★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

短編小説

いつもの朝の向こう側には

最近、休みの朝はできるだけ早く起きて家の近所のファミレスで過ごすことにしている。そこでトーストとコーヒーの簡単な朝食をとり、持ってきたノートとペンでとりとめないことを書き記してのんびりと休日の午前中を過ごすのである。そのファミレスは1階が…

空想駄菓子屋小説:シンちゃん

その日、僕は仕事先のとある町にいて、踏み切りでぼーっと電車が通り過ぎるのを待ちながら、会社に戻るのをはやめることにした。その日、得意先の社長に新聞広告の企画を一蹴されて追い返されたことも一因だったが、そんなにもは日常茶飯事だったし、どうせ…

やさしい夜のために

神田川の水源は河口からさかのぼること24kmにある三鷹市井之頭池である。御茶ノ水駅から見える優雅な流れとはうらはらにこの川の上流は三鷹市、杉並区、中野区の住宅密集地を流れている。川はまるで悪事でもしでかしたかのようにひっそりと町の裏側をすり抜…

ビーテ狩りの夜

それは僕が小学校3年生の時のことである。学校の昼休み、関先生が赤い実が沢山入ったかごを持って教室の入り口から入ってきた。先生はそれを教卓におくとこう言った。「秋山君のお母さんがビーテを届けてくれました。みんなでいただきましょう。」 先生はそ…

アメリカで蝉の声を聴いて思い出した話

小学校4年の夏休みのことだったと思う。 同級生のツヨシ君にひょうたん沼にカブトムシを取りに来ないか、と誘われた。ひょうたん沼はツヨシ君の家の敷地内にある小さな沼で、昼でもうっそうとした森の中にひっそりとあり、私有地であり人が足を踏み入れない…

幻灯会の夕べ

小学生の頃、お盆の時期になると町内会主催で幻灯会と呼ばれるものが催されていた。それは町外れの公園の花壇の上にスクリーンを設置して行う映画鑑賞会のようなものだ。娯楽の少なかった時代なので町中から大人も子供もうちわを片手にみんな集まってきた。 …

語り部

その地域に昔から伝わる民話や伝説を語り継ぐ人を語り部という。 僕は中学生の頃、学校のクラブ活動で民話伝説クラブに入っていた。クラブの目的はそんな民話を集めることだった。僕がそのクラブに所属していたのはほんの気まぐれだった。どこでもよかったの…

盆踊りの夜

それは僕がまだ幼稚園に入る前の話だから記憶も確かではない。僕たち一家は夏休み、父の実家のある小さな村に来ていた。父は仕事で来るのが遅くなったので母とまだ幼い弟と3人で先に到着していた。祖父は父が幼いころに他界していたので祖母と父の兄弟とそ…

ハンドパワーZ

その夜、私と会社の同僚のJは二人で場末のスナックの前にいた。私たちはその日、とある崇高な決意を秘めていた。 店の厚いドアを開けて中にはいると女性が近づいてきて私たちは薄暗い店の片隅の4人掛けのテーブルに通された。僕たちはさっそくバーボンを注…

落日

これは私が売れない童話作家として妻と幼い娘の3人でごくごく慎ましい生活を送っていた頃の話である。その頃、私は原稿用紙だけをバッグに詰め込んで山あいの小さな町を旅するのが好きだった。それも滅多に人が訪れないような人里離れた場所を愛していた。…

猫男

1.花園家の邸内 大きな洋風の邸宅、広々とした庭。白のブラウスの娘、洋子がなにかを探すように邸内を歩いている。 洋子「バッキー、バッキーちゃん」 飼い猫バッキーを探し廻る洋子。 2.舗道 邸内を垣根越しに覗ける舗道の淵に腰をかけて、邸内を覗く男…