ー じゃあ、誰がベースやるんだよ!(ジョン・レノン)
高校時代に誰かが言う同じセリフを聞いた気がする。ビートルズが解散する直前の1969年のこと、幻のゲット・バック・セッションの模様が余すことなく明らかになった。これは7時間を超えるドキュメンタリーフィルムである。先のジョンの悲鳴もそこで発せられた。あくまでライブ録音にこだわり4人で担当楽器を入れ代わり立ち代わりした挙句のことである。
実はこれを観るのにはやや躊躇していた。というのも当時同じセッションをテーマにした映画『レット・イット・ビー』が公開されていてその陰鬱な印象が鮮烈だったからだ。あれと同じものを果たして7時間も見続けられるか、という不安だった。
しかし実際に観始めると完全に引き込まれた。とある日曜日の終日を2回みることに費やした。確かにトゥイッケナムの倉庫のような仮設スタジオでは音響の悪さもあってメンバー達のいらつきから口論に至るシーンも多かったが、アップルのスタジオに移動してからはムードは一変、音作りに熱中する四人の姿が描かれる。そこは映画『レット・イット・ビー』の沈滞感はない。
確かにその頃、バンドてしての活動は停滞していたのは事実。メンバーはそれぞれの世界を見つけ始めていた。音楽の志向もずれが見え始めていた。そう、彼らはもう大人だったのだ。それでもまだ何かやれるはず、バンドを結成したあの頃の原点に戻ろう、それがゲット・バック・セッションであった。
四人の協力で新たなアイディアが次々に生まれて曲が洗練されていく。そんなバンド活動の原点を見ることができる。例えば『ゲット・バック』。ポールの最初の小さな着想から生まれ、それが成長して名曲として完成する。スタジオのムードは明るくみんなも笑顔である。リンダとヨーコが談笑するシーンなどもあり、呆気にとられた。
そして圧巻のルーフ・トップ・コンサート。周辺の住民から苦情を受けて駆けつけた警察官にしなやかに対応する一階受付の女性には影の功労者として拍手を送りたい。また、屋上まで駆けつけたものの結局、ライブに聴き入っていた警察官も出演者として実名入りで紹介されている。
さて、カメラはコンサートを終えた四人のその後の行動も追いかけている。それから四人は何をしたのか。実は、またスタジオに戻って収録を続けたのである。なんともはや、素敵でご機嫌な人達だ。いつまでたっても。