ネットでこんな写真を拾った。
一見、台の部分が空中浮遊しているように見えるが実はそうではなく、中央のL字の金具が鎖を介してきちんと持ち上げてくれている。この机が本当に安定なのか、耐震性は大丈夫なのかを考えてみる。
まず、次のように座標系とパラメータを定義する。
L字金具から受ける上方向の抗力をN、四隅の鎖からの下方向の引力をn1,n2、L字金具の位置と重心との距離をsとして、x,y軸を図のように定義した。
y軸方向からみた断面図は、
となる。
この台の安定性するということは、まず上下に移動しないという条件から、
と書ける。また、台が回転しないとすると、台の重心からのモーメントのつり合いの条件から、
となる。これらより、Nを消去すると、
が得られる。これがこの机の安定性の条件式である。
ここで、安定性について考えてみる。四隅の鎖は台の回転の中心、つまり2か所のL字金具の接続点を結ぶ直線を支柱として回転する構造である。
この4本の鎖は台を引き下ろそうとするだけで、押し上げようとしない。引力だけが作用する。上記の支柱という構造から鎖には上記の一方だけが作用して、もう一方はあそんでいることになる。勿論、鎖の重さは常に台に作用しているのだがその影響は追って説明する。本考察より、台が安定する条件として、n1, n2について、
もしくは、
のいずれかを満たすn1, n2が上記の関係式を満たせば安定となる。それは、上式において、n1、n2の項の符号がちょうど逆であることから容易に導かれるので省略する。ただ一つ問題となるのはn1, n2について、
となる場合である。この場合、n1,n2は微少変化で鎖のあそびに相当する範囲でガタつくことになる。
この机においては上に何も載っていない状態で重心とL字金具の位置関係より、n1=0、n2>0が解を持ち、その時のn2、Nを求めると、
となる。ここでs=0の場合を考えるとそれがガタツキの状態となる。しかし、写真のとおり、今回はL字型金具の位置は台の重心からあえてずらしているのでその心配はない。この金具をもう一ひねりしてLL字型にすれば、金具位置を台の重心と合わせ込むことができたはずである。デザイン上もそちらが安定感があると思うのだが、あえてこの構造を選んだことは計算の上だとすると実に巧妙である。
さて、次に四隅の鎖の重さの影響を考える。鎖の重さをμとした時の方程式は、
となり、これを解くと、
が得られる。つまり、鎖4本は台の重さがその分だけ増えたと考えればよく、台の安定性には無関係であることが分かる。
次に耐震性を検討する。
x軸方向に撃力を加えた場合の運動方程式は、
となる。L字金具からの応力は台に垂直なのでこの式には現れない。ここで、
が成り立つので、
となる。これは単振動の運動方程式であり、その周期は
で与えられる。s=0の時が最大であり、
となる。これは長さLの単振り子の周期と一致する。
y軸方向については、
四隅の鎖からの引力の大きさには差があるが、運動方程式は結果的に、
とx軸方向と同一の形となり、y軸方向についてもx軸方向と同じ周期をもつ単振動となる。よって、台はxy平面上を円、楕円、もしくは斜めの直線往復運動をすることが分かる。つまり、本机において耐震構造は盤石である。
さて、次にこの机に物を置いたときの安定性について考える。具体的にはラーメンのどんぶりをいろいろな位置に置いたケースで検討する。
この場合の運動方程式は、
となり、n1=0の場合の解は、
となる。ラーメンがL字金具の位置よりも写真で左側にあるときは、r<sが成り立つので、n2>0が保証され安定となる。r>sの場合について不安定となる状態(n2=0)は、
で与えれる。具体的に数値計算してみる。M=20kgと仮定し、sについては、写真からs=0.2l程度であることがを読み取った。この場合の不安定点を与えるラーメンの重さm、位置rをプロットすると、
となる。m=5kg以下ならば不安定点は存在しない。よってラーメンを置くことになんら問題はない。しかし体重40kgの子供が台に乗る場合はr=0.3lというL字金具の近くに不安定点が存在し、ここを通り過ぎるたびに台はガタつくので注意が必要である。しかし、それを除けば台の上のどこでも、どんな重さの物が載っても安定しており、加えて耐震性も有するという優れた構造を有する机であることが分かった。