★Beat Angels

前途は遠かった。でもそれはどうでもいい。道こそが人生だからだ。 - Jack Kerouac

それでもメーターは回る

先日、故郷の市外局番から不意に電話があった。地域の水道サービスセンターの人からであった。故郷の実家には現在、誰も住んでおらず水道についても基本料金だけをたんたんと毎月支払っているだけである。

センターの人が言うには家の中で微量だが水漏れが発生しているらしい。メーターがいつも回り続けているということだった。家が無人なのを知っているので確かめてもらえないか、という依頼だった。

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水漏れが続いていると聞いてとちょっと気分がよくないので、週末を利用して実家に帰って玄関横の水道のメーターのふたをあけて見た。どうも回っているようには見えない。家の中に入り、すべての蛇口をチェックしてみたが水漏れが発生しているように見えない。

センターの人に電話してみた。センターの人が言うにはメーターを見てもわからないほどでメーター横に水漏れ検知器があるのでそれを見てほしい、ということだった。早速、メーターをよく見るとさきほどは気が付かなかったが小さな金属の円形の傘があった。それが蛇腹のように細かく折り曲げられているので空の光を反射してゆっくりだがくるくると回転している。どうもそれが微量の水の漏れを検出していることを示しているらしいのである。

また家の中に入って蛇口を再点検してみた。すると、洗面所の蛇口から1分おきくらいに、水滴が滴っているのを見つけた。蛇口はしっかりとしまっていたが、これでもか、というくらいに締めなおした。数分間水滴が出ないのを確認して、家の外のメーターをー見ると、例の金属傘が完全に停止していた。


今は亡き父は水道管の工事の仕事をする人だった。家には水道管・ガス管の工事の専門書がたくさんあって休日となれば父はそれを丹念に読んでいた。子供ながらにそういう姿にあこがれを覚えていた。そしてなにより仕事にプライドを持っていた。水道のメーターはどんな微量な漏れでも検知できるのだと自慢していた。水はみんなの貴重な資源であり、それを大切に扱うことが自分の使命であるといつも言っていた。


小学生の国語の授業中のことである。教科書に風呂の水を入れるときに水があふれてしまうのを防ぐために水がいっぱいになったことを検知してブザーで知らせる発明の文章が載っていた。現代の風呂では考えられない悩みであるが、その授業中に女性の教師がこういった。

-風呂の水をこれでもかと細くして流すようにすると水道のメーターは上がりません。ただで風呂に入ることができます。

私は父の言を借りてそれに反論した。女性教師はむきになって怒った。胸ぐらをつかまれても私は主張を変えなかった。そして最後は口答えするな、と平手打ちが飛んできた。昔はこんなたわいのないことでも体罰は日常茶飯事だった。私は悔し泣きをしながら「それでもメーターは回る」と心の中でつぶやいた。


実家をあとにする玄関先で私は水道メーターの横に座ってタバコに火をつけた。手にはまだ固い蛇口の感触と軽い痛みが残っている。今回の件は父が呼んでくれたのかもしれない。そう思った。亡き父の水道マンとしての矜持、そしてその生涯にもう一度肌で触れることができたからである。