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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

国歌の研究(その2)

前回に引き続き、各国の国歌の歌詞について観点別に分析する。

 

taamori1229.hatenablog.com

 

■神、英雄、国王など
77カ国中、37カ国(48%)が国歌にこれらのいずれかを採用している。

 

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国歌に神が登場する割合は全地域共通に約30%と高い。現在の国王や統治者がその神の祝福とご加護によって支えられている、と王権、政権のよりどころを神に求めるケースも多い。

■自然

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17カ国の国歌に採用されている。自然の中でも山、川が人気である。アルプス、ヒマラヤ、バルカンなどは神格化されていると考えられる。スカンジナビア半島の3国がすべて自然だけを誇っているのは興味深い。

■他国
国歌は基本的には独立国家として自国民に向けたものなので他国の言及は当然数は少ない。

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韓国・北朝鮮についてはいずれの国家にも「三千里」が共通に登場する。この三千里は朝鮮半島全体を示すものである。これが祖国の統一を願うものなのか、吸収を目指すものなのかは不明である。しかし両国ともに自然の美しさを歌いこんでいてきな臭さはない。民族性によるものなのだろう。またアフリカの諸国ではアフリカ全体としての団結、結束を訴える国歌が散見され、苦難の歴史をうかがわせる。

■敵
神に並んで多いのがこの「敵に勝利する」という視点であり、27カ国に上る。

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敵だけが歌われる国が18カ国と3分の2を占める。この場合は曲想も勇ましい行進曲という形式になることが多い。神や過去の英雄の力で敵を撃退してほしい、という国も9カ国ある。特に中南米の国々ではかなりの割合で敵が登場する。植民地時代から独立を勝ち取ってきた歴史を物語っている。敵と自然は相容れないようで、両方が登場するのはインドの1例だけである。ただしそれでもガンジス、ヒマラヤが神格化されているという点では同じ系統と考えてよいであろう。

■牧歌風

さて抽出した観点での分析を試みたが、これらの観点が一つも登場しない、という国歌も少なからずある。

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なんとなく頑張って幸せないい国にして行こう、というどこか牧歌的なムードである。曲自体は無難で迫力に欠けるものになってしまうが、軍歌そのもののような国歌と比べたら、子供達でも歌えるようにという意図が伺えてほほえましいと思う。

さて、国歌の歌詞の分析は以上である。本当は音楽としての曲調についてもう少し分析したいと考えていたが意外に独特な民族性を感じさせるものは少なく、ほとんどがどこか似通ったものになっているのが残念であった。確かにオリンピックでの授賞式などで国歌が流されるがあれ?と思うような不思議な曲調はそう多くない。メロディラインだけをみれば特異性は垣間見えるのだが近代西洋音楽の和声法に隠れてしまっている。それでも8分の6拍の子の曲とか、短調の曲、そして速度が途中で変わる曲など、その片鱗はある。今回の調査は比較的大きな国が選ばれているためかもしれない。今後はもっと小さな国にも範囲を広げて研究を続けていきたいと考えている。