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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

『賢者の贈り物』(オー・ヘンリー)

オー・ヘンリーO. Henry)の『賢者の贈り物』の冒頭はこういう書き出しである。

1ドル87セント。それだけだ。しかもそのうち60セントは1セント銅貨である。デラはそれを3度数えなおした。明日はクリスマスだというのに。


『賢者の贈り物』はつつましやかに暮らす若い夫婦の皮肉ではあるが心温まるストーリーである。これが書かれたのは1905年であるがこの1ドル87セントが今のどの程度の価値があるか調べた人がいる。

crd.ndl.go.jp

 

これによると1.87ドルは今の3円程度。つまりほとんど持っていないに等しいということである。60枚の1セント硬貨というのは厳しい生活費のやりくりの中で少しずつためていたことをうかがわせる。

さて、最初にこの小説を読んだ時からこの記述には大きな疑問を持っていた。

・87セントの中で1セントが60枚だからそれを差し引くと27セント。
・アメリカの硬貨は1セント、5セント、10セント、25セント。
・1セントを除くと、5セント、10セント、25セントの3つ。これらはすべて5の倍数なのでどのように組み合わせても27セントにはならない。

私はこれをオー・ヘンリーという小説家が算数は苦手だったからこの間違いに気が付かなかったのだろうと思っていた。しかし、最近、次のような事実に遭遇した。19世紀後半にはアメリカで3セント硬貨が存在していた、というのである。

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この硬貨は1866年鋳造なので、おそらくこの作品がかかれた1905年まで流通していたであろう。これによれば27セントは、「3セント硬貨が4枚+10セント硬貨1枚+5セント硬貨1枚」という組み合わせで実現可能である。この小説を初めて読んでからずっとオー・ヘンリーという人を誤解してきたことになる。大変申し訳ない気分である。

妻のデラは夫へのクリスマスプレゼントを買うためにとある決意をする。一方で夫も同じようにある決意を秘めて妻へのプレゼントを準備した。さて、二人がプレゼントを交換してみるとそこには皮肉な結末が待っていた。しかし、それはヘンリーが賢者の贈り物、と繰り返し呼んでいるとおり、クリスマスにふさわしい温かな結末でもあった。

冒頭のつまらない疑問が払拭された今、クリスマスの時期が来たら気を取り直して『賢者の贈り物』をもう一度読み返してみたいと思う。