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三円定理(その2)

  • 以前、紹介した3つの円に関する問題の証明である。

taamori1229.hatenablog.com

■正円の場合

 一つの円は同じ大きさの一つの円で完全に覆い隠せる。

 この問題の面白さはそれが少しでも小さくなると(例えばそれが0.01%でも)、一つでは覆い隠せなくなるのは当たり前としても、それをさらにもう1つ持ってきても完全に覆えないという点にある。面積としては合計してほぼ2倍もあるのに、である。

 円(正円)の場合においては円周部分のみを考えればいい。半径が少しでも小さくなると元の円の円周の半分以上を隠すことができない。だから、2つ持ってきても元の円の全集を隠すことができないのである。

 これをもう少し数学的に説明する。

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 xy平面上に円1(単位円)と半径がそれよりもεだけ小さい円2の2つの円を考える。この場合の2つの円の方程式は、

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 で与えられる。ここで、円2をx軸方向に動かしてみる。動かし方は便宜的にx軸のマイナス方向とする。

 

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 シフト量をδとする。δがεだけシフトした時点で円2は円1に接し、その後、円1の円周を孤の形で切り欠いていく。このときの交点のx座標をx0とする。δを動かして行ったときのx0の挙動を計算する。x0が0の場合が円1の円周の切り欠け率が丁度50%であり、x0<0では50%未満、x0>0とできれば50%以上となる。

 δだけシフトした円の方程式は、

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 となる。x0を求めるために、これと第1式からyを消去することによって、

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 δを変化させたときのx0の挙動をグラフで示したものが下図である。 

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 赤の線が問題の場合、つまりεが0でない場合を示す。青の線は参考までε=0の場合、つまり同じ大きさの円の場合である。

 このようにεが0でない値を持つ場合、δ=εとなったときからx0が定義できるようになり、やがてδが√(2ε)となったときにx0は最大となるが最大値はマイナス√(2ε)であり、x0=0には到達できない。

 一方で青色、ε=0の場合は、δ=0の時点で二つの円が完全に重なる。上のグラフではそれを便宜的にx0=1として示している。δが0を少しでも離れると切り欠け率は50%を下回ってしまうのは赤の場合の挙動とよく似ている。

 以上により正円の場合の定理の数学的な説明であるが、結果的に直感以上のものは得られていない。

 続いてこれが楕円であったらどうかを検討してみた。

 

■楕円の場合

 まずは正円の場合と同じ手順で考える。

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 相似形、つまり長軸、短軸の比率は保存されるとする。まずは、回転は加えずに平行移動する操作だけで実験してみる。

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 正円と同様にどうも完全に覆い隠すのはできないように思える。正円と同じ手法で分析する。

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 楕円1は単位円に対してy軸方向に1/α倍する。αはα>1という条件でy軸方向に縮めるものとする。また正円の場合と同様に楕円2は(1-ε)だけ相似形で縮小するものとし、x方向のシフト量としと同じくδを定義する。

 この時、楕円1、2の方程式は下記となる。

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 これらからyを消去して交点のx0を計算すると正円の場合とまったく同じ、

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 が得られる。これより、楕円においても回転を許さなければ三円定理と同様の定理が成立することが分かった。

 では回転を許容したらどうなるか。

■楕円の場合(特に90°回転を許す場合)

 楕円に関する最初の問題において、重ねる2つの楕円を90°回転させてみる。

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 この操作ができることが楕円と正円の違いである。すると、上図のようにこのケースでは覆い隠すことができた。ではいつでもこの手法がいいかと思うとそうでもない。 

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 楕円のひしゃげ方が極端になってくると、全然手に負えなくなり、水平移動のときよりも露出部分が増加し事態は悪化していくように見える。この楕円のひしゃげ方はαの値で決まる。したがって、90度回転させた場合においては覆い隠せるαには上限がある、ということになる。次なる目標はこのαの上限を求めることである。

 α=2を考えてみると、

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 このように2つを縦長にして並べるときちんともとの横幅に一致する。この図はε=0の場合を示しているが、それでも完全に覆うことはできない。つまり少しひしゃげ過ぎということである。従って求めるαの最大値は2よりも若干小さいことが分かる。この時点ではきれいな値、例えば√2、√3などになることを期待した。

 

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 まずは楕円1、2の方程式を求める。

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 ここで交点x0を計算することになる。上図に示したように、2つの楕円が点Aで接する場合がx0が最大となることからδは、  

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 で与えられる。これを上記第2式に代入すると、

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 となり第1式を用いてyを消去すると、xについての2次方程式得られる。

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 第1項、x=-1は点Aに対応した自明な解であり、もう一つの項が求めるx0に対応する。 

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 これが正となる条件を加えて、εについて整理すると、 

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 となる。分子について次なる判別式Dを定義する。

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 このDが負の値となる場合、上記のεの不等式の右辺は正の値となり、この式を満足する0でない正のεの値が存在する、つまり小さい楕円2つで覆い隠せることになる。

 具体的にαに対して判別式Dの挙動を見てみると、

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 α=1.5、つまり一方を2/3にひしゃげた楕円がもっとも覆い隠しやすいことが分かった。また、覆い隠せるαの上限値を数値算出した結果、90°回転で覆い隠せる楕円のαの値の範囲は、

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 であることが分かった。この値の正体はいったい何か。

 

■楕円の場合、さらに自由な回転を許す場合

 上記で90°回転の場合を論じたが、自由な回転を許したらどうなるか。

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  実際に実験してみると、90°回転の場合で多い隠せなかった場合(ひしゃげ方が極端な場合)でも可能になるケースがあるような気がする。

 これは次なる検討テーマとする。

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 覆い隠せるαの値の範囲が上図の回転角度θに依存するであろうという予想である。ちょっと手をつけてみたがパラメータθが登場すること、4次方程式と格闘する必要があるなど、計算量は尋常ではなく現時点では見通しは得られていない。