あるターゲットをめがけて追跡していく行動をベクトルとして表現する。
この図のようにターゲット、並びに自分の位置ベクトルをG、xとすると追跡の方程式は、
で与えられる。ここで、簡単のために両者の速度は等しく1であるとしている。
一番簡単なのはターゲットGが動かない場合である。初期状態(t=0)のG, xの位置をベクトル、Go,X0とすれば、上記追跡方程式の解として、
という直線ルートが解となることは直観的にも理解できる。
しかし、ターゲットが移動する場合(G(t))については、一般解を求めることは難しい。そこで見方を変えて、ターゲットとの距離の変化について考えてみることにする。
次のベクトルLを導入する。
このLの時間変化を計算する。ターゲットGと自分Xの速度をV、v(いずれも大きさは1)とすると、
V、vの両者の角度をθとすると、V、vの両者が単位ベクトルであることから、
となる。右辺は常に0以下の数値であり距離は近づく方向であることを示している。特にθが時間によらず一定の場合、ターゲットに到達する距離(L)と時間(T)は、初期の距離をLoとして、
で与えられる。これをグラフで示すと下図のようになる。
さて、このように角度を一定に保ちながら追跡するケースというのは普通では考えにくいが一例として4角関係の場合を示す。4角関係とは、A君はB子さんが好き、B子さんはC君が好き、C君はD子さんが好き、D子さんはA君が好き、というケースである。4人は正方形の角に順番に配置され、好きな相手に向かって同じ速度で歩き出すものとする。
すると4人はどういう経路をたどるかを示すと、
このように4人は同じ経路をたどって正方形の中心に向かっていく。4人の位置関係は常に正方形のままでそれが次第に縮んでいく。4人の経路が描く曲線は「対数スパイラル」と呼ばれる曲線である。
中心に近づくにしたがって曲線の半径は小さくなり、回転の速度は上がっていく。正方形は回転しながら縮んでいき、やがて中心点に4人同時に到達する。4角関係にふさわしいエンディングと言える。
この4角関係が上で示したグラフのθ=90°の場合に相当する。この場合の4人の歩く経路はとてつもなく複雑な曲線だが中心に到達するまでに歩く距離は正方形の一片の長さLoに等しい。この一見不思議に見える現象は次のように直観的に説明できる。
A君の立場にたって考えてみる。最初、A君がみつめるB子さんは距離Loの場所にいる。ここから二人同時に歩き始めるがA君から見るとB子さんはA君からの方向から90°方向(垂直)に向かって歩いていくのでA君に近づくことも遠ざかることもない。歩いていく過程でA君の視点からビデオカメラを回してみたとすると、そこ写るB子さんの姿はこれはB子さんが最初の場所にとどまっていてA君だけが近づいていく場合と変わらないのである。
さて、4角関係以外の場合はどうか。
3角関係の場合はグラフのθ=120°の場合に相当する。この場合、B子さんは斜めにA君に近づいてくるので距離、時間ともに2/3に節約される。6角関係の場合はθ=60°となり、この場合、B子さんは斜めに遠ざかっていくので距離、時間ともに2倍必要となる。
θ=180°の場合はどういうケースか。これは相思相愛のケースである。相思相愛のA君とB子さんはお互いに向かって歩き出す。この場合は距離、時間ともに1/2に節約され、この場合が最短となる。
θ=0°の場合がもっとも悲劇である。B子さんはA君が嫌いなのでA君と逆の方向に逃げて行こうとする。二人は同じ速度なのでA君はB子さんに永遠に到達できない。
もっと大勢、例えば50人のクラス全員(男女25名づつ)のスパイラルを考えたらどうなるか。この場合、50角形となるので、θ=7.2°のゆっくりとしたペースで全員が中心に向かっていく。実際に計算してみると、Lo=10mの場合、全員が中心に集うまで約1.3kmを約21分かけて何周も歩き続けることになる。