★Beat Angels

"Don't use the phone, People are never ready to answer it. Use Poetry." - Jack Kerouac

最後の晩餐

-え、これ、おいしい!

ハンバーガーショップで母が素っ頓狂な声を上げた。


その晩、僕たち一家は、近所のハンバーガーショップにいた。ここにくるまでの間、父と母は車の中でずっと言い争いをしていた。いつものことなので僕は気にとめず、持ってきた車のおもちゃで遊んでいた。いつもなら僕の世話ばかり焼いているはずの姉はずっと黙ったままで窓の外をみていた。

ショップに入って席に座っても父と母は険しい表情をしたままで何も話をしなかった。僕はひとりはしゃいでいて、ハンバーガーにフライドポテトを入れて食べてみた。それが意外なことにおいしかった。

-あ、これおいしい!

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-そんなことおやめなさい。

姉がたしなめた。

-やってごらんよ。おいしいから。

僕が言うと姉もおそるおそるやってみた。

-あ、ほんと。おいしい。

姉は驚いてそういった。それを見ていた母も同じことをした。静かな店内で素っ頓狂な声を上げた母は気恥ずかしいのか、あたりを見渡して小さくなっていた。

僕たちがショップをでると外は雨だった。みんなで駐車場の父の車まで走っていって乗り込んだ。母は助手席。後部座席は僕と姉だった。車が走り出すと母はいつものように小言を言い始めた。

-あなたはいつだってそうなの。今日は家族一緒での最後の夕食だって言うのになんの準備もしないんだから。最後の夕食がハンバーガーになっちゃったじゃない。

運転席の父は黙っていた。僕は車のおもちゃをもてあそびながら「最後の」という意味がなんだろうと考えていた。姉はショップの中で途中から黙りこくっていたが、突然、僕に向かって言った。

-あんたはだめな子なんだから今度の家ではしっかりしないとだめよ。毎日ちゃんと歯を磨いてねるのよ。明日の学校の準備もしないとだめよ。遊んでばかりじゃだめよ。学校が終わったら早く帰ってくるのよ。ちゃんと勉強するのよ。それから・・・それから・・・。あなたは本当にだめな子なんだから・・・

姉は顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。何を言っているのか自分でもわからないようだった。それから父と母は何も話さなかった。

やがて車は母の実家の家の前についた。僕と母はそこで降りると、祖父母が出迎えに出てきた。父と姉は車から降りることもせず、僕たちを残して走り去っていった。姉は後ろのガラスから僕にずっと手を振っていた。

それから僕にとって父と姉のいない生活が始まった。


ある日の昼下がり、僕は仕事の出張先からの帰り道で駅前のハンバーガーショップに立ち寄った。学校帰りの高校生たちや親子連れが楽しげに話をしているのをみてあの最後の日のことを急に思い出した。そして食べかけのハンバーガーにフライドポテトを入れて食べてみた。それから僕は携帯電話を手にして電話をかけた。

-あ、お姉ちゃん。いつもと一緒で家の中はぎやかみたいだね。いや、別にこちらも変わったことはないよ。ちょっと急に思い出したもんだから電話してみただけさ。もうすぐ3人目が生まれるんだから体には注意するんだよ。いや、だから別に変わったことなんて何もないって。