沖を行く貨物船から汽笛のホルンが港町に響き渡る。ランドマークタワーの69階にある展望フロアから暮れなずむ港町の風景を眺めていた。
現代的な高層ビル群と歴史的な建造物が一つの夕映えの中で溶け合いながら港町の物語が壮大な絵巻物のようにつづられていく。
夕陽が富士山麓に落ちていくとタワーには富士山の影ができる。この夕陽と影の境界線はタワーの最下階から始まりやがて頂上へと達する。この瞬間を境にみなとみらい一帯は夜のとばりの中へと落ちていく。
このタワーに投影されるこの夕陽と影の境界線はどのくらいの速さでタワーを昇っていくのであろうか。
境界線の高さをx、夕陽の傾きの角度をθ、タワーから富士山までの距離をLとすれば、上記の作図より、
が得られる。ここで、θは非常に小さいことから、
と近似できる。角度θについては、夕陽が等速円運動をすることからその角速度は一定値であり、これを実際に計算すると、
となる。
境界線がタワーを昇っていく速度vは、
で求められるので、富士山との距離L=80kmを用いて実際に計算すると、
という等速度運動となることがわかる。タワーの高さは約300mなので昇り始めから終わりまでの時間は1分弱である。このタワーの中には日本最高速のエレベーターが設置されている。その速度は750m/分らしいので、エレベーターはこの境界線を追い抜く速度で上昇していく。
つまり、地上で日没を見た人がすぐにこのエレベータに乗り込んで展望フロアに行くと、もう一度日没を見ることができる計算である。
さて、気が付くと港町はすでに夕闇の底に沈んでいた。野毛の町に目を移せば、小さな無数の明かりが点描のように灯りはじめた。今日という一日を精一杯生きた人たちを温かく迎え入れる準備が整ったことを知らせているのである。
さて、私もそろそろ出かけることにしよう。