-アトランタ空港ですごく長いエスカレーターに乗ったよ。世界一じゃないかな。
-へえ、何段くらいあるの?
-ざっと100m以上はあったなあ。
-だから、何段だったの?
-そんなのわからないよ。測ってないし。
-歩いて登って歩数を数えたらだいたいわかるでしょ。
-そんなことしたってエスカレーターも勝手に動くんだからだめだよ。
-そうだね。エスカレーター自体や歩く速さも測定しないといけないだろうからそれは大変だ。
-誰かに掛け合って一度止めてもらってから歩いて数えるしかないかな。
さて、動くエスカレータを歩いてその歩数を測るだけで、エスカレーターの段数を求める方法はないだろうか。
▮エスカレーターの段数定理
エスカレーターを2方向で歩き、端から端までの歩数を数える。ここでエスカレーターに対して歩く速さは2方向で一定とする。
計測した歩数をA、Bとすると、エスカレーターの段数Nは、
または、
で求められる。つまり段数Nは歩数A、Bの調和平均となる。
この定理はエスカレーターの速度や歩く速度には依存せず、歩数のカウントだけで段数が求められることが特徴である。
2方向に一定の速度で歩く、ということがちょっと気になるところであろう。普通、エスカレーターを逆向きに歩く場合はうまく進めないのでいつもよりも速く歩いてしまうのが人間の心理である。極端な話として、エスカレーターの速さが歩く速さよりも大きい場合は、一方向には何歩歩こうが決して到達できない。しかしこの定理はちょっとした工夫によってその場合も含めて成り立つのである。焦ることなく一定の速度で歩いてくれさえすればいいのである。
以下、定理を証明する。
エスカレーターの速度をV、それに対して、人が歩く速度をvとする。Vとvの大小関係で場合分けする。
逆走してもいつかは乗り切ることができる場合である。
人がエスカレーターを乗り切る時間を人、エスカレーターの二つ立場で記述してそれらが等しいという条件により次の2式が成り立つ。
これらは辺々を割ることで、V、vが消去される。
これを整理することで、定理で述べた調和平均の式が導かれる。
この場合、逆向きに進んだ時、目的地には決して到達できない。そこで無理をせず、目的地側に回ってそこからから歩き始める。このとき向きは変えないので、人はまるでムーンウォークのように後退しながらやがて出発点まで戻ってくる。そこまでの歩数を数える。
この場合の歩数はマイナスの数であると定義すれば、前の場合と同じ数式が成り立つ。この歩数の数え方を採用することで定理は一般的に成り立つことが示された。
のぼりのエスカレータでいくつか具体例を示す。
例1:上りが10歩、下りが40歩の場合、段数は16段である。
例2:上りが10歩、下りが90歩の場合、段数は18段である。
例3:上りが10歩、下りが無限大の場合、段数は20段である。
これはエスカレーターと歩く速さが等しい場合である。
例4:上りが10歩、下りが10歩と等しい場合、段数は10段である。
この場合、エスカレータは止まっている、もしくは人が超高速である。
例5:上りが10歩、下りがー20歩の場合、段数は40段である。
例6:上りが10歩、下りがー110歩の場合、段数は22段である。
例7:上りが10歩、下りがマイナス無限大の場合、段数は20段である。
これは例3の場合と同じである。
注:本件はあくまで思考実験である。実際に行うと危険と迷惑が伴うのでご遠慮願いたい。