日本エレベーター協会から、エスカレーターの利用方法についてのお願いが出されている。片側を歩いて上るのは止めて2列とも歩かないでほしい、というものである。
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確かに駅ではこういうポスターを見かけることが多くなってきた。
しかし、これまでの習慣から歩いて上る側(関東ならば右側)に歩かずに乗るというのは相当に勇気が必要である。実際にやってみると背後からの殺気を禁じ得ない。テレビのインタビューなどでは、歩かないことで渋滞が発生して全体が遅くなってしまうのではないか、という不安を語る利用客もいた。
さて、本稿ではエスカレータを歩く場合や止まる場合で時間や速度にどのように差があるを考察してみる。
エレベータの一列だけをとってその乗り方(歩行モード)を考えるとまず①から④の4つが浮かぶ。①は普通に止まって乗る場合で、この時は普通1段隙間をあけて2段に一人の割合で並ぶ。②は普通に歩いて乗る場合で、この時は一人は歩幅2段分を占有するのだが、前後の人で歩調が合ってないので足がぶつからない様にさらに1段が追加され、結果的に一人は3段分を使用してしまう。③は①を改善して隙間の段がないようにした場合である。④も同じように②を改善して隙間をなくすアイディアだが、これは全員で掛け声をかけない限り不可能である、というよりもむしろ危険なのであくまで参考としておく。
移動速度は止まる場合はエスカレータの速度そのものである。歩いて上る場合のエスカレータ基準での速度をエスカレータの速度と等しいとする。つまり、エスカレータの速度をvとすると、歩いて上る人の移動速度は2vとなる。実際にその程度に設計されているように見受けられる。
エスカレータの乗り方を評価しようとするとまず利用する自分に着目した速度に目が行きがちである。当然、誰もいない状態で一人だけ利用するならば好きなだけ急いで走ればいい。しかし、混雑時などはどれだけの人が同時に利用できるかという観点も必要である。
ここではこのような混雑時を想定して、単位時間あたりにどれだけ多くの人を輸送できるか、という点に着目した指標である輸送力を用いる。この輸送力は速度と収容力の両方に比例する。すなわち、
上記にあげた4つの歩行モードについてこれらを①を基準に相対的に評価したのが次の表である。
②の歩く場合は、確かに速度は2倍であるがぶつかるリスクの回避のために無駄が生じて収容力が低下してしまう。それでも輸送力は歩く場合よりは1.3倍ほど高い。
実際の2列構成のエスカレーターについてはこれらの歩行モードの組み合わせとなる。組み合わせた場合の輸送力を次の表に示す。
今回の日本エレベーター協会からのお願いは、赤字で示した部分である。片側を歩くことをやめたとすると、全体としての輸送力の低下は表の値に示すように15%程度に過ぎない。さらに収容力については次の表に示すように、
むしろ20%程度向上することができる。これはエレベーターに乗るまでに待たされる時間が短縮されるという意味である。以上より、日本エレベーター教会からのお願いについては、他への悪影響も少ない上に収容率の点で有効なのでぜひ協力してあげたいと思う。
しかし、最も効果があるのは③の場合、つまり隙間なく詰めて止まって乗る、という方法である。2列ともこれに変えられれば、輸送力で1.7倍、収容力で2.4倍という絶大な効果がある。目の前の人がリュックを背負っていなければ早速明日から試してみていただきたい。