★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

バーコード・アート

先日、久しぶりにチョコレートを買った。

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子供のころとパッケージはあまり変わっていない。国の固有名詞を大々的に表示するデザインは時代を感じさせる。裏側は、

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右下にちょっと気になる絵柄が。

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バーコードと見せかけてチョコのデザインである。銀のアルミの包みが絶妙に図案化されている。

このように赤を基調としたデザインの中だと、このバーコードの白い表示はじゃまで味気なく全体のバランスやイメージを崩してしまう。そこでこれがデザイナーの苦肉の策なのだろう。

同じようなものをロンドンで見かけた。

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スーパーで買ってきたカップラーメンである。裏面を見ると、

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ノブヒコサンタ

クリスマスイブのことです。

夕暮れ時のショッピングセンターはプレゼントやケーキの袋を抱えた家族連れや恋人たちでにぎわっていました。そんな中、一人のスーツ姿の男が丸いベンチに座っていました。精悍でがっちりとした体格でいかにもバリバリと仕事ができるという感じの男性でした。でも、顔色はよくありません。じっと動かずにうなだれるようにして座っていました。そして、時折、何かを思い出したように頭を抱えています。彼の前をたくさんの人が通り過ぎていきますが彼の眼には入らないようです。


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彼はふと同じベンチにもう一人の男が座っているのに気が付きました。ずんぐりとしたおじいさんで奇妙な形の赤い帽子をかぶり、柄にもなく派手な赤い色の服を着ていました。杖にあごをのせて、口元には小さな笑みを浮かべてどこか遠くの方を見つめているようでした。彼はそのおじいさんを胡散臭いと思ったものの、それどころではないという様子でまた頭を抱え込みました。

赤い服のおじいさんがつぶやきました。

「愛するんです」

隣の男は顔を上げてあたりを見回しました。おじいさんは知らぬ素振りで遠いところをみているだけでした。彼はただの独り言かと思い、それを無視してまた頭を抱え込みました。しばらくして、おじいさんはまた言いました。

「愛するんです」

男は立ち上がっておじいさんの前にたってこう言いました。

「俺に言っているのか?」

おじいさんは穏やかな表情のまま何も言わず、遠くを見つめているだけでした。

「お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるか。俺は会社でいつだって戦い続けて勝ちぬいてきたんだ」

「愛するんです」

「俺は会社だって愛してきたさ。愛してきたからこそ、会社のために自分を犠牲にしてきた。だからこうして地位も名声も得ることができた。会長だってそれを認めてくれていたはずだ。だからこそ、自分の娘を嫁にもらってくれないかとまで言いだしたんだ」

「愛するんです」

「その娘だって俺を愛してくれていると思っていた。来年の春には結婚式の予定だったんだ。それが・・・それが、たった一度の仕事の失敗だけで会長は俺を見限った。ついさっき、明日からもう会社に来なくていいと言われた。一緒にいた娘もまるで俺を虫けらでも見るような目つきで見ていた。俺は何もいわずに社長の部屋から夢中で飛び出してきたところさ」

そう言い終えると彼はその場でうなだれました。すると、おじいさんははじめてその顔を男に向けてやさしいまなざしでこう言いました。

「愛するんです。すぐ近くにいる人を愛するんです」

彼はそれを聞いてはっとしました。失意のどん底にあった彼の心の奥底で何か温かいものが火を灯すのを感じたからです。そして彼は顔を上げてあたりを見回しました。そして、遠くにある大きなの樹の下で男物のコートを片手に持ち、彼を心配そうに見守っている女性の影に気が付きました。

それはいつでも彼を元気づけてくれていた女性でした。彼にとって彼女はうれしいことも悲しいこともつらいこともなんでも話せる親友のような存在だと思っていました。だから彼は社長の娘との縁談が決まった話も彼女に第一に告げたのです。それを聞いた彼女の流した涙とそしておめでとうと言って見せた精一杯の笑顔をさも当たり前のように受け止めていた愚かな自分に気がついたのです。そしてたった今も、彼が会長の部屋から走り去るのを見て心配になってここまで追いかけてきてくれたことにも。彼がオフィスに置き忘れてきたコートを彼女はここまでもってきてくれたことにも。

彼は無我夢中でその女性のもとに走り出していました。おじいさんは二人が大きな樹の下で向かい合って立っているのを遠くで見ていました。そして彼女が彼にコートを着せてあげているときのことです。おじいさんは突然右手を大きく空に上げました。するとどうでしょう。二人を包み込むような大きな樹にはクリスマスツリーの華やかなイルミネーションが一斉に輝いて、まぶしく鮮やかな光が二人を包み込んだのでした。樹のまわりにいた人たちからは大きな歓声があがり二人を囲むように輪が広がりました。


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彼が座っていたベンチの方に小さな男の子が近づいてきました。男の子はおじいさんを指さして、

「あ、お母さん!サンタさんだよ!」

「なにを変なこと言ってるの?いるわけないでしょ」

お母さんはそういうと男の子の手を引いて歩き始めました。おじいさんが笑って手を振ると男の子もまた手を振りました。不意に男の子は顔に冷たいものを感じて冬空を見上げました。

「お母さん、雪だよ!」

お母さんも周りにいた人たちも皆空を見上げて美しい雪片の乱舞に見とれていました。男の子はまたベンチに目を落としてこう言いました。

「あれ?、サンタさん、消えちゃった!」

スカイツリーに向かって

先日、北千住駅から東武伊勢崎線に乗って、東京スカイツリーに向かった。

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出発したときには電車の進行方向にまっすぐツリーが見えていたのだがやがて電車は大きく左に迂回してツリーは電車の右の窓の方向に移動した。一向に近づているような気がしない。一体、いつになったらツリーに到達するのか不安を覚える。


勿論、距離を測る手段は持っていない。手にあるのはスマホに搭載されたコンパスだけだ。どちらの方角に向かっているかだけはリアルタイムに収集可能なのだが。

このツリーへの接近をグラフで示すと下図のようになる。

目的地のスカイツリーの場所を原点にとる。電車に乗りながら進行方向のコンパスの角度をθを測定するとθはこのグラフのように時間的に変化する。

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さて、ある経路をたどってツリーに到達するときにこの時間の関数θはどのような条件を満たすだろうか。

電車の移動する速度と位置の関係は、

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で与えらえる。これを積分形式にすると、

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となる。ここで、T秒後にツリーに到達する場合は、

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となり、これが到達を示す条件となる。このようにx軸、y軸方向の2つの式が成立しないといけない。コンパスの角度θだけを計測しながら2つの条件を追いかけるのは手間がかかりすぎる。一つの条件だけを追いかけるいい方法はないものか。

そもそもコンパスの角度は北極点を基準にしている。しかし、ツリーに向かう経路における出発点と目的地との関係に対して、北極点は第三者であり、その方向は接近とは無関係である。従って角度θ自体はどこの向きを基準にしてもかまわないはずである。

この冗長さを排除して条件をシンプル化するために、電車の進行方向(つまり)と、電車から目的地までの直線方向との間の角度φを用いることを考える。

以下の図のように、電車が常にx軸上を移動するように座標軸を回転させることとする。ここで回転の角度ψは時間とともに変化することに注意を要する。

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新しい座標系での速度v’と位置r’は、

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という回転行列を用いて、

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となる。次に、の関係式である、

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が新座標系でどうなるかを考える。これに回転を加えることで、

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ここで注意すべきは回転行列Rが時間の関数であることである。実際に左辺を展開すると、

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となる。左辺に登場した第2項は回転角度ψの時間変化に対応した項である。これを計算すると、

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となる。ここで直線方向の成分が0となるのは、この回転の成分が目的地との距離に影響を与えないことに対応している。以上より、最終的に新座標でのの関係式は、

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となる。

第一式を積分形式で表せば、
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となりこれより、T秒後に到達する条件は、

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という一つの式に帰着する。この一つの条件のみを計測することで到達をチェックすることができる。

では第二式は何を規定する条件か。これはツリーから見た電車の回転方向の動きを表している。接近を考える場合、回転運動は意味を持たない。要はどれだけ電車がどれだけ回転しようが近づいてくれさえすればそれでいいのである。


マリー・ロジェの謎

■はじめに

1841年というから180年近く前のことになるが、ニューヨークでメアリー・ロジャーズという若く美しい娘が暴行の末に殺害され、死体がハドソン河に浮かんでいるのが発見された。メアリーはタバコ店の売り場担当として近所でも評判の看板娘であったのでこの凄惨な事件はニューヨーク中でセンセーションを巻き起こし、警察はもちろん、新聞社、雑誌社の記者たちもこぞって事件の真相に迫ろうと報道合戦を繰り広げた。

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当時、ニューヨークに住んでいたエドガー・アラン・ポーもこの事件に深い関心を寄せた一人だった。

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彼はこの事件をつぶさに調査して『マリー・ロジェの謎』(以下、『マリー』と略す)という作品をリアルタイムで雑誌に投稿し、彼なりの推理を披露した。これがその作品の扉絵である。

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ここでは、この未解決事件の全貌と、ポーがこの事件をどのように推理してどのように事件に絡んでいったかのか、そして事件そのものの真相に迫ってみる。


■小説と事実の関係性

この事件とほぼ同時期にポーは代表作『モルグ街殺人事件』を発表し推理小説作家としての地位を確立していた。『マリー』はその続編という位置づけで書かれたものである。

『マリー』は事件のまっさなかに書かれたものなので固有名詞を使うのははばかられたのか、舞台をニューヨークからパリに移している。事件そのものは事実に即しているが、登場人物や新聞社はすべて架空である。したがって事実と小説の関係性を理解するのに対応関係を示す辞書が必要となる。まず、それを明らかにする。

まず、設定関係の対応を次の表に整理する。

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次に登場人物の対応関係は次の表の通りである。

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そして新聞社・雑誌社の対応関係を次の表に示す。

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なぜ、新聞社などがそれほど重要なのかは不思議に思えるかもしれない。現代でいうと事件の報道などは各社ともほぼ同一の内容なので一紙だけ読めばほぼ事足りると思ってしまうだろう。しかし当時は少し違っていた。当時の記者たちは自らの足で現場検証に赴き、独自に見つけた関係者への事情聴取などを行い、それを事細かに説明するとともに独自の推理を披露していたのである。時には名指しで犯人を特定するようなこともあった。

そしてもうひとつ重要なのはこういう時代背景の中でポーのような著名人が推理を発表するということの影響の大きさである。この事件でもポーの推理は警察の実際の捜査や取り組みの方向に大きな影響を与えた。このことについては今後説明する事件の経過の中で触れていく。


■事件の経緯

それでは本題であるメアリー殺害事件の経緯について説明する。地名、登場人物などはすべて実際の設定(つまり、舞台はニューヨーク)を用いて、調査した事実に基づいてできるだけ詳しく記載した。

1820年
メアリー
がニューヨークで生誕。父親はまもなく死去。母親ナソー街で下宿屋を営んでいた。


1840年
メアリーは陽気で美しい娘に成長。当時ニューヨークでやり手の経営者ジョン・アンダーソンが彼女に目をつけて、タバコ店の売り場担当として採用した。これによりタバコ店は大繁盛した。当時としては画期的な試みだったのでいぶかしく見る向きもあった。実際にメアリーの母親は反対だったが、アンダーソンに押し切られる形だった。


1841年:(この年、ポーは『モルグ街殺人事件』を発表)
1月、メアリーが突然店を欠勤する。行方不明となり警察も彼女を捜索したが見つからない6日後、彼女は姿を現した。そして休養のため田舎の親せき宅にいた、と説明した。しかしこの間、海軍士官の男と一緒にいた、という噂が流れる。それから2,3日後、メアリーは仕事を急にやめた。

2月、メアリーは婚約を発表。相手はダニエル・ペイン、母親の経営する下宿屋の住人の会社員であった。
7月、メアリーは婚約者にブリーカー街叔母の家に行くと告げて家を出た。ダニエルと母親が見送った。しかし、その日も翌日になってもメアリーは戻ってこなかったそれから二日後、ハドソン河ホボケンで死体となって発見された。発見者はクラムリン。叔母によるとメアリーは叔母の家には行っていなかった。死体には激しい凌辱の痕跡があった。顔にも殴られたあとがあり、服は引き裂かれペチコートもなかった。スカートの一部は腰に巻き付けられていた。

警察の捜査が開始され、いくつか重要な証言が得られた。

証言1差出人不明の手紙
行方不明となった日、メアリーを目撃した。ホボケンで船から6名の荒くれもたちと一緒に降りてきた。彼らは楽しそうに笑いながら森の方へ消えていった。それからしばらくすると、3名のきちんとした服装の男たちが小さな船で現れた。そして女性と6人の男のグループが来なかったと尋ね、正直に答えると船でニューヨークの方へ戻っていった。

証言2乗合馬車の御者アダムズ
マリーが肌の浅黒い立派な身なりの男とホボケンの船着き場から降りてきた。二人は近くの宿屋に入った。

証言3:宿屋の女主人ロス
二人連れは宿屋で休息後、森の方へ向かった。それからしばらくして森の中から悲鳴を聞いた。森はいかがわしい場所であり、それ自体は珍しくないので気にしなかった。

その後捜査の進展は思わしくない。ただ、メアリーは荒くれものたちの犠牲になったのではないか、という見方が警察の内外で広がっていた。しばらくして新たな発見とある出来事があった。

9月、ホボケンの森で遊んでいた子供が行方不明だったペチコートを発見、またMRのイニシャルが縫い付けられたハンカチも見つかる。そこには争った跡があった。
同月、この発見の直後、メアリーの婚約者ダニエルはこのホボケンの森で服毒自殺した。


▮新聞各社の見解

事件に対する各社の見解を以下に示す。ワイドショー的に言いたい放題である。

NY・ブラザー・ジョナサン紙:
メアリーはまだ生きている。ハドソン河で見つかったのは別人。理由は3日間で死体が浮かびあがるはずないからだ。死体発見者のクラムリンの証言も信頼性に乏しい。さらに彼は死体を親せきに合わせないようにしていて怪しい。真犯人かもしれない。

NY・ジャーナル・オブ・コマース紙:
彼女は家を出たというが本当なのか。彼女は町中の人が知っている有名人だ。誰も彼女を見ていないことはありえない。犯行現場は意外に自宅かも知れない。

フィラデルフィア・サタディ・イブニング・ポスト紙:
遺留品が発見された森を見に行った。スカートの一部分が灌木の高さ1mくらいのところに引っかかっているのを見つけた。凶行が行なわれたのはそこだと考えて間違いない。

NY・コマーシャル・アドヴァタイザー紙:
某紙が死体が浮かび上がる時間が短かすぎるから別人だと言っているが、3日で浮かび上がった例は5,6例もある。死体はメアリーで間違いない。

NY・エクスプレス紙:
今回の失踪の前にも、メアリーは失踪したことがある。その時は1週間ほどで戻ってきたそうだ。今回もあと1週間くらいでまた戻ってくるはずだ。

NY・イブニング・ポスト紙:
投書を幾通か受け取った。それらは同じくメアリーはニューヨーク近郊を荒らしまわる悪党集団に殺害されたのだと言っている。本社の見解もそれを全面的に支持するものである。


▮ポーの推理

『マリー』の中で探偵デュパンが語るポーの推理はこうだ。

森の中で争った形跡があること、彼女の顔に暴行の後があることは犯人が単独であることを示している。もしも集団であったならばそんなことをしなくても簡単に威圧できたはずだ。スカートの一部が腰に巻き付いていたのは死体を運ぶ手段だったと考えられる。犯行現場は遺留品が見つかった森であり、犯人は「肌の浅黒い立派な身なりの」海軍士官に違いない。動機は暴行であり、騒がれたため殺害に及んだのだ。

こうしてポーが『マリー』を発表するとポー犯人説が浮上した。この肌の浅黒い立派な身なりの男というのがポーに他ならない、というわけだ。荒唐無稽としかいいようがないが、当時、推理作家として大きな名声を得ていたポーの推理は実際の捜査においても大きなポジションを得ていて、この推理が真実であると思われていた節がある。警察もこの推理を無視することができなくなっていたのである。

1849年、事件発生から8年を経過してポーが死去する。警察はポーの推理の通りに犯人と思われる海軍士官の特定を進めたと思われるが、結局それは果たせずに事件は迷宮入りとなって現代に至る。


▮その後から現代へ

ポーの死後、彼の全集が刊行された。当然この『マリー』も代表作の一つとして収録されているのだが、ポーはこの作品にいくつか脚注を追加している。その中の一つがこれである。

*この作品が発表されてからずいぶん後になされた二人の人物(そのうちの一人はこの物語のドゥリュック夫人である)の告白が単に結論だけにとどまらず、また、その結論へと到達するための重要な細部の仮説をも十分に裏書していたということはここに記録して置いて差し支えないであろう。

事件自体は全く解決していないというのにこの自慢げな言いっぷりは気に入らない。ここでいうドゥリュック夫人とは、宿屋の女主人ロスである。それにしても彼女はどんな告白をしたのだろうか。もう一人の告白とは誰でどんな告白なのだろうか。それ以上になぜ、ポーはそれを詳しく紹介しないのだろうか。

これがずっと気になっていたのだが、最近この告白に関する文献を入手した。それを読んだところ驚くべき事実が判明した。

まず、もう一人の告白者というは店長のジョン・アンダーソンである。彼自身も事件発生当時から警察の事情聴取を受ける重要参考人であった。なぜなら当時、彼がメアリーに多額の金を渡していたことが判明したからだ。警察はメアリーとの関係を追
したが、彼は否定した。その点は告白においても変わっていなかったが、彼は事件発生当時から精神に異常をきたし、晩年亡くなるまでメアリーの幻影、つまり亡霊におびえて暮らしていたというのだ。

そして女主人ロスの告白。彼女は当時、もぐりで堕胎稼業をしていた。そして告白したのはメアリーが堕胎の失敗で死亡したという衝撃の事実であった。

これらより事件の全貌が見えてくる。

まず、メアリーの1回目の失踪は、堕胎手術であった。父親はおそらくアンダーソンであろう。彼はその費用を支払ったに違いない。そして事件発生前の失踪、こちらも2回目の堕手術のためだった。行先は女主人ロスの宿屋である。御者アダムズがみたという浅黒い肌の立派な身なりの男はその施術師である。手術は失敗に終わりメアリーは死亡する。女主人ロスは裏稼業の発覚を怖れて、メアリーが暴行で殺害されたことにしようと考える。おそらくロスには彼女を助ける男がいたはずだ。男は死後のメアリーに暴行を加え顔に殴られたような跡を残す。そして死体をハドソン河まで運んで遺棄する。一方で匿名で警察に手紙を出して荒くれの男たちと一緒にいたことを演出する。検死で検出された凌辱の形跡とは実は堕胎の手術痕だったのではあるまいか。当時の法医学のレベルから考えるとそれが妥当だ。それからロスは森の中に争った形跡を作り出し、メアリーのペチコート他の遺留品をそこに遺す。そして、ロスは自分の子供にそれを見つけさせたのだ。

あとは推測だが、メアリーの母親は娘の堕胎を知っていたのだと思う。ロスに相談したのは実は母親だったかもしれない。では婚約者ペインはどうか。恐らく二人目の堕胎の父親はペインだったと思われる。しかし彼はメアリーが身ごもったことも知らされていなかった。事件発生後、ペインはその事実を母親から聞かされる。そしてそれが彼の自殺の大きな引き金となった・・・。

以上がメアリー殺害事件の推測を含めた真相である。恐らくポーも当時、同じ結論に到達していたと思われる。その発表は彼のプライドが許さなかった。真実を隠して自分に都合のいい部分だけ引用したのは虚栄心以外の何物でもない。しかし歴史は残酷でこの事件はポーという著名人の名声とその作品の影にその真実が埋もれてしまうことになった。小さな木の葉一枚が月を覆い隠してしまうように。

ちなみにこの事件は映画にもなっている。

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柿の実定理

今年の柿は不作だった。

第一の原因は、夏場に雨天が続いて十分な日照時間が確保できなかったことである。さらに追い打ちをかけたのが台風19号である。熟した実が暴風雨を受けて一夜でたくさん振り落とされてしまった。

それでもけなげに耐え抜いてくれたのが彼らである。

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ちょうど20個であった。これを積上げてみると一辺の長さ4の三角錐がきれいに出来上がった。

いきなり数学の話になって恐縮だが、d次元の三角錐を考える。一辺の長さをnとしたときに、三角錐を構成する柿の実の数を、

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と表す。一番わかりやすい2次元の場合(三角形)を考えると、

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柿はこのように積み上げられ、長さnの柿の実の数は、

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で与えられることは有名である。幼少のガウスがこれを発見したという話もある。次に3次元を考えると長さが1~nの三角形を積み上げていくことになる。この操作を一般のd次元に拡張すると、柿の実の数に関する漸化式は、

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となる。3次元の場合でこれを計算すると、

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となる。今回、収穫した20個の柿については、

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と記述される。

4次元以上の場合も同様の漸化式で計算することになるが、その計算は次元数が増えるに従って複雑化してしまう。もっとわかりやすい計算方法はないだろうか。ということで、2次元、3次元の式を並べてみる。

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これらはどこかに見覚えがある。それは分子の掛け算の順序を入れ替えるとわかりやすい。

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これから次の定理が予想される。

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これを数学的帰納法で証明する。

(1) d=1の場合、三角錐を想像するのは難しいが、

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と考えれば、

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であり、確かに成り立つ。

(2) d=k次元で成立すると仮定する。すなわち、

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d=k+1次元について漸化式を用いて計算する。

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つまりk+1次元でも成立する。

以上より、すべてのd次元について成立することが証明された。この過程で、下記の恒等式を使用した。

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この恒等式パスカルの三角形において、斜めに並んだ数の総和がすぐ斜め下に登場するという原理を示している。

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三角錐に関する定理が同じく三角形の原理から導き出されることは決して偶然ではない。

今回の1,2,3次元のnに対応した柿の数の列を書き出してみる。

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これらの数列は、パスカルの三角形の上にきちんと並んでいる。

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今回の柿の数である20もすでにここに登場していた。こうしてみると、パスカルの三角形が柿の個数を数えるために存在していたような気がしてくるから不思議である。

みちのくフィギュアみやげ(補遺)

前回、n種類のフィギュアをランダムにr個購入したときの順列の中でn種類がすべて含まれる順列の数は

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であることを説明した。これのn=2,3,4の場合の具体的な式は、

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であり、大変分かりにくい。これを数表として書いてみると、

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これを眺めて、何らかの法則を導き出すのが本稿の目的である。

まず、定義から次の①が予想される。

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分母はn種類をr回購入したときの順列の総数なのでこれはr個購入したときにn個がすべて揃う確率を表している。それが1に収束するということは、rがnを超えて大きくなればいつかはn個が揃うのは時間の問題である、ということを示している。これを数学的に証明すると、

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となる。また、n、rが1の場合については、直接計算すると次の公式群が成り立つ。

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ここまではあまり面白くないが、特徴的なのは次の公式である。

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前者は数表の右上半分が0であることに対応し、後者は斜めの数、1,2,6,24,・・・がn!になっていることに対応する。

これらは直感的に理解しやすい。前者はn種類そろえるのにnより小さいr回では揃うはずがないことを表している。後者はrとnが等しい場合であり、このときn種類が1個ずつきれいに選ばれる。となると求める数列はn個の単純な並べかえの順列に等しい、ということである。

数学的に導くには次のような解析的な方法がある。
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という2項級数の式に対して、①xで微分する、②x=1を代入する、③両辺にxを掛ける。という操作を繰り返す。

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そして、一般的に、

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が得られる。

後者の延長で「ではrがn+1の場合はどうなるか?」という疑問がわく。この場合は、

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という何とも言えない式となる。n+2以降はさらに複雑化して書き下せない。

S(n,r)については漸化式として次が成立する。

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この式の直観的な説明は次のようになる。r回目をひいてn種類揃っているということからその1回前はどうだったということを考えると、すでにn種類揃っていたか、あと一種類足りなかったかのどちらかである。n回目はn通りあるのでこの式が成り立つ。

数表の上で見てみると、どこでもいいので左右で隣り合う2つの数字を足し合わせる。それをn倍化したものが、右側の数字の下の数字に等しい。この漸化式は数表を作っていく上で非常に重要である。

以上が基本的な性質となるが、他にはどのようなものがあるか。

計算の支障となっているのはSの式の複雑さである。そこでSに変わって次のS’を導入する。

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これを用いると、数表は次のようになる。

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この表を眺めながら規則を探してみる。例えば横一列をすべて足すと0になることはすぐに気が付く。同様にして他の法則を探し続けた。その結果、次のような公式群を発見した。⑧以降はもともとの問題の枠をはみ出してrが0や負の数の場合も扱っている。

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これらは計算上は成り立つのだが、みちのくフィギュアみやげの問題にどのように絡んでくるかは不明である。

前回記事でn個そろえるのに必要な回数の期待値E(n)を計算してそれが、

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であることを示したが、今回の結論を使うと、

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と書き表せる。rがー1と負数なのがポイントである。これがはたして偶然なのか、なんらかの意味を持つのかについては今後の宿題とする。

以下、rが0や負数とした場合も含めた数表(S、S’)を参考付録として示す。

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