バス、電車、駅では階段とエスカレータを使い、ビルに入ったらエレベータを利用してオフィスへと向かう。ありふれた通勤風景である。いろいろなものに乗り合わせるわけだが、バスとか電車は先に乗った人は車内の奥へと向かうので降りるときは後になる。その点、階段やエスカレータは先に乗った人が先に降りることができる。しかし2列のエスカレータでは一方は歩いてのぼることが多いのでちょっとその規則は乱れるだろう。エレベータは空いていれば順序関係はランダムに近いのだがある程度混雑してくると後から乗った人が先に降りる傾向が出てくる。
以上のような入り口と出口があって入る順序、出る順序が定義可能な物理空間においてそれらの番号がどの程度保存されるかについての評価方法とその考察についてである。
個体数をnとして、それらの入る順序、出る順序をai, biとすると個体iの動きは、
という組み合わせで表される。この対応関係をグラフで示すとこのようになる。
この例のように右上がりの場合は、順序が保存される傾向があることを表す。逆に右下がりだと順序が反転する傾向になる。今回、議論したいのは、このaiとbiの相関関係の評価である。統計学における一般的な相関係数は、
で与えられる。これをそのまま順序保存係数Fとして適用することが可能となる。
F>0では順序が保存される傾向、F<0では順序が逆転する傾向であることを示しており、特にF=+1.0が完全な順序保存、F=-1.0が完全な順序逆転、F=0は順序がめちゃくちゃとなる状態を示す。
今回のケースは一般的な相関に対して、あくまで順序のみに着目している。ai, biは1~nの数字に対応して重複欠落がないことを利用して、もう少し計算が可能である。
などを用いて、個体数nの場合の順序保存係数Fnは、
となる。特にn=10の場合は、
である。
さて、これを用いてエスカレータにおける順序保存の事情を解析する。エスカレータが一列の場合は、入りと出の順序は完全に保存され、F=+1.0である。
では、2列構成で片側は歩いて上るエスカレータの場合はどうなるか。一例を下図に示す。
エスカレータの右側だけ、左側だけに着目すれば一列の場合と同様に順序は保存されているが、両者をミックスすることで順序関係は乱れる。この場合のFを計算するとF=+0.62となる。
それ以外のケースについてこの順序保存係数Fの概略を示したものが下図である。
F=+1.0となるのは、一列のエスカレータ、それと適正に先入れ先出しが徹底管理された場合の商品在庫、そして窓口などでの待ち行列などである。
待ち行列においては図で示したような割込み者が登場するとFの値は低くなる。
F>0となるのは、階段、2列のエスカレータ、スーパーの商品、飛行機などである。
スーパーの商品の順序性を乱す要因の一つは、賞味期限を厳しくチェックしてできるだけ新しいものを選ぼうとする主婦層の知恵と努力によるものである。飛行機は高いクラスから搭乗して降りるのでこのような形となる。しかし、大多数を占めるエコノミー席の乗客の中は乗り降りの順番はランダムになるのでFの値はさほど高くない。
F=0の例はトランプのカードシャッフル操作である。ランダムになればなるほど値0に近づくであろう。
F<0となるのは電車・エスカレータの場合で、やや逆転の傾向がある。いずれも混雑してくるとFの値は小さくなる。
F=-1.0、つまり完全逆転となるのは自動車の後部座席、コンテナ船などの積荷などである。
書店の平積みの本も下から順に積んだものとすれば逆転に近い。ただ一つ例外があるとしたら一番上の本は皆が手にするだろうから上から2冊目を買うことにしている友人T君の小市民的な行動による影響である。これによると10冊の本が平積みされている場合、Fの値はそうでない場合の-1.0から-0.45へと大きく変動してしまうのでぜひ厳に慎んでいただきたい。