周りを一周しながらツリーを眺めてみると、みる方角によって微妙に輪郭が変わるのが分かる。ある角度からはツリーが傾いているようにも見える。それはこのツリーが単純な円錐形ではなく地表部では三角形、そして第一展望台のある350m付近では完全な円形であるが、この途中の間、断面は緩やかに三角形から円に変わっていくからである。中間の高さおいてはちょうどロータリーエンジンのように三角形と円を混ぜたような形となっている。
見る場所によって少しづつ形が違う、というのは不安をかきたてるものである。ましてや建設方法も恐らく難しかったであろうこのような形状を採用したのにはちゃんとした理由がある。
この構造のアイディアはかつて同じ場所にあって子供からお年寄りにまで親しまれた『おばけ煙突』である。
見る方向によって1,2,3,4本と煙突の本数が変わる。
漫画『葛飾区亀有公園前派出所』でもこれが取り上げられている。両さんたちが子供時代に煙突が1本に見えるところを目印に集合するというエピソードも語られている。
おばけ煙突はすでに壊されて消え去った。それに慣れ親しんだ付近の人たちにとって、このスカイツリーの不思議な形状は郷愁を思い起こさせるもののはずである。
さて、急に話は変わるが、先日、ロンドンに出張したおりに入手した英国の硬貨の形状のことである。
まずは20ペンス硬貨。
そして50ペンス硬貨。
これらの硬貨を初めて手に取って眺めていると名状しがたい不安に襲われた。その不安の正体はこの珍しい硬貨の形状にあった。英国には普通の円形の硬貨もあるのだがこの二つはご覧のとおり、珍しい7角形をしている。そして各辺は微妙に直線ではなく、軽い曲線を描いている。奇数角形の与える不安定性の根源は恐らく「平行」の概念の欠落であろう。人間は無意識に安定を求めている。完全無欠な円は別格としても、6角形、8角形など偶数角形ならば随所に「平行」が現れるのに対して、7角形にはそれが一つもない。指を平行にしてつまむと片側は角の部分を持つことになってしまう。それが不平衡という意味の不安をかきたてるのであろう。
しかし、である。
この7角形の硬貨は決して気まぐれで作られたものではない。辺の緩やかな曲線も単なる装飾ではなく、れっきとした数学的な裏付け・根拠がある。この7角形という形状には6角形、8角形では決して実現できないとある際立った特徴が潜んでいる。果たしてそれは何であろうか。ヒントは、すでにツリーのところに書いたのだが。