5年ぶりのサンフランシスコ市街は秋であった。ユニオン・スクエアは改装工事中で閉鎖されていたが、それでもいつものように市内は大勢の観光客でにぎわっていた。
ここパウエル通りは急な坂を上るようにケーブルカーが走っている。マーケット通りとの交差点が出発地点であり、ケーブルカーはここで回転して向きを変える。おなじみの観光スポットである。
このすぐ近くに「ジョンズ・グリル(John's Grill)」という老舗のレストランがある。この店はダシール・ハメットのハードボイルド小説「マルタの鷹」に登場する。ハンフリー・ボガート主演の映画でも有名である。
ボギー。トレンチコートと帽子、そしてタバコ。映画の中の彼は冷酷に敵を追い詰めていく。それは悪党に同情したくなるほどである。しかし最後にさりげない友情を垣間見せたりして憎めない。
この店の創業は1908年、100年以上の歴史を持つ。夜になると2階席でジャズの生演奏も聴くことができる。
店内には当時の写真がたくさん飾られている。
主人公は私立探偵のサム・スペード。作品の中で探偵スペードは盗難にあった「マルタの鷹」という名の像を取り戻すことを依頼され、見事に取り戻した後でこのレストランに立ち寄り、ラムチョップと焼きポテトそしてスライスしたトマトを注文したのである。その料理は今でもこの店の定番である。
この店の2階にはこのマルタの鷹の像が展示されている。
じっと見ていると背後から銃を持った男が突然現れてガラスを破ってこの像を手にとって逃げていくシーンが頭をよぎった。残念ながらその日、ラム・チョップは売り切れだったので「John's Steak」を注文。
探偵スペード、そしてボガートになりきって食後にコーヒーを注文した。ここまではよかったがさらに定番であるタバコに火をつけようとしたところ・・・店員に早く店を出ていくように叱られた。
”ボギー、あんたの時代はよかった”(沢田研二)