果がない。こうして0と1の間に最適な値が存在し、それがα=0.5である。

 以上の議論から「駅前通りを歩行速度の2倍で走り始めて、途中で電車の到着が見えた場合には歩行に切り替えるという手法が最適であり、一定速度の場合に比べて10%程度の効率化が可能である」ことが証明された。

 この議論は前提で示した疲労度の定義に大きく依存する。これは個人差や主観に左右されるので注意が必要である。走ることにまったく苦痛を感じない人は疲労度(L)を無視しても構わない。その場合は、

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となり、速く走れば走るほど待ち時間は単純に短縮できる。α=0の場合は瞬間移動(テレポーテーション)を意味するがそのとき、待ち時間は5分まで短縮できるのである。

 

色でいうと群青色の泣きたいような夜に

鈴木翁二の缶バッチを手に入れた。 

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星のきれいな夜にはハーモニカをポケットにしのばせて誰もいない夜道を歩いてみたい。どこかにまだ起きている子供がいて、遠くの送電線の音にじっと耳をかたむけているような気がして。