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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

水と緑と詩のまち:前橋

 社用で前橋を訪れた。翌日が休日だったので前橋市出身の詩人・萩原朔太郎の詩集を片手に市内をぶらついた。以下は『郷土望郷詩』からの抜粋と市内の風景を収めたものである。

 

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 新前橋駅 

 

野に新しき停車場は建てられたり
便所の扉風にふかれ
ペンキの匂い草いきれの中に強しや
烈々たる日かな

 

 新前橋駅は操業開始が1921年(大正10年)、朔太郎が35歳のときであった。まだ駅の周りは野原で草深かったのであろう。

 

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 広瀬川

広瀬川白く流れたり
時さればみな幻想は消えゆかん
われの生涯を釣らんとして
過去の日川辺に糸をたれしが
ああかの幸せは遠きにすぎさり
ひさき魚は眼にもとまらず

 

 広瀬川沿いに朔太郎を記念した前橋文学館がある。

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 思索にふける朔太郎の銅像

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 江戸川乱歩とのコラボの展示会。テーマは「パノラマ・ジオラマ・グロテスク」。乱歩との意外な共通点と交流を展示。ちょうど前橋まつりの日だったので入場料は無料であった。

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 乱歩と朔太郎はお互いに敬意を払い、分野は違えども刺激を与えあう仲であった。そういわれてみると、朔太郎の作品にも「殺人事件」というのがある。

 殺人事件

とほい空でピストルが鳴る
またピストルが鳴る
ああ私の探偵は玻璃の衣装をきて
こひびとの窓から忍び込む

 

  群馬県庁ビルの32階の展望台。利根川の雄姿。

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 大渡橋

ここに長き橋の架したるは
かのさびしき総社の村より
直として前橋の町に通ずるならん

 こちらが利根川の上流側、左手奥には榛名山系の影が見える。

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 利根の松原

日曜日の昼
わが愉快なる諧謔は草にあふれたり
芽はまだ萌えざれども
少年の情緒は赤く木の間を焚き
友等みな異性のあたたかき腕をおもへるなり
 

  昼下がりの前橋公園。

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 公園の椅子

 人気なき公園の椅子にもたれて
われの思ふことはけふもまた烈しきなり
いかなれば故郷のひとのわれに辛く
かなしきすもものたねを噛まむとするぞ


  この「公園の椅子」という詩の中で朔太郎は最後に椅子にナイフで「復讐」の文字を刻む。郷土望郷詩集を全体的に覆うのはこの故郷・前橋に対する複雑な感情である。純情小曲集の冒頭のあいさつの中にはこんな一文がある。

郷土!いま遠く郷土望景すれば、万感胸に迫ってくる。かなしき郷土よ。人々は私につれなくしていつも白い目でにらんでいた。単に私無職であり、もしくは変人であるという理由をもって哀れな詩人を嘲笑し、私の背後から唾をかけた。「あそこに白痴が歩いていく」そう言って人々が舌を出した。 

 

 郷土に対する複雑な思いは金沢出身の詩人・小説家である室生犀星、そして彼の有名な詩「故郷は遠きにありて思うもの」の思いに通じる。そして朔太郎・犀星は無二の親友同士だった。この前橋文学館が編集した『萩原朔太郎室生犀星の交流』はそれを調べ上げ、描ききった力作である。

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 特に感慨深いのは中央亭騒動事件。1926年、朔太郎が東京の田端で喧嘩に巻き込まれた、と早合点した犀星は朔太郎に加勢しようと椅子を振り回しながら駆付けたらしい。芥川龍之介もその場にいてその光景を楽しんで眺めていたらしい。なんとも血の気の多かった時代である。

 朔太郎・犀星の二人が並んだ写真、微妙な距離感で仲良く煙草を吸っている。

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 さて、その日はちょうど前橋まつりの日。ハッピ姿の老若男女が走り回り、パレード・鼓笛隊の音、神輿を担ぐ掛け声、そして人々の歓声が町中にあふれて活気に満ちていた。

 

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 今回の前橋ツアーで訪問先の会社さんからいただいたお土産。高崎の銘菓である。おいしくいただきました。この場を借りてお礼を述べさせていただきます。

 

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