★Beat Angels

"Don't use the phone, People are never ready to answer it. Use Poetry." - Jack Kerouac

特撮座標系(爆走車編)

-今日はラストシーンの撮影だ。
-はい、分かっています、監督。ラストシーンは主人公を乗せた車が爆走して崖から転落するシーンですよね。

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-車のスピードは時速100km。でもこんなシーンは町中では撮れないからミニチュアの模型を使って撮影しよう。
-100分の1のスケールですからこの4cmの車の模型を使いましょう。それに合わせて道幅とかビルの高さも全部100分の1にして製作しました。車の速度も100分の1の時速1kmで動くようになっています。

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-なるほど。本物と同じように撮影できているな。それでは次は崖から車が転落するシーンだ。車は時速100kmでそのまま崖から飛び出すんだ。

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-実物の場合で既に計算してあります。落下の時間は4.5秒、落下する地点までの飛距離は124mとなります。
-この5秒間はとても重要だ。観客も同じ飛翔感を味わうことになるからな。
-では、模型を使って撮影します。

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-あれ?なんだか拍子抜けだな。私には転落にしか見えなかった。映像で見てみよう。

 

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-落下時間はたったの1秒足らず、距離も10mくらいしか飛んでいない。これじゃだめだ。
-おかしいな、車はちゃんと時速100kmで飛び出しているように見えるのに。
-しかたがない。スローモーションで撮影することにしよう。
-はい、時間の流れを10分の1にしてもう一度撮影してみました。 

  

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-じゃあ、映像を見てみよう。

 

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-あれ?確かに車はゆっくりと落ちるようになりましたが、車のスピードもゆっくりになっちゃいました。飛距離も10m程度と変わりません。
-スローモーションにしたんだから当たり前だ。これじゃ自転車の墜落だ。
-じゃあ、車のスピードを10倍の時速1kmにしてもう一度撮影します。 

 

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 -こんどは結構飛びましたね。では映像を見てみましょう。

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-これで一通りクリアできました!
-よし、これで撮影終了だ。ご苦労さん。


さて、このように100分の1のスケールで撮影するとき、車の速度を10分の1にして時間の流れを10分の1の速度にすると重力の影響をきちんと再現できるということはどう説明されるのだろうか?

空間、時間のスケールを変えるというのは座標変換することである。そして、現実世界の物理法則である次の2式、

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が、その座標変換できちんと守られるかどうかがポイントになる。第1式が等速度運動、第2式が重力加速度運動である。

空間のスケールだけをN分の1にした場合は、

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という座標で表される。この座標変換後の運動は、 

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となる。等速運動はN分の1の速度にすればいいが、重力加速度運動の方はどうしてもN倍の重力がかかることになってしまう。車の例でいけば、車が急速に落下するように見えてしまうのはこの見かけの100倍の重力によるものである。これを回避するには重力がN分の1となる状況を再現するしかない。それは地球上で撮影する限り難しい。そこで次の座標系が登場する。 

 

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これで座標変換してみると、運動を表す2式は、  

 

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となり形が保存される。つまりこの座標変換に従えばスケールN分の1の世界で、現実と同じ重力加速度運動が再現されるということである。