北国ではストーブの季節を迎えている。先日、寒い部屋で灯油のストーブをつけて部屋が温まるまでの間、ストーブの炎をぼんやり眺めていた。
炎はよくみると一つではない。ストーブの芯は円筒型の耐熱ガラスで覆われていて炎の光がガラスの内側で反射するからである。
ストーブ内部では反射は幾度となく発生するので円筒内での光のルートは複雑だが、
仮りに炎とガラスが等間隔で並んでいると考えるとわかりやすい。例えば4番目の炎はガラスで3回内部で反射した後、最後にガラスを透過して外にいる人の目に届く。
さらにストーブの炎に目を凝らしてみると、
複数見える炎の色は同じではない。上に向かうに従って赤・橙色から黄色・緑色、そして青色へと変化している。人が見える光の波長は400nm~700nmの範囲であり、色は波長で決まる。赤色はその上限の700nm近辺、紫色は下限の400nm近辺である。見え方として上に見えるということは上図で示したように円筒内でのガラスの反射の回数が多いということである。
さてこの青方遷移ともいえるこの事象は物理的にどう説明されるのだろうか。
まず、炎そのものの色について調べた。
グラフの中で今回の対象である油焚燃焼炎の可視光範囲を赤で囲んでいる。肉眼で受ける印象の通り、波長の長い赤・橙の色は強く、波長の短い青・紫色は弱い。先に青方遷移と書いたが実際には波長そのものが変化することは考えにくい。今回の現象は、円筒内で光が反射するたびにこの波長の大きい赤・黄色側の光が徐々に減衰していき、中心波長が微妙に変化していくことが理由であると考えられる。
次にガラスの反射率の波長依存性を調べてみた。一般のガラスは透明度を重視するので可視光の範囲内では反射率が波長に依存しないものがほとんどであった。しかし、耐熱ガラスを調べていた時に、今回の事象に合致する特性のガラスを見つけた。その製品名はネオセラムという。
ネオセラムの反射率・透過率の波長依存性は下図のようになっている。分かりやすいように可視光の波長範囲(400~700nm)をその色で塗っている。
波長が短い範囲では反射率は大きく、波長が長くなるにしたがって反射率は小さくなる。実物の写真を見てもこのガラスは茶系の色をしており、長波長の光を透過しやすいことが予想される。
以上に基づいて、反射回数に応じた波長ごとの強さを計算した。光源である炎の波長分布データからスタートして各波長の反射率により波長ごとの反射回数に応じたレベルの推移を計算した。結果を下図に示す。
最初は光源の中心波長である赤・橙色が支配的であるが、それは反射が行われるたびに、反射率が低いため減衰し、全体に対する割合は減っていく。相対的に割合が増えていくのはそれよりも反射率が高い黄・緑色である。やがてさらに反射率の高い青・紫色の割合が大きくなっていく。
以上より、ストーブの炎の色が反射のたびに変化していく原因はガラスの材質にあることが分かった。すなわち、ガラスの反射率の波長依存性によって、反射が起きるたびに波長の割合が長波長側から短波長側に徐々にシフトしていくために起きる現象である。