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★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

カキモリ文具店

  さてなんだかわからない人も多いと思うが知る人ぞ知る文具屋さんである。

 

たのしく書く人。カキモリ

 

 先日、仕事で都内に出た帰り道、この蔵前にある店に足を延ばした。蔵前駅前とその周辺は閑散としていた。

 

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 これならば店も空いていて好都合、と思ったのが甘かった。

 

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 このキモリという文具屋さんの前だけは行列ができていた。入り口で入場制限をしているのである。文具屋さんで入場制限とは不思議に思われるかもしれないがここは自分で仕様を決めた自分だけのノートを作ってくれるのである。この行列に並んでいるのはノートを作りたい人たちである。

 まず店に入るまでに時間がかかった上に、仕様を決めてから出来上がるまでの2-3時間をどこかでつぶさないといけない。ちょっとそれは無理なので普通の客として出来合いのものだけを購入して退散した。お客のほとんどが若い女性であった。

 今回購入してきたのは、この風格のあるノートとボールペンを購入。のインクが使えるボールペン(ローラー・ボール)である。このペンはローラー・ボールという名称で万年筆のインクが使える。ドイツのメーカとの共同開発品で滑らかな書き味が素晴らしい。

 

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 こうした文具店、本屋は自分と波長が合うことが重要である。これは最近、桜木町界隈で偶然見つけた古本屋。

 

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 運命的な波長の一致を感じた。書棚の左上から右下までなめるように拝見しているうちに休日の半日を費やした。ここで購入した本はこれである。

 

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 店主と話をしていて横浜市の全区町村の歴史に関する膨大な蔵書があることが分かった。次回はそれを見せてもらう約束をした。

おでん論

 会社の同期と久しぶりに二人で屋台のおでん屋に出向き、おでんと熱燗で一杯ひっかけた。以下はその時の会話の記録である。

 

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-こうして二人で飲むのは久しぶりだな。以前は会社で毎朝顔を合わせて挨拶していたのに、お前が車で通勤するようになってからまったく会うことがなくなったからなあ。

-うん、確かに。入社したての頃は週末になるといつもこうした屋台でくだを巻いていたのを思い出すよ。

-そうだなあ。俺昔から不思議に思ってたんだけど、おでんてさ、自慢話とか手柄話とか似合わないんだよなあ。それに会社とか仕事の愚痴とかも。

-おでんの前だと肩書とか関係なくみんなが対等な関係になれるというか。

-酒を飲むときの想いというとさ、「今日もご苦労様」という感謝の気持ちと「明日頑張ろう」という希望の気持ちの2つがあると思うんだよね。酒を飲むというのはこの感謝と希望という二つの気持ちを橋渡ししているんだと思う。確実に言えるのはおでんで飲むというのは感謝だけでできているということだ。

-うん、そうだね。おでんはきっとそれで本望なのに違いない。

-おでんを食べるということは我々も自然におでんの構成員になっていく、ということかもしれないなあ。

-なんだそれ?

 

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-たとえば、これ。タコ。どうしてタコがあってイカがないかわかるか?イカはなあ、自分から味を出してしまっておでんの汁に影響を与えるんだ。だから嫌われる。おでんの具としては汁にきちんと染まるお行儀のよさが必要なんだ。きちんと会社の色に染まってその中で自分の立ち位置を決めて周りに影響を与えない範囲でいい仕事をしようとする、我々と同じだよ。

-その代表格が大根だよな。バランス感覚に優れて、まわりの雰囲気の吸収力たるや圧倒的だ。人気は一番だが、その気負いもなく常に謙虚なのでみんなからの信頼も厚い。

昆布は吸収力という面と周りにいい影響を与えるという二つの面でバランスが優れている。目立つ影響を与えるというよりは下支え、 引き立て役に徹して周りへの配慮にも余念がない。

タマゴも人気あるよね。タマゴは栄養価という意味ではきわめて有能、優秀だ。しっかりと自分を持っていてそれを慎ましく隠すすべも持っている。 そのために周りとしっくりくるまで時間がかかるところがあるが。

コンニャク。彼はひょうひょうとしている。染まっているように見えて実は全然染まっていない。それでもまったくというほど嫌味がないので人気者だ。ちょっと無骨なところもあるが、それは腹心の部下、糸こんにゃくがよくサポートしている。

餅入り巾着。これも栄養価という意味での本当の姿は有能だ。でもそれをそのまま全面に出してしまうと周りに悪い影響を与えてしまう。だから彼は巾着を身に着けることにした。それでも巾着の中で自分の目標に向かって着々と実力を蓄えて自分の出番を待っている。

ジャガイモ。これも栄養価的には異色の存在だが、つい周りに合わせすぎてほころびがでてしまう時がある。

-そして練り物派閥。はんぺん、ちくわ、さつま揚げ、つみれ、彼らは他の連中をよく調べている。協調性と栄養価の両方を狙って勢力を拡大してきた。我が生きるはここぞという覚悟とその反面のあざとさがある。実際、ここでは元気なのだが、一歩外にでるとあまりいい仕事をしない。

 

-(中略)
 
-さて、そろそろ帰るかな。今日はありがとう。久しぶりで楽しかったよ。いろいろな奴がいて大変かもしれないが頑張ってくれよ。社長!
-うん、お前も不規則な勤務が多くて夕大変かもしれないけど頑張ってくれ。時々はこっそり守衛室にも顔を出してみるよ。またこうして一杯やろう。
 
 さて、私がこの二人のどちらなのかはあまり問題ではない。私の憲法の前文にはおでんの下での平等がきちんとうたわれているからである。

 

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定本・室生犀星詩集

 書棚の中で最も古い本。

 

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 学生時代に近所の古本屋で見つけた。タイトルは犀星の直筆。当時、3,500円。それでも決死の覚悟で食事を切り詰めてなんとか手に入れた。

 

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 発売当時、定価3円。犀星の印が押されている。印刷は昭和16年(1941年)12月15日だから太平洋戦争開戦から一週間後。発行されてから40年後に私の手に渡り、それから35年間ずっと手元にいたことになる。

 

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 不思議なことに雨の降る静かな夜があると突然読みたくなる。

 

ウルトラな街(世田谷区祖師ケ谷)

 連休を利用してウルトラな街である小田急線沿線の祖師ケ谷大蔵を訪れた。新宿から電車で20分ほどの世田谷区の閑静な住宅街である。

 

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 ウルトラな街は自称である。

 

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 どのあたりがウルトラなのかを報告する。まず、駅構内の柱には全兄弟の肖像写真が飾られている。すべて本人のサイン付きである。サイン?

 

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 北口の駅前広場には、

 

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 ウルトラマンの像が立っている。ちょうど交番の前である。次に駅周辺の案内板がどうなっているかというと、

 

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 スぺシウム光線でライトアップされている。商店街は駅を起点に南北の2方向に延びていてウルトラマン商店街と呼ばれている。駅の北側がウルトラセブン、南側がウルトラマンの管轄である。管轄というのは何かというと、北側商店街の街灯は、

 

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 すべてこれに統一されている。これの頭部を拡大すると、

 

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 ウルトラセブンをモチーフにした造形。そして南側商店街の街灯は、

 

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 こちらはウルトラマンのデザインである。

 

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 つまりウルトラマン達に照らされて警備されている、ということである。南北の街灯の柱の部分を比べてみると柱の部分もきちんとスーツの色合いにデザインされていることが分かる。ウルトラマン街灯の方には、

 

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 ちょうど目の高さにカラータイマーが設置されている。いったいこれの目的はなんだろうか。監視カメラか、警報機か。監視カメラということだとHAL9000を彷彿とさせる。

 駅から南に600mほど歩いたところに商店街の入り口があるのだが、そこには、

 

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 アーチがかけられている。商店街からも外れていて駅からも遠すぎる。

 

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 飛んでいるのはウルトラマン、但しスーツをよく見ると帰ってきたウルトラマンである。背中にとぐろを巻いている配電線が少し残念。

 最後に駅前に戻り、北口の交番の建物もじっくりと眺めてみると、

 

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 交番の2階部のデザインはウルトラマンの目の形のようである。なかなか洒落が聞いている。

 

 大事なことの説明が最後になってしまったが、かつて円谷プロダクションの本社が砧7丁目に、また円谷英二の自宅が祖師谷3丁目(ウルトラマン商店街内)にあったことでこの街はウルトラマンにたいへんゆかりの深い街なのである。

 

www.soshigaya.com

 結論としてはこの商店街は昼夜を問わずウルトラマン達に警備されている安全・安心な街である、ということである。しかし、その真価は夜暗くなってからでないとよく分からない。時計を見ると午後2時、残念だが夕暮れ時まで待つことはできないのでこのあたりでお暇させていただいた。

駄菓子屋紀行(第10回)~方眼紙レーシングゲーム~

 まだ電子式のゲームのない時代、子供たちはお金のかからないゲームを考案する天才であった。学校で遊ぶゲームで何よりも大切なのは授業の合間の5分間の休み時間で決着がつく手軽さである。今回は僕たちが考案したゲームを実演付きで紹介する。名付けて方眼紙レーシングゲーム。その興奮をここに再現する。 

 まず方眼紙を用意する。5mm間隔位がちょうどいい。

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 サインペンでコースを自由に作る。

 

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 4つのコーナーを設けて、第2,3コーナー間は直線コースである。参加者は二人から原理的には何人でも可能だが人数分の色のペンが必要となる。参加者はスタートから方眼の目をたどってゴールを目指すことになる。早くゴールした人が勝ちである。ここでルールを簡単に説明する。

 

 ルール1:
 同じ時に同じ場所にいることはできない。

 これがなければ一緒に戦っている証がなにもなくなる。僕たちはこのゲームが単なる個人戦に落ち込むことを直感的に理解していた。そこでこのルールを作り出して参加している意義を明確化したのである。

 

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ルール2:
 ひとつ前の動きの延長の場所とその周りの8か所の合計9か所のいずれかに進める。

 これが速度コントロール、方向転換の原理となるわけだが簡単なように見えて実は味わい深い。それは実演でお見せしたい。

 

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 いざ、ゲームスタートである。参加者は赤、青の2台。赤が先行であるが、同じ回数でゴールしたときは引き分け、とする。さて、そろそろスタートである。

 

▮スタート~第1コーナー

 

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 ほぼ同じルートをたどる赤と青だったが、青は一度外側に出て華麗なコーナリングを見せた。赤はコーナーのねらい目と減速のタイミングが合わず、かなり遠回りしてしまい、青を追いかける形となる。

 

▮第2コーナー

 

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 ここでも青は見事なコーナーリングを見せてリードを増やしている。赤はまたしてもカーブが膨らんでロスを増やしている。ブレーキのタイミングを完全に誤っているのである。さて、ここから直線コースに入る。

 

▮直線~第3コーナー

 

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 勝負の直線コース、赤も青も颯爽と加速していく。この高揚感がたまらない。ここで青は油断したのかまさかのオーバーラン。フェンスとの衝突を恐れたのかカーブを大きく回りすぎてロスし、ここで絶妙なコーナリングを見せた赤に抜かれる。赤は失敗を反省してそれを勝機に変えたといえる。最終コーナーからゴールへと向かう。

 

▮最終コーナー~ゴール

 

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 さて、勝負は最後まで分からない。今度はまた赤がブレーキのタイミングを完全に失敗、フェンスに激突の直前までいった。青は持ち前の絶妙なコーナリングが復活。勝敗はゴール直前までもつれ込んだが結果は引き分け。

 

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 なかなか発熱したレース展開であった。

 

 ゲームの紹介は以上であるが、大人になってあらためてこのゲームを眺めてみると当時は考えもしなかった別な方向から見てしまう。それは「このゲームで最短のルートを探索することはできるのか」という問題のことである。実際にゲームを純粋に楽しむよりもその前にもっと楽する方法はないか?という問題の転嫁に他ならない。

 計算量理論においてこの問題は巡回セールスマン問題と同じように「NP困難」に属するだろうと予想する。これ以上解析することは大切な何かを失うような気がするのでこれは予想のままで留めておくことにする。

 

ロト・スクラッチャーズ

 電車のつり革広告でみて最寄りの駅でさっそく購入した。一枚200円で10枚セット。

 

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 当たりは一枚だけ、5等(ウルトラマンが5個。賞金:千円)。まあ、こんなものだろう。

 

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 そういえば、と思いだして机の引き出しの奥から見つけ出したのがこれ。

 

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 カリフォルニアのセブンイレブンのレジにおいてあったものを発作的に購入してそのままにしていた。値段は5ドル。カリフォルニアのロトなのでCalotteryという名前である。

 

 

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 当時、アメリカのセブンイレブンで毎朝ここでコーヒーを買っていた。

 

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 スタバと比べて非常に安い。アメリカンコーヒーではあるがアメリカサイズの大きさで1$余りで買えたのである。

 

 さて、見つけ出したスクラッチであるが早速やってみた。

 

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 左の勝ち番号(4つ)のどれかが右のマイナンバー(16個)に登場すればその金額がもらえるというもの。予想通り外れ。

 一等賞は「$100k/YR FOR 20YEARS」。つまり、毎年$100k(約1千万円)を20年間、最大2億円である。この賞金がちゃんとマイナンバーに登場しているところがにくらしい(上の例では2個も)。その番号は「23」と「13」。勝ち番号の「21」と「31」に近くて惜しい、と思わせる作戦のようである。

 こんなの当たるわけがないと思って動画の検索をしているとこんな映像を発見した。

 

 

 スクラッチの高額当選券が紹介されている。アメリカでは州ごとにこうしたロトが運営されている。賞金は$600から始まりほとんど天井知らずである。

 たとえば、ペンシルバニア州

 

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 2万5千ドル(約2,5千万円)。

 続いてはテネシー州

 

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 百万ドル(約1億)。

 カリフォルニア州。私の購入したものと同じ。

 

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 ちゃんと2億円が当たっている。左に解説が書かれているが「LIFE」が出たら無条件、ということのようである。

 さらに、コロラド州でも1億円。

 

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 ニューヨーク州では、

 

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 毎週1万ドル(100万円)で最大10億円まで。さらにミズーリ州でも、

 

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 即金で10億円。ちなみにこのミズーリ州のロトは、

 

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 1枚30ドルと高価だが自分の番号が36個、勝ち番号がなんと10個もあるので当たるような気がしてくる。一方で当りを見逃してしまう確率も高いと思うが。

 

 さて、この動画以外でもスクラッチを実際に削る実況の動画も数限りなく上がっている。しかしそちらで高額当選の例はなく、高々100ドルまでである。そちらが現実に近いと考えるべきだろう。

 

峠駅スイッチバック遺構

 奥羽本線板谷駅から歩いて1時間半、目的地である峠駅までやってきた。


■JR峠駅(新ホーム)

 

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 駅を探して細長い三角屋根の建物に近づいてみると、

 

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 峠駅の看板と入り口らしきものが見えた。養鶏場とおぼしきこの建物がまさしく駅舎なのであった。

 

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 中は真っ暗で何も見えない。中に入って見ると、

 

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 まるでヨーロッパの駅を思わせるような空間が広がっていた。ちなみにこの駅は山形新幹線の通過駅でもある。まさにこの線路を下りの新幹線が通過していく。正面のトンネルから新幹線が顔を出したと思った瞬間、同時に私ははじき飛ばされていることだろう。当然のことだが、そうならないようにここには踏切と警報器が設置されている。この駅に停車する各駅停車が3時間に1本というペースなのに対して新幹線は20~30分に1本なので結構気ぜわしい。

 

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 この駅舎の中の明るさは電気を使った照明によるものではない。屋根に施した採光の工夫による自然の照明による。この写真のように屋根には半透明の帯の部分が等間隔で並んでいてそこから散乱する光がこの駅舎の不思議な雰囲気を作り出している。

 

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 現在の峠駅の全景。右下のシマヘビのようなところが現在の峠駅のホームである。シマヘビの白い縞が採光のための屋根の半透明帯である。

 さてこの駅全景の写真からも明らかなように峠駅は複雑な形をしている。これがかつてのスイッチバックの名残なのである。左上に向かって二股に分岐しているのが特徴である。

 峠駅のホームからこの分岐部を見てみると、

 

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 これは下り方向を見ていることになる。右側が本線であり米沢に向かっている。そして左側が行き止まりの分岐線である。スイッチバックは1990年に廃止されたのですでに左方向に分岐する線路は撤去されている。写真ではわかりにくいが、右側の本線は駅に向かって傾斜を上ってきているのに対して左側の分岐線は水平になっている。この本線、分岐線の傾斜の違いがスイッチバックの大きな鍵を握っている。

 まずはスイッチバックの原理から説明する。

 

スイッチバックの原理

 スイッチバックの原理を説明する看板が峠駅にあった。

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 ・・・さっぱりわからないのであらためて解説図を作成した。

 

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 米沢から福島に向かう本線は①から④に抜ける必要がある。ところが傾斜が厳しいために列車は通り抜けることができない。そのため一度水平方向の②に停車しそこから引き返して同じく水平の③に向かって停車する。③から再出発した列車は水平であることを利用して加速したのちに④に乗り入れるのである。昔はこの水平な場所である③の場所に駅のホームがあった。スイッチバックはかつての重厚な蒸気機関車の馬力不足を補って急な傾斜を上っていく巧妙な技術であった。米沢から福島までこのスイッチバックは連続する4駅で採用されていてこの4駅の総合力で県境の厳しい峠を乗り越えていたのである。奥羽本線の開通は明治時代だったから、この技術はその頃すでに確立されていたことになる。 

 乗客から見ているとそれまで走ってきた汽車がいったん停止し、引き返していく。すると後方から駅のホームが現れるということになる。それは子供心にもまるで手品のような不思議な感覚であった。

 さてこの原理に基づくと、②の待機場所があったはずである。まだ残っているだろうか。ホームを福島側の端に向かって歩いて行った。すると、

 

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 左側になにやらトンネルらしきものが見えてきた。ホームの端までいってみると、

 

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 ②の待機部分の線路はすでに撤去されているがトンネルだけが遺構として残っていた。そう言われて記憶をたどってみると、確かにとある駅では折り返し地点が暗いトンネルの中だったことを思い出した。それがまさしくこの峠駅であった訳である。

 引き続いて③の峠駅の旧ホームを探索することにした。

 

■JR峠駅(旧ホーム)

 新ホームから分岐線にそって歩いて行くとまずは屋根付きの建屋がある。

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 すでに線路はないが建物だけは残っていて、現在は駐車場として利用されている。この建物は同じく三角屋根であり、これは実は雪のシェルターだったのである。屋根の部分を見上げると、

 

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 雪崩でも大丈夫なように頑丈な作りをしている。

 

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 これがシェルターの全景である。シェルターから外に出て前を見てみると、

 

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 何もない。さて旧ホームはどこなのか。下調べして見つけた写真はこれである。

 

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 この写真だけを頼りに道を進んでいった。すると、電柱に赤いペンキで「立入禁止」と書かれている場所まで来た。そこから先は誰も入ったことがないように荒れ果てている。立入禁止は見なかったことにしてさらに進んでいった。そこにはむき出しの有刺鉄線などが地面に放置されていて確かに危険である。やがて、

 

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 なにやら建物が見えてきた。そして足下を見てみると段差がありこれは荒れ果てているが、かつてのホームなのでないか?と気がついた。

 

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 これはまさしく駅舎の屋根を支えていた支柱の礎石であろう。建物に向かってさら進んだ。

 

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 とうとう目的地にたどり着いた。かろうじて線路も埋もれているが確かに残っている。

 

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 屋根を含めて木造部分は完全に崩壊して鉄骨だけが残っている。しかしそれも今にも倒壊しそうである。厳しい風雪の中での20年を越える歳月の流れの厳しさを実感した。

 

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 もう一方のホームの遺構。こちらに待合室があったという記録が残っているが無残な姿である。これがかつては急な上り坂を登るきるために力をためて加速するための重要な出発地点だったのである。私は寂しい気持ちで旧ホームを後にした。

 

■峠の茶屋と力餅

 さて、ここまで来たのでやはり力餅である。

 

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 峠の茶屋。明治時代、奥羽鉄道の開通に向けた工事者たちに疲れを癒やすために振る舞った頃から営業している老舗である。

 

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 これが力餅。

 

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 きめ細やかでまろやかな餅と甘さを抑えた少なめのこし餡、コーヒーにもよくあった。こうして、すこし沈んだ旅心も少しは慰められたのち、この思い出深い峠駅を後にしたのであった。

 峠駅から福島駅に向かう各駅停車に乗車した。運転士も車掌も若い女性であった。もちろんスイッチバックはもうない。かつての列車とは比べようもないくらい若くスマートな電車は苦もない顔をして軽々と峠を越えていった。