★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

『ドクター・スリープ』(スティーヴン・キング)

本作品はスティーブン・キングの「シャイニング」の続編である。前作が1977年だったのですでにすでに40年近くが経過したことになる。「シャイニング」はキューブリック監督の映画でも有名となった。ゴシックホラーの形式を巧妙に取り込みながら、モダンホラーというジャンルそのものを確立した金字塔的な作品である。主人公の少年ダンはすでに中年、かつてのオーバールックホテルでの惨劇の後遺症に苦しめられている。同じ能力”かがやき“を有する少女アブラとの不思議な交感、そして謎の悪党団”首頭団“との壮絶な戦いが描かれる。

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下巻2冊のかなりのボリュームだが「シャイニング」の時と同じように一気呵成に読んでしまった。当時、私は古ぼけた社宅に住んでいてクーラーがなかった。そして熱帯夜の暑さに耐えきれず、ホラー小説を読んで気を紛らわそうと考えて手にしたのが「シャイニング」であった。それは見事に奏功した。心の底から震えあがるような恐怖というものを体感した。それが癖となってそれ以来、キングの作品は読み続けている。最近では「アンダー・ザ・ドーム」の次に読んだ作品となるが、最近、かつてのキング節がまた戻ってきているという印象を受けた。

前作と共通するのはゴシックホラー形式で閉じた世界の中での惨劇だということ。「シャイニング」でも作品の舞台は冬場の営業停止したホテルの中だけであった。確かにトランス一家の3人にとっては散々な悲劇だったろうがそれ以外の普通の世界とは没交渉である。接点があるとすれば歴史あるホテルが焼失して後片付けが大変だったろう、程度である。今回はそれに比べれば全米を駆けまわるような壮絶な戦いが繰り広げられるわけだが、結局その戦いに関係している者たち以外には迷惑がかからないという点ではある意味で閉じたお行儀のよさが踏襲されていると考えられる。

キングは悪党を描かせたら他に並ぶものがない。その筆頭は「スタンド」のランドルフ・フラッグであろう。今回は女性(?)のローズ。やることは普通の悪党と変わらないが、背景はそう単純で軽薄ではない。確固とした主義・主張を持ち、彼らなりの宿命に追われている。その宿命が脇の甘さにつながって崩壊していくことになるのだがそこにリアリティがありどこか心底憎めずに心に深く刻まれることになる。

今回の作品には「シャイニング」で焼失したオーバールックホテルの跡地として遊園地「ルーフ・オブ・ザ・ワールド」が登場する。この場所を最後の決戦の舞台として選んでくれたことであの場所に40年ぶりに帰ってきた、という感慨と懐旧の念を感じた読者も少なくないのではなかろうか、と思う。今でも私の心の中のオーバールックホテルにはブルーのワンピースを着た双子の姉妹、そしてあの217号室(映画ならば237号室)にはあのおぞましいマッシー夫人が今でも私を待ち構えてくれているのである。

最後に、もうお分かりと思うが、この作品は先に「シャイニング」を読むことを前提としているので注意願いたい。さていつもそうだが次に待ち遠しいのは映画化である。キューブリック亡き今、キングの厳しい監視の中でメガホンを握る勇気のある映画監督はだれであろうか。