★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

リカちゃんと滑り台

夕暮れ時、ケンタ君たちは町はずれにある公園の滑り台で遊んでいました。

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その公園には近所でも評判の急斜面の滑り台が二つ並んでいました。あまりに傾斜が急なので男の子でも臆病な子は乗れないほどでしたので、女の子たちはめったに滑ることはありませんでした。

その日、リカちゃんたちも公園にいましたが女の子たちだけでゴム飛びをして遊んでいました。リカちゃんはケンタ君の2学年下の4年生の長い髪のかわいらしい女の子で、実は家は隣同士なのです。

そろそろ日も沈んで暗くなってきたのでみんな家に帰ることにしました。リカちゃんが一人で滑り台の横を通り過ぎるのをケンタ君が見つけて台の上から声をかけました。ほかの男の子たちはもう帰ってケンタ君は一人だけでした。

-ねえ、リカちゃん、滑り台滑らない?

リカちゃんは滑り台を見上げていいました。

-あ、お兄ちゃん。それ怖いもん。それは男の子の乗り物でしょ。

ケンタ君は下まで降りてきて言いました。

-怖くないよ。一緒に滑ってあげるから。さあ、一緒に登ろう。

一人っ子のリカちゃんは隣に住むケンタ君をお兄ちゃんと呼んで大の仲良しでした。滑り台にも少しは興味があったので怖がりながらも一緒に上っていきました。

一番上まで来て周りをみると町の向こうまで遠く見渡せました。滑り台から下を見下ろすとそれはまるで絶壁のように急でしたのでリカちゃんは足がすくんでしまいました。

-やっぱり怖いよ。

リカちゃんは少し涙ぐんでいました。ケンタ君はいいました。

-大丈夫。僕が後ろから支えて一緒に滑ってあげるから。

ケンタ君はリカちゃんを後ろから抱きしめるようにして台の端に座りました。リカちゃんは怖くて下が見ることができずに手で目を覆いました。

-じゃあ、行くよ!
-きゃー!

リカちゃんの悲鳴と同時に二人には心地よい無重力感に襲され、勢いよく着地したかと思うとすぐに無事に止まりました。滑り終えてケンタ君が立ち上がるとリカちゃんはぼうっとして座ったままでした。

-え?

リカちゃんは座ったままで、不思議そうにキョロキョロと周りを見回しています。ケンタ君は声を掛けます。

-どうしたの?
-・・ううん・・・なんでもない。
-じゃあ、帰ろうか。

リカちゃんはゆっくりと立ち上がりましたが、心なしか落ち着かず頬を赤らめているようでした。


-あの・・・もう1回やってみたいんだけど・・・

二人はもう一度滑り台の上まであがって滑り降りました。今度はリカちゃんは滑る途中でもしっかり目をあけていました。下まで降りてくるとまたリカちゃんは座ったままぼうっとしています。リカちゃんは不思議そうな顔をしてケンタ君に言いました。

-ねえ・・・もう1回・・・

最初は嫌がっていたリカちゃんでしたがケンタ君に何回もお願いして結局、その日5回も滑りました。最後はリカちゃんが先に上っていました。あたりはすっかり暗くなっていました。リカちゃんは口数が少なく何かを考え込んでいる様子でした。二人はリカちゃんの家の前で別れました。

翌日、学校が終わると二人はまた公園にいました。男の子たちはキャッチボール、女の子たちはまたゴム飛びです。女の子たちは先に終わって帰っていきましたがリカちゃんは公園に一人残っていました。やがて男の子たちが帰ろうとしているとき、リカちゃんがケンタ君のところにきて言いました。

-お兄ちゃん。今日は滑り台しないの?

ケンタ君はいいました。

-今日は野球の日だからなあ。
-そうかあ・・・

リカちゃんはちょっと残念そうに言いました。ケンタ君は帰ろうとしますがリカちゃんはなかなか滑り台のところから動こうとしません。

-わたし、もう少しここにいる。

ケンタ君はリカちゃんを残して公園から立ち去りました。でも本当は立ち去らずに家の影からそうっと公園の方を見ていたのです。実はケンタ君は前の日、リカちゃんにとある呪文をかけていたのです。ケンタ君は滑っている途中、リカちゃんの耳元でささやいたのでした。声色を変えて低い声で・・・「ス・キ・ダ・ヨ」と・・・。

ケンタ君が物陰から見ていると、誰もいない公園でリカちゃんは一人で滑り台を登っていきました。そして上にちょこんと腰を下ろしました。ケンタ君は息を飲み込みました。やがてリカちゃんはまっすぐ前をみたかと思うと大きく息を吸って颯爽と一人で勢いよく滑り降りて行ったのです。長い髪が風に踊っていました。