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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

シン・三角形の合同条件(その2)

3角形の合同には小学生でも気がつくある問題が潜んでいる。

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それは反転している場合を合同としていいのか。ひっくり返さないといけないものを合同と言っていいのか、という問題である。

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確かに3次元の場合の例で靴などを考えてみると左右反対に履くことはできない。これら2つを完全合同、反転合同と区別してみる。前に挙げた3つの合同条件もいずれも区別できない。無理に区別しようと思うと完全合同条件は次のようになる。

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このように3角形の回り方とか、場所を定めて左右というなど大人げない表現を使わざるを得ない。 前回、21の新しい合同条件を提案したがそこにおいてもこれらすべてにおいてこの二つを区別できていない。

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そこで合同と判断された2つの三角形が完全合同なのか、反転合同なのかを判別する方法を考えた。 そのアイディアは2つの三角形を線で結んでみることである。

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対応する点を結んでそれぞれの線の中点をとる。そしてその3つの点の関係を調べてみる。

まず、完全合同の場合である。

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2つの三角形は完全合同で角度θだけ角度をずらしている。それぞれの三角形の重心をg、g’とし、そこから3点に向かうベクトルをa,b,c、a’,b’,c’とする。この時の重心の中心Gから中点A,B,Cに向かうベクトルをA,B,Cとして計算すると、

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 同様にして、

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となる。ここでθだけ回転させる行列をR(θ)と表した。

結果が示すように三角形ABCは元の三角形をθ/2だけ回転させてcos(θ/2)の比率で縮小した相似三角形である。特にθ=180°の場合は、A,B,Cは1点になり三角形ではなくなる。また、特徴的なのは3本の結ぶ線の垂直2等分線が一点Xで交わることである。

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2つの完全合同三角形はこの点Xを中心とした回転で完全にぴったりと重ねることができる(平行移動は不要)。


次に反転合同の場合である。 

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パラメータの定義などは完全合同の場合と同じである。二つの三角形の関係としてはまず、任意の単位ベクトルtを考えてtに垂直な方向に反転させ、その後、θだけ回転させることとする。 ベクトルA,B,Cを計算すると、

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同様にして、

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これより、ベクトルA,B,Cはベクトルtをθ/2だけ傾けたベクトルと垂直な方向であることがわかる。すなわち、点A,B,Cは一直線上にある。 また、この直線を中心に三角形を折り返すとその後、平行移動だけでもう一つの三角形にぴったりと重ねることができる(回転は不要)。  以上より、三角形の完全合同、反転合同に関する定理が得られた。以下に整理する。

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これらの定理は三角形に限らずあらゆる図形の合同条件に適用できる。また、物の本では合同の説明に反転、回転、平行移動でぴったり重ねることができると書かれているがそれは厳密ではない。本定理によれば、完全合同の場合は回転だけで、反転合同の場合は反転と平行移動だけでそれぞれぴったりと重ねることができることがわかる。

シン・三角形の合同条件

三角形の合同条件は算数の定番メニューである。たいてい次のように決められている。

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三角形は3つの辺と3つの角から成り立っている。合計6個の変数があるということである。

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これらを対等であると考えるとどうも合同となるためにはこの6個の中から最低でも3つは一致しないといけないように見える。6個から3つを選ぶ方法は20通りある。3つの辺と角はどれかが特別という訳ではないのでこの20通りがすべて別々ではなくいくつかのパターンに分類される。

まず、この20通りについてパターン分けをしてそれぞれが合同となるか否かを調査した。その結果を次に示す。

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このように合同パターンは4つ、非合同パターンは2つの合計6パターンに分類された。ここで「③」などは組み合わせの数を示している(これを合計すると20になる)。「非合同」とは勿論合同の場合もあるが、合同でないケースも存在する、という意味である。

非合同パターンの一つは「(1)3組の角が等しい」場合である。これはよく知られた相似のケースに相当する。

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これが合同とならない理由は次の式である。

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このようにA,Bなど2つが決まるともう一つのCは自然に決定される。角の一致については2つ分の条件にしかならず3つという条件に届かない。

もう一つの非合同パターンである「(2)1組の辺と両端いずれと両端以外の角が等しい」場合である。

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これは2通りが存在し、一方は合同であるがもう一方は非合同である。これの理由はよく知られた余弦定理の形に依存する。

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この式の中で例えば、2辺(a,c)の長さと角Cが与えられたとき、本定理はbについての2次方程式の形となり2通りの解が存在してしまうのである。

以上示したように、3角形の合同条件については、最低3つが等しいことが必要であり、その3つは独立な3つでなければならない、そして4変数からなる三角形の各種定理において3つを定めた時に4つめが一意に決定される必要がある、ということが条件となりそうである。

さてここまでは算数の範囲を超えていないがこれを数学に格上げしてみる。さらに3つの三角形の変数を追加する。

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こうすると全パラメータの数は9個となる。9個から3個を選ぶ組合せの数は84通りである。この84通りはいくつのパターンに分類されるか、そして合同・非合同パターンはいくつずつであろうか。そしてどんな非合同のパターンが得られるだろうか。

結果は下記のように全部で25パターン。合同パターンが21、非合同パターンが4であった。

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非合同パターンは2つ追加された。一つは「2組の辺と面積が等しい」場合である。これは下図に示すように2通りが存在する。

  

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これは三角形の面積についての次の定理による。これを満足するθは2つ存在することによる。

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そしてもう一つの非合同パターンは「1組の辺と両端でない角と外接円の半径が等しい」場合である。

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これは次の公式より、2通りの角が存在する上に円周角の定理(3変数)によって数限りなく存在してしまうという複合的なケースである。

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こうして算数から数学に格上げしたことで21個もの合同条件を導くことができた。これらはすべて証明したわけではなく、直感的に判断したものも多い。具体的な活用シーンでは(そんなことがあれば、だが)事前に証明することをお勧めする。

この中から一つだけ証明しておく。パターン21は「面積、内接円の半径、外接円の半径が等しい」場合であるが辺、角が一つも登場していないケースである。やや複雑な計算の結果、三角形の3辺(a,b,c)は、次の3次方程式の解に対応し、その一意性から合同であることが保証される。

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逆立ちゴマ

これは友人であるF君からもらったお土産である。

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普通に軸を上にして回転させると次第に球形の方が上に持ち上がっていき最後は軸を下にして逆立ちして回転するようになる。いわゆる逆立ちゴマである。同じような挙動はゆで玉子でも見られる。丸い方を下にして回すとやがて丸い方が上側となって回る。どちらも重い方が上になっていくのでまるで逆立ちしたような印象となるのである。

この不思議な逆立ち動作をさせるのは地球からの重力であろうか。そこでコマを回転させながら空中に放り投げてみる実験をしてみる。しかしコマは安定して回転するだけで、逆立ちするような動きにはならない。つまり単純な重力が原因ではないということである。次に考えられるのはコマが回っているときの床面から受ける力の影響である。

逆立ちゴマの運動を解析するために、各種パラメータを次のように定義して実際に逆立ちするまでの時間Tを求めてみる。


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コマはほぼ球形であると考えてよい。また角運動量Lはほぼコマの中心から鉛直を向いていると考えてよい。摩擦力FによるモーメントをNもほぼ水平方向と考えられる。コマと一緒に回転する座標系での運動方程式は、オイラー方程式の形で、

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として与えらえる。このコマがほぼ完全な球であると想定すると、角運動量Lは慣性モーメントIを用いて、

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となり、ω x L の項は"0"となるので、オイラー方程式は、

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となる。でコマの軸方向(k)の成分を考えると、

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が成り立つ。これについては、

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という作図から、

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が成り立ちこれを代入すると、

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を得る。これにより、角運動量L、摩擦力によるモーメントNが一定ならばコマは一定の速度で立ち上がっていくことがわかる。つまり、逆立ちゴマを逆立たせる原因は床面から受ける微小な摩擦力なのである。本式から逆立ちするまでの時間Tは、

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となる。この時間は摩擦力が大きければ大きいほど短い、つまり短時間で逆立ちすることがわかる。これはつるつるの床(例えば机の上)とざらざらの床(例えば絨毯の上)で実際に比較してみるとわかる。また、角速度が大きいほど、逆立ち時間は大きくなる。コマをゆっくり回したほうが早く逆立ちしてくれることになる。

以上よりコマを早く逆立ちさせたいならば、ざらざらの床面でゆっくりと回すことがコツとなる。

さらに摩擦係数μを導入して、具体的なコマの慣性モーメントなどの関係式、

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などを用いて計算すると、

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となる。ここで登場したについて考えてみると、

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この図のように回転するコマの赤道部分の表面の速度Vに等しい。よって、最終的に

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を得る。逆立ちまでの時間は摩擦係数μが大きいほど、そして回転速度が小さいほど短くなるが、コマの重さには依存しない。

具体的な時間を計算する。コマの半径を1cm、回転数を毎秒20回転とすれば、回転速度Vは1.3m/秒。摩擦係数μはなめらかな床を考えて0.1とすればTは1.6秒となる。

セルンの憂鬱

スイスの素粒子物理学者であるセルンは憂鬱な日々を過ごしていた。

セルンは素粒子物理学の発展にかかせない電子と陽電子の粒子加速器の建設を提案した。提案が採用され完成したのは1989年のことだった。そこからすでに10年が経過していたのだが目立った成果はまだ出せていない。最近では若い科学者たちの関心は重力を作り出す粒子の方に移っていて新たな粒子加速器を提案する動きも出始めている。セルンとそのチームはそんな焦りの中にいた。

セルンたちが抱えている問題は粒子加速器を加速するために必要な磁界の制御がうまくいっていないことだった。正体不明のノイズにより粒子の加速が思うようにできない。セルンはデータを眺めてみた。 

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これらは年間を通した季節変動と一日の中の変動であり、それぞれ特徴がある。

ーこのノイズの正体がつかめてそれが対策できればいいのだが。

ちょうど季節は春で磁界ノイズが増加し始めていた。ノイズの影響で実験もうまくいかないのでセルンは気分を変えてみようと研究所を抜け出してレマン湖のほとりを散策していた。レマン湖は研究所から2km程度の距離にあるアルプスの膨大な水をたたえた美しい湖である。セルンは湖のほとりにあるベンチに座って湖水とその背景にあるアルプスの山々の稜線を眺めていた。山々の雪は解けかかり美しいモザイク模様を描き始めていた。レマン湖にもその雪解け水が流れ込んでいて湖面はいつになく高く、豊かな水をたたえていた。

セルンはそのとき磁界のノイズはデータが頭をよぎった。あのデータもちょうど3月下旬の今頃に急に増えてきてそれが夏まで続いている。セルンは叫んだ。

-そうか、あれは雪解け水だったのか!

セルンは思わず駆け出してレマン湖のほとりのコルナバン駅まで行き、電車にのって研究所へと急いで引き返した。研究室に走りこむとその仮説をみんなに披露した。誰かがレマン湖の湖面の高さの変化のデータを持ってきた。もう一人は湖の水量の変化を計算してそれから重力を導き出し、それをもとに加速器にかかる引力から形状の変動量を計算して言った。

-1mmです!

加速器レマン湖の湖水からの引力の影響を受けて変形するのである。その量は1mm程度ではあるが、粒子のレベルでみるとその影響は計り知れない大きさとなるのである。こうして磁界ノイズの謎の一つが解けた。

続いて一日の変動である。セルンは一日周期のゆったりした変動の原因はなんだろうと考えた。レマン湖の影響のアナロジーからセルンはすぐに気が付いた。セルンはカレンダーを取り出してそれとデータと比較してみて叫んだ。

-これは月だ!

セルンがみていたのは月齢カレンダーであった。一日周期の変動の要因は潮の満ち干だったのだ。スイスという国は内陸奥深くにあって勿論海は遠く離れている。しかし地球規模の潮の満ち干による海水の移動量はレマン湖よりもはるかに巨大だ。それを受けて重力が微小に変化し、加速器に微弱な影響を及ぼしているのだった。それまでスイスに住んでいて気にしたこともなかった海からの影響を目の当たりにして素粒子との戦いは地球規模のスケールとの戦いも含んでいることに物理学の奥深さを実感させられた。しかし、まだ謎は残っている。

残るは一日のデータで観測されるパルス状のノイズであるが、発生の時間帯をみると朝5時くらいから深夜まで続いている。セルンは一日の最初のパルスの時間を正確に記録して国営鉄道TGVに電話をかけた。そしてジュネーブ発パリ行きの始発電車の発車時刻を尋ね、その答えを聞くとにやりと笑った。そう、電車が研究所を通り過ぎる時刻とパルスの時刻は完全に一致していたのであった。このパルスノイズの原因は研究所の近くを通り過ぎる電車の影響だったのである。

こうしてすべての謎を解明したセルンとチームのメンバーは小躍りして喜んだ。

さて、セルンたちの次の仕事はこのノイズの対策である。レマン湖の湖水、そして地球規模の潮の満ち干、そして電車からの電磁波影響の除去である。それは苦難の道のりだった。そしてその道半ばで突然の悲劇が訪れた。今の加速器プロジェクトの中止と新たな加速器の建設が同時に発表されたのである。それは2000年のことであった。11年をかけたプロジェクトは華々しい成果を上げることなく終了を余儀なくされた。

セルンはプロジェクトの終了とともに研究所を去ることにした。研究所での最後の日、研究室に一人残って資料やデータを整理していた。加速器のデータは膨大にあったがほとんどノイズを測定したに過ぎなかった。セルンはそれを床に並べて眺めた。プロジェクトには膨大な費用をかけたが、結局の成果はレマン湖の湖水面の高さ、潮の満ち干、そして電車の時刻を測定しただけだった、それも誰にも負けないほど正確に、と苦笑いを浮かべた。潮の満ち干などこの山国スイスでなんの役に立つというんだろう、と思い至った瞬間、とある考えを思いついた。セルンはデータをカバンに詰め込むと研究所をあとにした。それを見かけたよるとその時のセルンは颯爽とその顔は希望に満ちていたという。

そしてその成果は2003年すぐに現れ、新聞をにぎわすことになった。

 

■ 2003/3/3 スイス新聞

海に接していない「大陸の島」スイス。アルプスの国スイスが「海洋戦争」で最後の勝利を収めた。2日、ニュージランドのハウラキ湾で行われた第31回アメリカズカップ(ア杯)ヨット大会決勝戦の第5戦。スイスの「アリンギ・チャレンジ」号は大会2年連続優勝に輝くニュージランドの「チーム・ニュージランド」号を45秒差で破り、見事優勝を勝ち取ったのである。スイスの大統領は「海のない山登りが伝統の国がヨット競技で勝つことができたというのは、スイスという国が人々を驚かすことができるという証拠だ」とコメントをした。勝因は?と尋ねられると「我々は潮の満ち引きを世界のだれよりも精密に知っているからだ」と答えた。

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*これは完全なフィクションである。

賢者の石

人はここを悪魔の島と呼んでいました。

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当時少年だった私が先生と二人で暮らしていた孤島には週に一度町から少女を乗せた船が着きます。島は岩塊に囲まれて草一本も生えていません。私は生まれてこの方、島から外に出たことがありませんでしたがその島が不気味であろうことは承知していました。連れてこられる少女たちが絶望的に切り立った島の岸壁を見て覚えたであろう恐怖を考えると今でも胸が痛みます。

船着場に少女を向かえに行くことから私の仕事が始まります。私がすることはまず先生に到着を伝えることでした。

-先生、材料が届けられました。
-では今夜のうちに材料の不純物を取り除く作業に入りなさい。
-はい。

私は生まれてからずっと先生と二人きりでこの建物のなかで作業を続けてきました。私は少女を連れて先生の部屋から伸びる廊下を抜けて建物中央の螺旋階段を二段上がると私の仕事場があり、さらに隣には分解室と呼ばれる部屋があります。そこで私の仕事が始まります。

私はそこで少女の服を脱がせて少女の体を隅々までお湯で洗います。今にして思えば不思議なのですが抵抗する少女はまったくいませんでした。おそらく当たり前のように手際よく作業が進むので疑問を持つ隙がなかったのだと思います。

少女の体を洗い終えると少女の原質を抽出する作業に入ります。私は少女をベッドに寝かせて頭に装置を装着し、口元に管のついたマスクをつけます。少女は心細そうに私の目をのぞきこみますが、私は、笑顔で、怖くないからね、と伝えます。やがて少女は静かに目を閉じます。

この工程を注意深く行わないと大いなる作業は成功しないのです。不純物が一切含まれてはいけないからです。つまり少女から記憶や認識の一切を取り除き第一原質にしなければなりません。私は少女の胸に手を当てて鼓動が安定するのを待ちます。安定を確認すると瞼を持ち上げて瞳孔の動きを確認します。それまで眠っていた脳細胞が全て活動を開始するので瞳孔が凄まじい速度で動くので分かります。その後、少女を一晩寝かせます。

翌朝、少女を抱えて螺旋階段を上り先生の部屋に行きます。

-先生、準備ができました。

先生はうなずくと少女を受け取り台座に寝かせていろいろな器具を使って入念に仕上がりを確認します。それが終わると自ら少女を抱き抱えて哲学者の卵と呼ばれている場所に移動します。下には大きな透明な容器があってそれが細くなって天井まで伸びています。透明な容器の下に椅子が置かれてあって先生はそこに少女を安置します。先生は振り返って私を見ました。先生の緊張が私にも伝わってきてこの空間に亀裂が入りそうな錯覚を思わず覚えます。

哲学者の卵に外部から熱した空気を送るのが私の仕事でした。私は火をつけ一心不乱にふいごを踏み付けます。強さ加減は先生が細かく指示します。

しばらくしてその時が訪れます。太陽が真上に来て天井から眩い光が降り注ぎ哲学者の卵に横たわる少女を照らします。先生はその一瞬を捉えて世界霊魂を哲学の卵に吹き込ませるのです。

少女の胸から孔雀の羽を広げたような鮮やかな虹色が出現して次第に赤い光に収斂します。こうして作業は完了して賢者の石が生成されます。これが錬金術、真の秘儀を極めた錬金術師の姿です。私はいつものようにぼうっと見とれてしまいました。先生が言います。

-この霊石を月の部屋に。
-はい

私は畏敬の念を持って答えます。先生はたいそうお疲れのご様子でした。それはそうでしょう。神のみわざ技を再現しているのですから。

月の部屋はこの哲学者の卵を中心にして巨大な球形のように広がっていました。中央を突き抜ける螺旋階段は100階ほどあったでしょうか。まるで夜空に浮かぶ月のような形をしているのでそのような名前で呼ばれていたのだと勝手に考えていました。

私は赤い光を胸から放つ少女を抱き抱えて薄暗い螺旋階段を降りて行きました。この建物は約1000年前に造られたと聞いていました。入り口の扉は開いていて、そこから赤い光が差し込んでいます。中に入ると目が眩むようでした。それもそのはず、ここには数万もの少女が眠っているからです。

私は導かれるように進みます。透明なふたが空いている場所に目的の椅子が置かれています。私は少女を椅子にそっと座らせました。少女は静かに寝息を立てています。賢者の石を胸に宿した少女は永遠にその姿を留め光は弱まることはありません。石を取り出すと少女から世界霊魂が抜けて単なる物質、つまり死体になってしまいます。そして器を失った賢者の石も輝きを失うそうです。つまり共存関係にあるということです。

私はこの月の部屋でどこまでも並ぶ容器を眺めながら歩き回るので好きでした。ふと歩みを止めて覗き込んでみると20番というかなり古い霊石の少女を見つけました。ほとんど1000年前の少女ということです。一体どんな夢を見ているのだろうかと不思議な気持ちになりました。この部屋全体には数万の鼓動が微かに響きあっています。なぜか私はここでとても安らかな気持ちになるのです。

錬金術とは人間がミクロコスモスの中で神になる術と言っても過言ではありません。世界霊魂に共鳴し世界霊魂を具体的な形で捉え直し利用すること、これが錬金術師の究極の目的です。つまりこれが賢者の石なのです。あらゆる元素の完全な本質であり、いかなる元素によっても破壊できない第五元素である賢者の石の利用方法は無限です。石を金や銀に変化させることは勿論、不老不死の霊薬にもなります。賢者の石の取得は富と永遠の若さ、健康を約束するのです。

昔から錬金術師は世界霊魂を吹き込むための器、真に純粋な物質を探し求めて来ました。大人になる前の女性、つまり生理が来る前の少女があらゆる経験や認識から解放されて眠りにつくと世界霊魂を吸収する触媒となり胸に賢者の石を宿す、私の先生はその秘儀をそのまた先生から伝授されました。先生で29代目、約1000年あまりもこの島で作業が繰り返し行われ数万体に及ぶ霊石を生成しこの月の部屋に集められたのです。

なぜこんなにも多くの、しかも取り出すことが出来ない賢者の石が必要なのかその頃の私は考えもしませんでした。ただただ早く先生のような立派な錬金術師になりたい、そればかり考えていたのです。

先生と私がいる部屋の窓から海の向こうに城のある町が見えていました。私たちに1000年もの間資金と材料を提供して来た国です。最近、この国は大きな戦争をしていました。時折、ドーンという大砲の音が響いて来ました。先生はそれについて何も話さないので私も対岸の火事のように眺めていました。

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城のある町からは毎週、連絡船がやってきます。それも最近は遅れがちになっていました。窓から連絡船を見つけました。三日遅れでした。船員が申し訳なさそうに言うには材料が海に飛び込んで逃げたということでした。船は材料のほかに食料や薬品を運んできました。戦争の影響か、この頃物資が極端に減っていました。

連絡船の他に年に一度大きな船がやってきます。先生は丁重に降りて来た人を奥の部屋に連れていきます。国の最高権力者がこの島に出向いて来るのです。大きな扉の向こうでどんな話がされているのか私にはわかりませんが先生は国から重大な仕事を任されているのだということだけわかっていました。

錬金術師は毎日、地味な仕事の繰り返しです。月の部屋から差し込む赤い光の中で原料の鉱物を砕いて粉末にしたり、薬品を調合したりです。先生はかなりの高齢にも関わらず私の数倍の仕事をこなしていました。食事の準備と後片付けが私の仕事でした。

その晩も夕食の後片付けをしていると暗い窓から遠くの方で何かがちらりと光るのを見た気がしました。私はなんだろうと窓からその方角を見下ろしましたが何も見えません。私は気になったので外に出てその場所に向かいました。島の端まで降りていって暗い海を眺めましたが何もいる気配はありません。私が引き返そうとしたちょうどそのとき、小さなくしゃみを聞いた気がしました。私は岸壁に沿って岩場を注意深く歩いていきました。すると岩影に白い脚が見えたかと思うとそれが暗闇の中に隠れるのを見ました。

-そこに誰かいるのですか?

返事はありません。さらに足場の悪い岩肌を進んでいくとそこには小さな洞窟のようなところにでました。

-きゃあ!

細い叫び声が上がり、少女が身を縮めました。

-おねがい。私、やっぱり嫌だ!

少女は海の水を浴びたまま小さく震えていました。私はとっさに船から逃げた子だと分かりました。

-怖がらないで、何もしないから。
-うそだ!私はいやだ。悪魔に食われるのはごめんだ。

少女はおびえて叫びました。

-ここには悪魔なんていないよ。
-じゃあなんでみんなこの島に入ったきり出てこないんだ?

後から知ったことですが、当時人々はここを悪魔の島と呼んで恐れていました。国の繁栄を願った国王が悪魔と契約してこの島に悪魔を住まわせ生贄を捧げていると囁きあっていたのです。

私は建物に引き返して毛布とパンを手にして戻り、それを少女に渡しました。次の日も、パンとミルクを与えました。少女はあっというまに平げました。私は

-もう一つどう?
-え?いいの?

少女は微かですがうれしそうな笑顔を見せました。私は先生に隠し事をしたことはありませんでしたが、このことだけは黙っていようと思いました。

彼女の顔は少女らしくふっくらしていましたが手や足は痩せ細っていました。貧しい暮らしをしているようです。少女は胸に飾りをつけていました。昨日の夜窓から見えた光はこれだと分かりました。少女はそれを手にして額につけると祈りを捧げました。

-お母さんがくれた。神様がずっと守ってくれるようにって。

お母さん、私はこの子を産んだ女性のことだと理解しました。その夜は城の町から聞こえる大砲の音はひときわ大きく時折砲火が海面を照らしました。少女は、とっさに耳をふさいで、

-父さん・・・

と呟きました。それから毎晩私は食事を届けて少女と話をするのが日課となりました。少女は少しずつですがポツリポツリと自分の話を始めました。戦争で父親が死んだこと、母親が働きすぎで病気になったこと、弟が三人いること。それで生活のためにこの島に行くことを決めたこと。

-でも途中で怖くなっちゃった。

私は戦争のことは書物で知識はありましたが体験した人の話は数十倍以上の重さがあることを知りました。そして私たちの国の戦況はかなり悪化していることも。

-やっぱり大砲の音を聴くと痛くなるんだ。ここが。

少女は胸に手を起きました。

少女は私にも質問を投げかけましたが、生まれてから島の外に出たことがなく毎日同じ仕事をしていたので、私が少女に語れる話はすぐに尽きてしまいました。少女は笑って、

-ほんとうに何も知らないんだね。

とあきれているようでした。私はそれからも洞窟に食事を届けました。そして少女と話をしたり石を放り合って遊んだりすることが楽しくて仕方がありませんでした。

少女が洞窟に住みついてからも材料となる少女達は連絡船で送られてきました。いつものように少女を眠らせながらも、私はこの子も親と離れて胸が痛むのだろうか、そして賢者の石はなぜ胸の位置に生成されるのか、と考えるようになりました。そしてなぜ自分は胸が痛まないのか、とも。

私はホムンクルスであることで何か欠陥があるのでは、と疑うようになりました。私は先生の精子から創造されました。代々、純粋な錬金術師の血を引き継いできました。

-今日は時が悪い。中止だ。

その日の儀式は雨のために中止となりました。最近、先生は考え込むことが多くなって来ました。私は仕事のし過ぎか、程度にしか考えていませんでした。しかしその頃から先生は書斎にこもってでてこないことが多くなりました。

ある嵐の晩、いつものように洞窟の少女に食事を運んでいくと少女は毛布にくるまって横になっていました。少女はすごい熱があり肌は紫色になっていました。私は本で読んだ伝染病だと分かりました。嫌な予感が頭をよぎりました。

-今日は風も強いし海も荒れている。ここを離れて建物の中に入ろう。
-いやだ。私はうちに帰るんだ!

夜になっても風は治らず、私は一晩中彼女の看病をしました。といっても風や波しぶきがあたらないようにするだけでした。くるしそうな彼女をみて私は自分の無力さにあきれていました。私は一体これまで何を勉強してきたのでしょうか?

-神よ!どうか神よ。彼女の体から悪魔を取り除いてください!

私は風と波に向かって叫んでいました。そして私は祈り続けました。これまで材料の少女たちの失敗した死体を幾体も見てきた私がたった一人の少女の生を必死で祈っていたのです。

やがて嵐はおさまり洞窟にも朝日が差し込んでいました。少女のそばによるとうっすらと目をあけました。顔色から紫色が抜けてやや赤みがさしていました。少女は僕に気が付くと、

-ありがとう。

と小さな声で言いました。私は奇跡がおきたのだ、と有頂天になりました。それを先生に伝えようと思って建物に戻ってみると先生は窓から町の方を眺めていました。そしてゆっくりと右手を持ち上げて窓の向こうの町を指さしました。私は窓越しにその指さす方を見ると・・・町は凄まじい炎に包まれていました。

それと同時に地底から轟音が鳴り響き、島全体が大きく揺れはじめました。まっすぐに立っていられないほどでした。先生はというと体全体から気力が抜け落ちたようにして隣の部屋に向かって歩き出していました。私は先生も気になりましたがそれ以上に心配になったのは洞窟の少女のことでした。私はあわてて建物を飛び出し洞窟へと向かい少女を連れて建物に戻ってきました。そして先生を探して歩き回りました。月の部屋にいくと先生は哲学者の卵の椅子に腰をかけていました。目は開いたままでしたが動きません。床には薬の瓶が転がっていて中の液状の薬が流れていました。私は先生に何がおきたのか理解できませんでした。

-・・・先生、これはどういうことですか?

先生の手元には私宛の手紙がありました。

我が弟子、我が息子よ。これは偽りのない真実である。
太古の昔、人びとは世界霊魂を自在に操れる術を知っていた。世界完成の原理を求めた人々は上なるものと下なるものの力をとり集め、完璧にして巨大、神の仕事に極めて近い賢者の石を生成し、これを地球の周囲を回るよう天空に浮かべた。これはあらゆるもののなかで最強の力である。太古の人々がなぜこのような仕事をしたのか、そしてどのような術でこの偉大な仕事を成し遂げたのかはすべて謎である。
この真実を知った我ら錬金術師の偉大な祖はこの大いなる石を取り込み、謎を解明すべく絶え間ない地道な努力と忍耐を持ってこの孤島で小宇宙を作り上げてきた。少女達の宿す霊石は全体で一つの力となり、その霊力は地上から天上へと上り天空の大いなる賢者の石はこの霊力に引かれ必ずや地上に降りて大いなる壺におさまったことだろう。

我ら錬金術師の祖の知的探究心はこの国の王の政治的な野心は利害が完全に一致した。あれを手に入れたなら全世界を手に入れることに等しいからだ。

私たちの目標は月を手中に収めることであり、その月さえ太古の錬金術師が創造したものだったとは。神をも怖れぬ錬金術師の探求心の深さ、業の深さに鳥肌が立ちました。

我が錬金術師の祖と時の王はある契約を交わした。もしも国が滅ぶようなことがあれば城の落城とともに連動して地下深く城へと続く装置がこの秘術の全てを海の底に沈めるような作動する。仕事部屋から16周下ったところに生命の扉がある。そこから外界へ延びる道がある。

私は少女を連れて無我夢中で走り始めました。そして螺旋階段を下りていきました。生命の扉は開いていてそこから険しい岩に囲まれて暗い道がどこまでも続いているのが見えました。私は驚きのあまり声も出ない少女の手を引いて道を降りていきました。地響きは続いていました。やがて岸壁が途切れて視界が広がるとそこは小さな船着き場がありました。

-船だ!

私は少女を船にのせると炎に包まれた町を目指して夢中で漕ぎ出しました。地響きはさらに大きさを増して波も荒れて逆巻いていました。やがて私は我に返ると島全体を見渡せる沖合にまで来ていました。相変わらず海底から轟音は鳴り響いていました。

我が息子よ、行きなさい。あの少女とともに。
お前には外界で生きる術を何一つ教えてこなかった。
これから先、お前の人生は苦難に満ちているだろうか、生きなさい。そして生の喜びをその手の中に。

私が生まれて初めて涙を流した瞬間、最期の時が訪れました。始めに周囲の岩が崩れ、次に建物の壁面が崩れ落ちるとそこには巨大な球体が出現して細かい亀裂から少女達の赤い光がもれだしていて、それはまさしく月でした。

やがてその月は静かに海の底に沈んでいきました。


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これが偉大な錬金術師の父の最期でした。私は生まれて初めて胸の痛みを感じていました。そして小舟の中で恐怖に震えている少女を思い切り抱きしめました。

こうして数万の少女達は永遠に少女の姿のまま、この先、何万年も何億年もこの海の底で静かに赤く光続けることでしょう。
空に浮かぶ月と向き合いながら。

 

天空の船・ラピュタ(後篇)

前回示した日付変更線を切り込みを入れた世界地図を示した。

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この地図上で右の端が地球上でもっとも時間が進んでいて、左端がちょうど24時間最も遅れている。全世界各地の時間はこの違いを保存したまま一日24時間のペースで時々刻々と変わっていく。

このことは宇宙の時間軸の上でこの地図が進んでいくと考えるとわかりやすい。時間軸の上で日にちごとの刻みとそれに対応した昼と夜を図示したものが下図である。
 

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地球上の任意の点はこの宇宙の時間軸の上を時間の方向に流れていく。図の灰色の部分(午後6時から午前6時まで)が夜の時間帯となる。

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こうして考えると地球とは宇宙開闢以来の時間軸の上を旅する船のようなものである。この船の上では場所が決まれば時刻が決まる。

この船は24時間という時間の幅が決められている。これを超えてしまうとこの船に乗っていることはできず、振り落とされてしまう。そうならないように決められたのが日付変更線である。どんなルートで旅をするにしてもこの船の上に残ることができればその場所に対応する時刻に到達することができることになる。

前回説明した4つのフライトのルートを採った時に地図上でどのように動くかを見てみる。

まず、日付変更線をさけてニューヨークに向かった慎重派のA君。

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北極点を迂回するときにかなり高速で24時間分時間を戻ってからニューヨークに到達する。 

続いて普通に日付変更線を超えたB君。

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日付変更線を東向きにまたぐ瞬間、時計は24時間戻されてからニューヨークに到達する。

次は日付変更線を西向きに通過したC君。

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まずはA君と同じように時計は24時間過去に戻され、日付変更線を西にまたぐ瞬間に24時間時計は進められる。そしてまたA君と同じルートで24時間また戻されてニューヨークに到達する。

最後は、日付変更線の端、つまり北極点上を通過したD君。

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北極点はこの地図の上のラインに相当する。地図上はラインとなるが実際は一つの点であり、このライン上の点はすべて北極点を表す。従って、この北極ラインにはどこからで入ることができて、まるでワープのようにどこからでも出ることができる。

厳密に北極点のちょうど上を通過した場合、この図のようにワープしてニューヨークに到達する。北極点から少しでもずれた場合についてはA君もしくはB君と同じようにして、ニューヨークに到達することになる。

以上より、A君からD君の4人は同じ地図の上でニューヨークに到達することができる。つまり、同じ時刻にニューヨークに到着するのである。

以上で解説は終わるが、普通、一日とは何だろうかと考えると「お日様がのぼって沈むのを見ることだ」と理解している人もいるだろう。それは地球上のある点に一生涯じっとしている人から見たら正しいのだが、日付変更線をしょっちゅうまたぐような人からみたら正しくない。

カレンダー上の日数と、太陽を基準とした日数、そして日付変更線をまたぐ回数については次の等式が成り立つ。


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ここでは、公転面と地球の地軸の傾きがない場合を想定している。つまり白夜のような事情は考えていない。

ちなみに私においては日付変更線をまたぐことはあったが、必ず引き返すパターンだけだったので、二つの日数に差はない。大抵の海外旅行とはそういう形であろう。つまり、この差とは世界一周旅行の回数の分だけ、と言い換えてもいいのである。