江戸時代に誕生した和算。いつも紹介で登場するのはこの本の扉絵のような、円を中心とした複雑な図形の中で半径を求めるような計算ばかり。しかも日本語特有のタテ書きと漢字。
時はまさにGauss, Eulerと同時代。それと比べてどこまでの水準に到達していたのか、それとも問題外だったのか。それが知りたくてこの本を手に取った。
まずは和算を代表する数学者、関孝和。この本で紹介される数学者は200人を超えるが関孝和の業績は群を抜いている。彼の主な業績は、
1. 方程式論
数字係数方程式の解法、ニュートンの近似解法、解の存在に関する考察、解法の分析の中で行列式の着想を得る。
2. 円理
πについて研究。自身でも正131, 072角形の作図により小数点10桁までの計算を行った。πの無限級数形式を探求するがそれは完成しなかった。
3. 角術
いわゆる三角法。すでにsin(x), arcsin(x)などの級数展開式は得られている。
他には、ベルヌーイ数の発見、不定方程式解法など、当時の欧米諸国と比べても遜色ない成果が得られている。これらを縦書き、漢字という制約の中で成し遂げたことは素晴らしい。逆に和算の弱点を考えてみると、
1 . 抽象化に出遅れている。ユークリッド時代にすでに確立していた様な「公理・定理・証明」という概念に到達できていない。
2. 関数の概念がない。
3. 座標・空間の考え方もない。
関孝和なきあとも優秀な数学者は登場したが、和算全体としてはクイズ・パズル的な領域を超えた抽象性の議論に到達することはできず、次の発展のためには本格的近代数学の輸入の時期を待たないといけなかった。
当時、和算の中で好まれた問題は、くどくどした条件がないこと、あるがままの自然の姿であり、それでいて結果が美しくシンプルなもの、であった。どこか江戸文化に通じるようで面白い。最後にそんな問題を一つ紹介する。
問:下の図で亨、元の正方形の大きさは1:2、利、貞のように正方形を作図すると、点P, Q, Rは一直線上にあることを証明せよ。