2019年からゴルフのルールが改正となった。
改正内容のひとつに、グリーン上でピンを抜かずにパットができる、というものがある。
しかし、毎度毎度パットのたびに抜くか抜かないか考えるのも面倒だし、プレイヤーごとに意見が異なると誰かがピンを入れたり抜いたりするのにも手間も時間もかかる。
そこでどちらが有利なのか、さっさと決めてしまいたい。それが本稿の目的である。
各種パラメータを次の通りとする。
x座標はホールの中心からのボールのずれを示す。ボールがホールの中心に向かう時、つまり一番ホールインしやすい場合をx=0とする。Rはホールの半径、rはボールの半径であり、それぞれの代表的な値は、
R= 54mm
r= 21mm
である。xが-54~+54mmの範囲を超えるとボールはホールインしない。この範囲に入った場合でも、速度Vが強すぎてもやはりだめである。ということはホールインするためには、x,Vの組み合わせでその領域が定められることになる。そこでホールインとなるx,Vの関係を導く。
まずはグリーンが平坦な場合を考える。
ホールに到達したときの速度をVとする。Vが十分小さければインするが、
Vが大きすぎると、ボールはホールを飛び越えてしまう。
つまりVにはインする上限値Vcが存在するということである。
この境界点はボールがエッジで跳ね返ってちょうど真上に跳ね返る場合である。
この場合の速度Vcを計算する。ボールがホールの中心めがけて到達するとき、つまりx=0の場合を考える。ホールのエッジでの反発係数をβとすると、
で求められる。xが0でない場合はホールが小さくなることになるので、これをグラフで表すと、
となる。ボールがホールの中心に向かったときに許容される速度の範囲は最大となる。ちなみにこの曲線は放物線の形である。
次にピンを立てた場合を考える。ボールはピンにあたるとエッジと同じく反発するが、反発の仕方は本質的に異なる。エッジでの反発がボールに対して上向きの力をかけることに対して、ピンとの衝突ではボールには水平方向の力しか働かない。つまり、ボールの下向きの運動は保存される。これによってボールはピンにあたると入りやすい。この場合のx, Vの組み合わせについては下図の黄色のエリアが追加となり余裕が増えることになる。
黄色の部分は模式的に描いているが実際にはもっと高いところまで行くと思われる。通常、ピンはがたつきが大きく、反発係数は小さい。ボール衝突時に生じる衝突音はボールの運動エネルギーを減衰させることになりインしやすくなる。直感的には、ホールのエッジ部の反発係数が0.5程度、ピンの反発係数は0.2程度である。
次に、グリーンが平坦でなく、一様の傾斜がある場合を考える。
A,B,C,Dの4方向を考えて、AからBに向かって下る方向に傾斜があるとする。
まずピンがない場合については、
となる。C,Dについては平坦な場合と変わらない。下り方向の場合(A)、Vcの値は平坦な場合よりも小さくなる。上り方向の場合(B)、逆にVcの値は大きくなる。斜面でのパターは上り方向の場合に有利である。
次に傾斜がある場合で、ピンを立てた場合を考える。このときは次の効果を考慮する必要がある。
傾斜に対して横方向(C)からのパットにおいては、ボールがピンの中心からやや左側に衝突すると、ボールが外に出やすくなる。
A,B,C,Dについてこの効果を下図に示す。
上り方向の場合(B)では、跳ね返ったボールがインしない場合が生じて不利となる。下り方向の場合(A)では逆に速度Vにさらに余裕が加わて有利となる。
以上より、ピンは抜かない方が有利であるが、傾斜がある場合には方向によっては逆効果となる可能性がある、と整理される。
ちなみにゴルフプロの方々におかれては、
の中央のエリアに向かって方向、速度をコントロールできる。こうなればピンがあろがなかろうが関係ない、ということになるであろう。