国語の授業中のことだ。みんなで詩をかいてみることになった。そこであっくんが書いた詩はこんなだった。
いつも煙をはいてる煙突
たまには煙をすってみろ
うん、素敵だ。あっくんの家は銭湯だったから煙突はなじみが深かったのだろう。
理科の授業中のことだ。血液の構成について先生は赤血球、白血球とあとひとつは何でしょうか、とたずねた。あっくんの答えはこうだった。
ケツコイタ
先生は違います、血小板(けっしょうばん)です、といった。
卒業をまじかに控えた授業は卒業文集に添える自分の好きな言葉を書きなさい、というものだった。あっくんはこう書いた。
五十歩百歩
それがあっくんの名前とともに卒業文集に載った。それから50年近い歳月が流れた。
最近、夕暮れ時に橋の上から煙突を眺めていたとき、不意にあっくんの顔が浮かんだ。
ケツコイタ。あれから僕は血小板という言葉を使ったことは一度もない。思い出したこともない。つまり、僕があれをあっくんと同じようにケツコイタと覚えていたとしても人生においてまったく支障がなかったことになる。
そして五十歩百歩。その当時は気がつかなかったのだが、あっくんは「千里の道も一歩から」というような意味のことを言いたかったんじゃないか、と煙突を見ていて気がついた。そして一人で橋の上で大笑いしたのであった。
忘れがたい素敵な友達の話である。